スキル”復活”を手に入れた ②
そもそも神託ってなんだろう。
儀式とかするのかな。
巫女さんが舞を奉納する、みたいな。
それとも、神殿の偉い人がお祈りをすればお告げが降ってくるのか。
僕は想像力を働かせて、ワクワクしながら神殿内を歩く。
今向かっているのは特別な場所のようで、父さんと母さんはついて来ていない。
奥へ進むにつれ、すれ違う人の数もだんだんと減ってきた。
建物の雰囲気も、こちら側は改装工事がされていないようで、古めかしい造りが残っている。
もしかすれば、神殿が建てられた古代のまま保存されているのかもしれない。
「この部屋だよ。」
神官さまに案内されたのは、先ほどとは打って変わり、殺風景な部屋だった。
純白で神聖な、美しい神殿の内部というよりは、もっと生活感のある執務室という感じだ。
まあ、執務室なんて見たことないんだけどね。
「少年。失礼かもしれないが、読み書きはできるかね。」
「必要最低限なら。」
本当は、文字なんて普段の生活じゃ全く使わないし、面倒だから覚えなくていいと思ってたんだけど。
母さんがうるさく言うもんだから、根負けして勉強することにしたのだ。
当時、僕が8歳くらいだったかな。
その時の母さんの口癖はこうだ。
「太郎!あなた、いい年して本一冊もまともに読めないとは何事ですか!!そんなことでは生きていけませんよ。悪い人に騙されて、すべて失ってしまってからでは遅いのです!」
あのときの気迫はすさまじかった。
母さんは普段穏やかな分、怒られたときの僕の精神的ダメージは大きいのだ。
「そうかそうか。良いことだ。では、名前も書けますな。紙に名前を書いて、この中に入れなさい。」
僕はさらさらと自分の名前を書いてしまい、”それ”の中へ紙を入れた。
これはなんだろうか。
一見すると、水が張られた、ただの豪華なガラスの容器にしか見えない。
しかし、僕が紙を入れた途端、紙は液体に解けて消えてしまう。
紙には仕掛けがなさそうだったから、特別製なのは、液体か容器か。
興味深く思ってじっと観察していると、液体にも容器にも、うっすらと光の糸が浮かび上がってくる。
いや、これは糸ではなくて、紋様?文字か?
いずれにせよ、僕はこれを知っている。
これは魔道具だ。
昔、母さんに見せてもらったことがあるのでわかる。
そうでなくても、魔道具を知らない人はいないだろう。
大抵1つの村につき1個はレイトウコと呼ばれる魔道具があるからだ。
高価なので、身近ではないものの、全く未知の存在という訳ではない。
まさか、神託の正体って、魔道具だったのか?
いやいや、そんなまさか。
でも、そうだったら面白いな。
オズの魔法使いの正体をを思い出す。
「懐古的な神殿にしては、ずいぶん近代的なものが置かれているのですね。」
「何のことかね?」
「ほら、神官さまが手に持っている、その魔道具ですよ。さっき僕に紙を入れるように言ったじゃないですか。」
僕の指摘に、神官さまはぎょっとしたような表情をする。
もしかして図星だった?
「わっはっはっはっは。まさかそのことに気が付くとは。子どもだと思って油断していましたな。キミの名前はなんだったかね?」
「太郎です。」
「そうか、太郎君。キミは頭が良いようだから教えようか。ただし、言いふらすんじゃないよ。まあ、キミの母君は既に知っているかもしれなませんがな。」
「分かりました。」
「よろしい。詳しく話す前に1つ質問だ。キミは女神様を信じているかい?」
「・・・・・・。」
「いや、いいんだ。神なんてものは、所詮人間の偶像に過ぎない。ただ、我らよりも高次元の存在は確かに存在し、それを神殿では女神様と呼んでいる。そういう認識で話を聞いてくれたまえ。」
おい、いいのか。
仮にも神殿に使えている身でありながら、「神は偶像だ」と言ってのけたぞ。このおっさん。
まあ、そのあと女神さまの存在は肯定していたけれども・・・・・・。
胡散臭いと思ってしまったのは、僕だけだろうか。
そんなはずはないと思いたい。
もし、僕だけが疑っているのだとしたらまるで、神よりも悪魔に惹かれ、光よりも闇に惹かれる、孤高の中二病のようじゃないか!
確かに僕は、すごいスキルを手に入れて、有名人になって、女の子にちやほやされたいという願望を持ってはいるが、それは決して中二病ではない。(よね?)
これは、純粋な心からの願いなんだ。
もう20歳にもなるのに、非現実的なことを熱心に語り、いつまでたっても中二病から抜け出せないライト兄(村の友人)と一緒にされては困る!!
「・・・・・・つまり、この液体が女神さまの魔力を凝縮したもので、容器は転移装置。名前の書かれた紙ーーつまり真名が女神さまの魔力に反応して、転移装置が作動。紙は女神さまの元へ届けられ、向こうで色々調べてくれる、ということですね?」
「ふむ。その通りだ。いやあ、最近の若者は飲み込みが早くて助かりますな。それとも、キミが天才なだけかな?ぇえ?ーーああいけない。そろそろ神託が届くようですぞ。」
神官さまがそう言ったのとほぼ同時に、どこからか、テーブルの上に1枚の紙がひらひらと落ちてくる。
まさか、これが神託なのだろうか。
遠目からでも、多くの情報が書きなぐられ、文字と記号の判別すらままないインクの集合が見える。
とてもじゃないが、この紙は読める状態ではないようだ。
「おお!届きましたな。どれどれ。」
え、マジで?これを読むの。
本当の本当の本当に??正気か?
僕が考えていた神託のイメージと全く違うんだけど。
もっと、キラキラして、パアッと神々しく光って、神官さまとか聖女さまに、神聖な何かがやどって言葉を発する。みたいな。
そういうのだと思っていたんだけど。
現実はそうもいかないらしい。
「太、郎の、ス、キルは、き?いや『ま』か。ま、だ?ちから、く、セ、り?」
神官さまが一生懸命解読しようと試みているが、一向に進まない。
まあ、神頼みだし。
聖書にしろ古文書にしろ、最初は解読からだもんな。
そのミステリーにこそロマンがあり、意味深な言葉であるからこそ様々な解釈が可能なのだ。
全てのことが神託で分かってしまうのならば、もっと世界は単純でつまらなかっただろう。
これも神託の醍醐味ってやつだな。
それはともかく、さっきから1人でぶつぶつ呟やいている神官さまが可哀想なので、僕も手伝うことにする。
「神官さま、大丈夫ですか?」
「ふむ。なかなか難しいな。実はワタシは神託の解読が苦手でな。普段は得意な者が行っているのだが、今日はたまたま出張でいないのだ。すまないが、また後日来てもらえるかい?」
「なるほど、そうでしたか。ちなみに僕がそれを拝見することはできないのですか?」
「神託には何が書かれているか分からないですからな。それを直接本人に読ませるというのは、時に残酷になりかねない。本人に読んでもらうのは、どうしてものときの最終手段ですかな。」
つ・ま・り、直接見なければいいってことだよね?




