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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第252話 合流

 手のひらを握っては開くを繰り返し、久しぶりに得た肉体の感覚を確かめる。


「うん、いいね。魔力循環、制御能力、魔力感覚、どれも悪くない。少しばかり君の動きを見てきたが、自分の力を使いこなせていない印象だった。これなら少し慣れれば、もっと上手く力を使いこなせるようになるだろう」


 メルキオールに憑依を許可し、肉体の制御権を一時的に譲った。感覚は共有しているので、メルキオールが体内の魔力を循環させるように操作しているのが手に取るようにわかる。


 これは魔術を使う前に魔力を練り上げる作業と同質のものだ。


 肉体の制御は許可してもスキル変更まではできないので、俺が彼の望むままにスキル変更することにした。


「闇魔術“魔力吸収”だね。不死系の魔物であれば珍しくはない能力だが、人間で扱えるのは珍しいはずだ」


 地面に手をかざすと、赤黒い液体に内包する魔力を掃除機のように吸い上げた。魔力が視覚化されて見える。薄く儚く煌めく光。


 今まで魔力の残り香のようなものしか見えなかったのが、より鮮明に見える。魔眼の能力が向上しているのか。面白い……魔力の扱い方はこういう風にするのか。


 光魔術で右腕を即座に再生させ、大きく失った魔力を更に吸収して回復させた。腕を再生させるくらいの治癒は膨大な魔力を消耗するが、無制限に魔力回復の手段があるというのは何ともチート過ぎるな。


「この体は闇魔術と相性が良さそうだ。魔力変換効率も悪くない」


 そう語るメルキオールは、1つ1つ魔術の効果を確かめているようだった。



 体にまとわりつく様に雷精霊が姿を見せる。俺の顔を覗き込むなり、何かを感じ取ったのか怪訝な表情を浮かべた。


「君の精霊は僕が入り込んだことを好ましく思ってはいないらしい」


 俺の体にいるメルキオールの存在を察知したのか。ともあれ彼が敵ではないと理解したのか、距離をとるだけで何かしてくるようなことは無かった。


「君は精霊語を理解していないのだったね」


 メルキオールが手の中で見せたのは、1つの魔石だ。


 魔石に内包されたスキル、言語理解を修得した。


「僕の生前の魔力の結晶。今回の報酬の1つだと思ってくれていい」


 報酬ですか?


「久しぶりに体が動かせて気持ちがいいからね」


 俺としては魔力の扱い方を教示してくれるだけで利があるので断る理由もないのだが、くれるというのなら貰っておこう。


 これで雷精霊と意思の疎通がとれるというなら、ありがたいしな。

 

 

 まるで動物の臓物を思わせるような空間を進んでいく。


 生暖かい風が先の方から流れてくる。空気の流れがあるということは、出口かそれに準ずるものがあるということなのだろう。


 注意深く見てみると、所々に肉壁が生物の口のように開閉する場所があった。先を行ってるアルドラの気配を辿りながら、道筋をメルキオールに伝える。


 魔素が濃すぎて探知系はあまり役に立たない。足場の悪い地形を進むのも足元を調べながらだ。


「ここは僕たちの時空魔術のような働きがあるようだね。これは自分に都合のいい亜空間を作り出す能力さ。敵と戦う舞台として、自分には有利に相手には不利になるように仕向けることができる」


 脱出できそうですか?


「入ることが可能ならば、出ることも可能であるというのが道理というものさ」


 俺は意識を失っていた時に見た映像について、メルキオールに意見を求めた。


「たぶん共鳴と言う奴だろう。僕も混沌に知性があるとは知らなかった。いや、まだ知性と呼べる物かどうかはわからないけど、この接触で今まで知り得なかったことがわかるかもしれないね」

 

 魔術には体から発する魔力波動を介して、ある種の念話のように意思疎通を行う魔術などもあるという。


 意識を失い無防備であったために、本来なら無意識に抵抗する精神が、抵抗できずに混沌の魔力波動を受信したのではないかということだった。

 


「何かいるね」


 水溜まりに隠れる何かを察知する。深いところに潜んでいるのだろう。姿は見えないが、感覚の鈍くなった探知でもここまで接近すれば判断は難しくない。


 メルキオールは何かを操作するように何もない中空で指先を動かした。


 すると足元の赤黒い水がメルキオールに従う様に動き始めた。重力に逆らうような不自然な水の流れ。潜んでいた者が姿を顕わにする。魔人と共にいたグールだ。


 おそらく先にこちらの存在を察知したグールは、潜む場所を探して水溜まりに身を隠したのだろう。まぁ、このように結果として容易に発見されたわけだが。


 水流操作 創造 水刃


 熟練の指揮者のように指先を振るうと、無数の水の柱が垂直に乱立し、まるで生きた蛇のように変幻自在に動き出す。そして次の瞬間、それが全方位から襲いかかる水の刃となって隠れ潜んでいた獲物を細切れに分断した。


 グールとはいってもレベルは非常に高く、雰囲気から雑魚では無かった気がするが……何というか、凄まじいな。


 わかっていたことだが、改めて客観的に見るとスキルを複合して使用するのは強力だ。それにメルキオールのあたかも使い慣れた能力のように自在に操る様も見事だ。


 やはり魔術の扱いに関してメルキオールは俺の想像を軽く超える高い領域にあるのは間違いない。



 アルドラとの合流を急ぐため、障害物となる肉壁は火球と破壊の合成術で撃ち破って進むことにした。


 魔力消費を抑えた火球では見る間に再生してしまうのだが、現状魔力供給は心配なさそうなので大盤振る舞いだ。メルキオールは魔力を瞬時に練り上げ、S級の火球を瞬く間に生成し火魔術の破壊と合成して破壊力を倍増させた。


 放たれた業火に血溜まりは蒸発し、掠めた場所は消炭になった。壁に巨大な穴が開き、地獄にでも続くのかという黒い道ができあがった。


「この煙、生身には堪えますね。潜水スキルを併用して進みましょう」


 焼け焦げた断面は再生が鈍くなるようだ。燻る残火に、止めどなく噴き出す黒煙。視界の悪い中を進むと、ようやく見慣れた人影を発見した。


 子供の姿をしたアルドラが至る所を血に汚し、項垂れるようにして地に伏せている。いつもと様子の違う彼の姿に、俺は危機感の高まりを覚えた。


「ジンか。よもや、お主までも迷い込むとは思わなんだ」


 傍によると血で顔を汚したアルドラが、こちらに顔を向けてにやりと笑った。


「来たくて来たわけじゃ無い。それよりも大丈夫なのか?」


 問いかけにアルドラは理解が及ばず疑問の表情を浮かべた。 


 そういや、幻魔の体は魔力で作られたものだから血は流れないんだっけ。


 話を聞いてみると戦闘で消耗した魔力を補うため、血溜まりを掬い飲んでいたらしい。アルドラは森人族の特性である促進を持っているので、魔力の回復速度は人族のそれよりも速いが、時空魔術の還元を併用することで回復速度は更に高まる。還元は体に取り込んだ物を分解し、魔力として利用する魔術だからな。


 ただ魔力を回復させるためとはいえ、得体の知れない液体をガブ飲みするのは気分が良い物ではないらしく、微妙な顔を浮かべていた。そりゃそうだろ。それにしても酷い有様なので、洗浄だけでも掛けておくか。


「これが、その相手?」


 地面に視線を移すと、両腕を切り落とされ、うつ伏せに倒れる男の死体が転がっていた。


「死んではおらんじゃろ。さっきまで動いておったからな」


 アルドラが頭を蹴飛ばすと、死体だと思った男の体がびくりと動いた。どうやら生きてはいるらしい。


 パンツ1枚の半裸の男。おそらく例の魔人だろう。魔法薬の効果が切れたのか、記憶にある人物より心なしか縮んだように見える。


「なるほど、これが魔人か。なかなか興味深い。人族の魔術研究も、僕がいない間に進化を遂げてきたということかな」


 アルドラが不思議そうな表情を浮かべて俺の顔をのぞき込んだ。


「何やら妙な気配がすると思っとったが、ジンの中に何かいるな?」


 アルドラの言葉にメルキオールは彼に視線を合わせ、不適な笑みを浮かべた。


「説明も無く気がつくとは、森人族の直感は衰えてはいないようだね。直接言葉を交わすのはこれが初めてになるかな。僕はメルキオール・セファルディア。僕のことを知る人間は、アールヴの賢者と呼んだりもするよ」


 俺はアルドラにメルキオールとの経緯を聞かせた。憑依を許可し肉体の制御件を与えても強い意志があれば権利を取り返すことは容易なので、話をしようと思えば割り込むことは簡単なのだ。


「ふむ。憑依か。どうりで普段のジンよりも精悍な顔つきだと思ったわい」


「おい」


   

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