第222話 プロメテウスの火
黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ (2巻) 発売中です。何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
長い年月を生きて強大な存在となったレヴィアタン。それが海神と呼ばれる魔物。
レヴィアタン自体、はなから海の主とされるような強力な存在だと言うし、それが成長したものとなればどれ程のものか計り知れない。
どんなスキルを持っているのか気になるところもあるが、無謀な戦いをしたいわけじゃないし悩めるところではある。
それに調査隊で青の回廊の最深部を目指すとしても、相応に危険が大きいのではないだろうか。最終的な判断はシフォンさんがするのだろうが、リザやシアンのことを考えると調査隊で参加することは賛成しかねる。
「海神が眠りから目覚めるのは海神祭の前後だけだと言われている。完全に目覚めてしまえば危険も大きいだろうが、君の魔術があれば奴が目覚める前に仕留めることも可能だろう」
ん? 何のことだ? レイシに俺が扱える魔術について語った覚えはないが。
「ルーから聞いているよ。森を焼き払った爆炎の魔術のこと。凄まじい威力だったそうじゃないか。ぜひ直接この目で見てみたいものだな。ああ、森のことなら気にしなくていい。レヴィア諸島では森林というのは稀少で、どんな木材であっても高価なものだが、ルーを助けてくれた結果なのだと考えれば取るに足らない出来事だろう」
ああ、彼女には特別口止めなどしなかったしな。まぁ、彼女にとってレイシは信頼に足る人物なのだろうし、俺の情報を流してしまうのも致し方ないことか。
「ご理解いただけて幸いです。海神についてはわかりましたが、道中の危険はどれ程のものなのでしょう。即死レベルの罠が無数に、という話も聞いていますので現地へ向かうだけでも簡単ではないと思いますが」
そういうとレイシは羊皮紙の束を差し出した。
「その点についても問題は無い。遺跡には特定の魔物を排除する結界が備わっているのは知っているな? 魔物の全てを完全に排除することはできなくとも、その結界で大部分の危険な魔物は退けることができる。私は神殿まで辿り着いた経験と、遺跡調査で知り得た知識の二つがある。魔物の襲撃に備えることなく、安全に目的地まで辿り着けることを約束しよう」
レイシから渡された羊皮紙を広げてみる。そこに記された情報に目を通した。
衣類の設計図 書類 C級 完成品:帝国式侍女服
「ああ、こっちだった」
レイシは慌てることもなく、懐から新たに羊皮紙を取り出した。
遺跡調査地図 書類 C級
やれやれ、紛らわしいな。俺は設計図を机から片づけ懐に収めた。
「遺跡への入口はミスラ島の北東の入り江にある。普段は使われることのない封印された場所だ。ミスラの者でも存在を知る者は少ない」
レイシが地図を示しながら道順の説明を始めた。
「私が一緒に行動できれば間違いないのだが、残念ながらそこまでの体力はない。魔物の危険性は少ないとはいえ、まったく魔物がいないわけでもないのだ。同行すれば足手まといになるだろう」
地図には丁寧に道順と罠の場所が記されている。特に注意すべき点は、対処法も地図に記されているようだ。それを確認するようにレイシは説明を続ける。
ここで説明を聞いておけば、後は地図を再度確認するだけで現地へ向かうのは問題無さそうだ。もちろん行くことが決定したわけではないが、思ったよりも危険度は高くないように思える。遺跡調査の権利と採掘権を考えると悪い話ではない。
採掘権に関して言えば、勝手に掘り出しても見つかることはないとも思うが、あまり後ろ暗いことはしたくはないしな。リザやシアンの手前、あくどいことは必要最低限に留めておきたい。まぁ、採掘うんぬんも俺の趣味みたいなものだし。
「遺跡の奥深くには当時何かの研究を行われていたと感じさせる場所もあった。そこで使われていたと思われる素材、更にいくつもの魔導具、魔装具なども見つかっている。ミスラの連中も全容は把握していない。おそらくまだまだ見つかっていない品が山のように眠っているはずだ。できることなら任務のついでに回収して貰えると助かる」
古代の魔導具、魔装具か。それは興味をそそられるな。妨害の指輪のような有益な魔装具があれば、リザやシアンに持たせるのもいいだろう。
俺の表情を読み取ったのか、レイシが見透かしたような笑みを見せる。
「回収の際に魔装具のいくつかが紛失したとしても致し方ないことだろう。魔物の襲撃はないとはいえ、最低限の警戒は必要だ。魔物との戦闘も少なからずあるだろう。そのような緊張感のある状態が続く中で、回収した品が紛失されるのは可能性としてありえない話ではない」
レイシはどうしても俺に任務を受けさせたいようだな。いや、調査隊に任務を依頼するというのも、俺を納得させるためだけの材料なんだよな。
道中の危険は少ないとはいえ、距離はそれなりにある。数日の泊りになるだろう。
身内を口説くより、島外の他人に飴を与えて従えた方が可能性が高いと判断したのか。そのための飴は惜しまないと。まぁ、ミスラ戦士団では荷が重いと判断したのかもしれない。それなりにレベルの高い者もいるようだが若者が多いようだし、経験と意味では不安があるのかもしれない。経験については俺も他人のことはは言えないのだが。
それともミスラの歴史を覆す行動に、賛同する者はいないと判断したか。まぁ、説得は難しそうではある。彼らの内心まではわからんけど。
俺としてはレイシに加担するのは悪くはないと思っている。帝国という他人が蔓延るようになった土地を、海人族が血を流して守護する必要もないだろう。まぁ、それ以上にフルールが命を賭して仲間を守ろうとすることと、祭りだと浮かれて騒ぎ立てる島民との温度差に気味の悪さを感じずにはいられない。
いや、そうだな。俺としてはもっと単純に、可愛い娘が死んじゃうなんてのは世界的損失ってことだけだ。
そういえば、クオンさんには声を掛けなかったのだろうか。アルドラに言わせれば彼も相当な実力者のはずだが。
「もちろん声は掛けた。だが断られてしまったよ。いや、断られたというより、君を進められた。自分の能力より、カシマ君の能力の方が遺跡に出向くにはあっているのではないかとね。誤解のないように言っておくが、私はカシマ君の能力の詳細は知らない。多少の探りは入れているが、それはあくまで私が求めている能力を有するに値するのかを確認したかっただけだ。それ以上の他意は無い。おそらくだが、クオン君に関してもカシマ君の能力の詳細はわかっていないのだと思う。彼に関して言えば、何か武人の勘のようなものを頼りにしているのだと思う」
「そうですか。まぁ、無作為に情報を流さないのであれば問題ありません」
自分の情報を守りたければ、もっと注意するべきといったところか。とはいえ一般的には魔眼の情報は皆無と言っていいようなので、能力についてはある程度の予測までに限られるだろう。そうそう全容が知られるということもあるまい。
いや、敵対する者に知られれば、けっこう不味いかな。対策とられるだろうし。敢えて見破らせて罠に嵌めるとか誰でも思いつくよな。うーん、もっと気を付けるべきか。
S級並みの鑑定能力というだけでも魔眼の存在価値はかなりのものだろうしな。
「もちろん君の害になるようなことはしないつもりだ。私としてもカシマ君とは仲良くしたいと思っているのでね」
利用価値があるからということか。まぁ、そのほうがわかりやすくていいんだけど。
プロメテウスの火 魔導石 S級
レイシが新たに取り出したのは、まるでボーリングの玉のような球体だった。真円に近い球体で、それだけでも作りだすのには高い技術が必要になるはずだ。表面には複雑に引かれた溝があり、小さくて何が彫ってあるのか読めないが何かの文字も確認できる。
「これも青の回廊で見つかった品だ。全部で3つ発見されたが、1つは三分の一が欠けて機能せず、1つは見た目は完全な状態なのだが、破損しているようだった。唯一、使える状態にあるのはこれ1つだ。もしかしたら必要になるかもしれない。持って行ってくれ」
魔導石というからには、魔力を込めて発動させる例の魔導石と同種のものなのだろう。S級の魔導石というのも存在するのだな。レイシに許可を貰い手を近づけると、溝に淡い光が走る。魔力を注いだわけではないが、何かしらのものを感知したのかもしれない。思わぬ魔導石の反応に、レイシの顔が緊張に強張る。
「わかっていると思うが、無茶なことはしないでくれよ」
「すいません。どうやら機能するようですね」
「ああ、一緒に発見された文献でこれが使用可能な状態にあるのだと確信している。実際に使って実験とは、簡単にはいかないがね。文献に記された威力が正しいものなら、ミスラ島くらいは消し飛ぶはずだからな」
随分と物騒な代物だな。同じS級でも火球のS級とはえらい違いだ。まぁ、S級というのは破壊力に上限がないとされているし、火球でも魔力を込め続ければ島を消し飛ばすくらいの威力にまで高められるのかもしれない。
そこまでいくのに、どれほどの魔力が必要になるのかは見当も付かないが。この魔導石は魔力による底上げではなくて、別の方法で破壊力を増大させる結果に成功しているということか。
そのあたりの機能とか調べられたら面白そうなんだけど、俺には魔導具の機能まで調べる能力というのはないからな。魔導具職人と知り合いにでもなれば別なんだろうけど。
「でもこれ海神に使ったら、遺跡もまるごと消し飛ぶんじゃないですかね」
そもそも使った本人も一緒に消し飛びそうだよな。ミサイルって手持ちで投げるもんじゃないでしょ。
「遺跡の方は大丈夫だろう。遺跡全体には強力な保護の魔術が機能している。その魔術の効果で、数千年も原型を留めていられるのだからな」
レイシが自信なさそうなのは、実際に魔導石を使ったわけではないので本当のところの威力が不明なのと、遺跡の保護がどの程度なのかも不明ってことなんだよな。
早い話、ぜんぜんわかんねーってことだ。まぁ、いいか。使わなければいいんだし。鞄に入れとけば安全だろうけど、使うにしたら危なすぎる。
「もちろん使用者の安全対策も考えてある」
帰還の呪符 魔導具 C級
ポスターサイズの羊皮紙の中心に魔法陣が描かれ、それを囲むように魔術文字や象形文字のようなものがびっしりと綴られている。
これは特定の場所を記憶させ、使用した場所から記憶した場所まで一瞬で移動するという転移魔術を発動させるための魔導具だ。
ベイルでもA級以上になると数に限りはあるが配布されるとか聞いたな。作成するのに時間と金が相当必要らしい。そんな雰囲気には見えないが。
「帰還の場所は私の屋敷にある地下室の一室に設定してある。設定のためにだけに用意した何もない部屋だ。呪符は1枚しか用意できなかったが、必要となったならば遠慮なく使うがいい」
呪符はごく近い場所にある人間もまとめて効果に巻き込む仕様になっているらしい。それならば調査隊の者たちも、いざとなれば一緒に脱出することも可能だろう。
とはいえ調査隊全員でとなると厳しいか。効果の及ぶ範囲は数メートルらしいが、誤差もあるそうなので人数が多いと不安だ。参加する人数は絞ったほうがいいかもしれない。
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