第225話 魚鱗竜の戦闘衣
黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
トライデントに魔力を込め、目の前の巨石に向けて槍を向ける。
バチバチと青白い光が矛先に灯り、次の瞬間には閃光と轟音が稲妻と共に放たれた。
トランデントに備わった轟雷は雷撃と似ているが、その性能には差異がある。雷撃A級と比べると射程距離は長く、魔力消耗は大きい。威力はやや下がるが、攻撃点を中心に余波が広がるので攻撃範囲はそこそこ広いようだ。
ただし術の発生には雷撃よりも間があるので、慣れるまでは少し使い辛いかもしれない。
射程距離が長いのは有用だな。一方的に攻撃できる手段というのは、それだけで十分過ぎるくらいに価値がある。余剰分の魔力を貯め込んで置ける蓄積も便利だし、接近戦では雷付与もある。流石はA級、なかなかいい武器だ。
「これでほどまでにトランデントを操れるとは……」
背後に隠れていたシガが感嘆の声を漏らす。
彼の要請に答え、魚鱗竜の装備一式を身に着けると、トライデントを片手に表に出た。
トライデントも魚鱗竜の装備も身に着けているだけでも魔力を奪われるので、並みの者であれば僅かな時間であっても重い負担を感じることになる。
そういったことから性能の検証でさえ、まともに行われてこなかったようだ。
彼が心血を注いで作り上げた装備。それをやっと身に着けることのできる者が目の前にいる。シガは職人だ。作り上げた物は、飾っておくための物ではない。人に使われてこそ価値が生まれる。
「どうだ戦闘衣の着心地は? 動きづらい部分は無いか?」
「そうですね、今のところは問題ないですけど。ちょっと軽く動いてみてもいいですか?」
「おおお、そうだな。動いてみろ。うん、そうだ。動いてみた方がわかりやすいな」
全身黒一色の装備。コート部分は光を受けると革自体の地なのか、鱗模様が浮き出るようになっている。基調は黒だが紫が混じっているらしく、光の具合で深みのある色合いを感じることができる。
装備の各所に濃紫のラインが走り、魔力の吸収しそれが装備に行き渡る際に輝く様な仕様となっている。まるで血管のようだ。
軽く動いてみたところ、この装備の性能が少しだけ理解できた。
これだけ能力が付与されていると、装備しているだけでも魔力消耗が大きい。それを全力で解放すれば言わずもがなだ。俺くらいの大容量の魔力があればこその装備だろう。俺でも全力で能力を使い続ければ数時間と持たないかもしれない。
装備品だと闘気と筋力強化が併用できるのも魅力的な効果だな。サイズも自動で調整されるのか、まるでオーダーメイドのようにぴったりと体に合う。
「それにしても凄い装備ですね。この島にシガさんのような天才がいるとは思いもしませんでしたよ」
「な、何言ってやがる。こんなジジイ褒めたって何もでねぇぞ、馬鹿野郎が。まったく、こんなもん趣味で作った道楽みたいなもんよ」
そういうシガさんの顔は、まんざらでもないのか微妙にほころんでいた。
「B級の装備といえば作りだせるのは世界でも限られた職人のみだと聞きましたよ。ということは、シガさんもそのうちの1人ということですよね」
「ああ、まぁ、そういうことになるか。確かに海獣素材の扱いなら、ドワーフ職人にも負けはしねぇと自負しているがな」
「シガさんならA級装備も作れるんじゃないですか?」
A級、S級の武具の作成は失われた技術とされていて、現在では生産できる職人は存在しないとされている。
失われた製法を取り戻そうとする研究者もいるそうだが、何か進展があったとは伝えられていないらしいので未だ成果には至っていないのだろう。
「馬鹿野郎、そんな簡単な物じゃねぇよ。これより上の領域はな、技術や素材は当然ながらそれ以上の何かが必要なんだ。それが何かはわからねぇがな……」
「そうですよね。生まれながらの職人とされるドワーフでさえ生み出せないA級の武具なんて、そうそう簡単に作りだせるものじゃない。普通の人なら諦めるどころか、挑戦することだってしないでしょう」
「……まぁ、そうだな。普通ならそんな夢物語に挑戦する奴なんか、余程現実を知らない馬鹿か、夢想者だろう」
「素材を集めるだけでも大金が必要でしょうしね。いくら天才でも難しいですか」
「ふん。普通の奴なら諦めるだろうが、生憎と俺は普通のジジイじゃないんでな。元から道楽でやってるんだ。どうせ死んだら使いようのない金を貯めておくいわれもねぇ」
シガさんは俺に装備一式をトライデント共に託すという。俺からは依頼について語ってはいないものの、レイシの言付けで何かを察しているのかもしれない。
「トライデントが必要になる用事があるんだろ? 餞別に貸してやる。それなら戦闘衣もあれば何かの役に立つだろう。それに実戦で使った方が、使い勝手も知れるだろうしな。その情報がこれからの仕事にも役に立つ」
「これほど心強い餞別はないですね。ありがとうございます。遠慮なく使わせてもらいます」
値段が予測できないほど高価な品なのは間違いないので、普通なら貸してやると言われても遠慮するところだが、正直実戦で使ってみたいという好奇心が勝ってしまった。
装備に持ち前のスキルを組み合わせれば、もっと自由に動けるようになるな。装備ありきでスキル構成を組み替えるか。これなら雷魔術に頼った戦闘をしなくても十分に戦える。面白いな、いろいろ試せそうだ。
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