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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第223話 巫女と香茶

黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m

「ジン、お待たせしました」


 部屋に戻って来たフルールが侍女を引き連れて戻って来た。


 腰を超えるほどに伸びた白髪が、長く三つ編みにしてまとめられている。編み込んだ髪を彩るのは黄金で作った花飾りと、連なるようにあしらわれた濃い桃色の真珠。


 髪を整え化粧をした姿を見るのは初めてだが、こうしてみるとお姫様なのだなと改めて気が付いた。レイシは海人族で五指に入ると言っていたが、あれは嘘だな。原石が良いのか、磨けば光る宝石か。


 目鼻立ちは整っていてハッキリしているし、睫毛も長い。異種族とはいえ、控えめに言っても相当な美人だ。彼の言動は謙虚さから出たものか、もしくは俺への当てつけといったところだろう。


「お爺様、ジンとのお話は終わりましたか?」


 レイシが一瞬に俺の方を見てから、彼女の方へと向き直る。


「ああ、今終わったところだよ」


「そうですか。では今度は私がジンとお話しする番ですね」


 そういうと彼女は俺の傍へとやってきて腕を絡めとった。立ち上がるように催促するので、そのまま腕を引かれるようにして立ち上がる。


「何だ、私を抜きにして彼と仲良くしようというのかね」


「もうお爺様は十分お話になられたのでしょう? でしたら良いではありませんか」


「ルーがそのような態度を取るとは思ってもみなかった。ちょっと妬いてしまうな」


 レイシが冗談交じりに笑って見せると、彼女も笑顔を見せた。


「では彼をお借りしますね。ジン行きましょう。美味しいお茶を用意したの。私の好きなローズティーよ。帝国よりもずっと東にある国から届いた品なの。香りがとても良いから、きっと気に入ると思うわ」


 にこやかに話す彼女の姿は、とても悲しい運命を背負った人間には見えなかった。その表情に暗い影など無い。言われなければ誰も気付かないだろう。こういってはおかしいが、どこにでもいる普通の少女に見える。


「レイシさん、依頼の件、受けさせてもらいますよ」


「何? 持ち帰って相談するのではなかったのかね? もちろん私としては喜ばしい決意だが」


 驚いた表情をするレイシだが、正直少し白々しい。どこまで計算していたのかは知らないが、俺の性格も知ったうえでの事だったら、してやられたといったところか。


 まぁ、いい。これも何かの縁だ。俺にできることがあれば、してやろうじゃないか。シフォンさんは俺が説得すればいい。最悪、俺とアルドラがいれば何とかなるだろ。


「何? 二人で何の話?」


「ルーの護衛をカシマ君に頼んだのだ。詳しくは後でな」


「そういうことだ。煩わしいかもしれないが、よろしく頼むよ」


「煩わしいだなんて……そう、ジンが……うん、わかった。すごく強いジンが傍にいてくれたら、お爺様も安心だものね」



 フルールに連れられレイシの部屋を後にした。彼女に通されたのは、豪華な調度品が並ぶ広い部屋だった。ペルシャ絨毯のような敷物に、白いテーブルと椅子が並んでいる。


 部屋に入ると甘い香りに気が付いた。テーブルの上に茶菓子と紅茶の用意がされている。広い部屋に2人きり、というわけでもなく扉の近くに侍女が待機していた。しかし、直立不動のまま侍女が動き出すことは無い。どうやらその場で突っ立っているだけの仕事のようだ。


「さぁ、座ってジン。私がお茶を入れてあげる」


 巫女とはいえ女王の娘なら、お姫様ってことだよな? 侍女からは姫って呼ばれているし。あそこで突っ立ってるだけの人にやって貰えばいいのに。


「姫様自ら茶を入れるのか?」


「私だってお茶くらい入れられるわよ。どうせお爺様から、私は何も知らない世間知らずだって聞いたんでしょ?」


「まぁ、それはそうだけど。うん、茶菓子は美味いな。ベイルの菓子はただ甘いだけのものが多いけど、この焼き菓子は甘さ控えめで普通に美味い」

 

 ベイルの菓子とはいっても、それほど種類はないんだけどな。砂糖は基本高価だし、庶民が気軽に口にできるものではないらしい。大抵の場合は金持ちを太らせるために使われるだけだ。


「帝国の商人から買った物よ。帝国の事はみんな悪いように言うけど、お菓子に罪は無いよね」


 フルールの入れてくれたお茶は苦みと酸味が強かったが、彼女の話通り香り高く美味かった。


「いつもはもっと上手に入れられるのよ……前に入れたときは、上手だったって褒められたもの」


「そうなのか。でもこれも、十分美味いけどな。まぁ、フルールが納得してないんだったら、また次の機会にでも入れて貰おうか」


「……うん。いいよ」


 それから彼女とお互いの事を話し合い、彼女も興味のあった精霊の話になった。海人族には固有の文字というものは無く、歴史は口伝にのみ伝えられる。


 それ故に海人族には近年になるまで本というものとは縁遠かった。島に本が置かれるようになったのは帝国が持ち込んだものが初めてとなる。海人族は交流の中で彼らの文化を学び、文字を学んだ。そして本から様々な知識を得た。


 フルールが持っている精霊の知識は帝国のもたらした精霊に関する書物が数点のみ。しかし、人族で精霊の存在を感じ、見える者は人族の長い歴史を見ても極々少数であるため、ほとんど何もわからないというのが現状である。


 精霊とは人族にとって得体のしれない、いるかどうかも確証できない存在なのだ。


「雷精霊、姿を見せろ」


 俺の呼びかけに応じた雷精霊が、腕輪から顕現し部屋の中に姿を見せる。


「わぁ――」


 驚きと喜びの表情に染まるフルール。幼女の姿で顕現した雷精霊を、食い入るようにしげしげと眺める。


 その勢いに飛び退き雷精霊は俺の背後に隠れてしまった。


「人の姿をしている精霊なのね。すっごく可愛い」


 フルールの周囲の床に霜がつく。部屋の温度が数度下がり、冷気を感じると彼女の氷精霊が姿を見せた。魚に羽の生えた姿。トビウオの精霊だ。


「俺も精霊については詳しくはないぞ。それでもいいなら――」


「うん、いいの。私は何も知らないから、知らないことを知りたいだけなの。教えてジンの知ってること」


 興奮した様子で食い気味に迫るのをなだめつつ、彼女の提案を了承した。

お読みいただき、ありがとうございます!

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