スキル”復活”を手に入れた ③
「かあさーーん!」
「こら、太郎!神殿内で大声を上げるなんて何事です。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
母さんはぷりぷり怒っているが、顔はあまり怖くない。
なので、とりあえず謝っておくことにする。
謝って済むのは今のうちだからだ。
本当に怒らせると怖いからな。
以前父さんと母さんがケンカした時には、関係ないはずの僕まで口をきいてもらえなかった。
あれはヤバい。
母さんは静かに起こるタイプなのだ。
もういっそのこと、怒鳴ってくれた方がましだ!とまで思ってしまうくらいには、恐い。
「それで、そんなに慌ててどうしたの?」
「そうだった!母さんに見てもらいたいものがあるんだ。」
僕が手渡したのは、黒く塗りつぶされている紙ーーー神託だ。
「太郎、これは神託でしょう?勝手に持ち出しちゃだめじゃない。」
「ちゃんと神官さまには、許可を取ったよ。」
「それならいいけれど。中身を見ていないでしょうね。」
「それはもちろん。見ない約束で、持ち出しの許可をもらったんだから。」
母さんは呆れた顔で僕の方を見たが、何も言われなかった。
それから、神託の観察をし始めた。
紙を縦向きに持ったり、横向きに持ったり、指で軽くはじいたり。
十数秒経過したところで、ふいに顔を上げる。
「大体分かったわ。母さんは、父さんと神官さまとお話してくるわね。太郎はそこで良い子に待っていなさい。」
「はーい。」
やはり、こういう難しいことは母さんに任せるに限る。
あんなにぐちゃぐちゃな神託の謎を一瞬で解いてしまったようだし。
もしかして、いやもしかしなくとも、母さんは神官さまより有能なんじゃないだろうか。
マジで母さんって何者だ?
いや、普段の母さんの様子を見ていればわかる。
昼間は畑仕事をして、夕方は近所のママ友たちとおしゃべりする、ただの田舎村の主婦だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ん?あれでも、さっき父さんが、母さんは貴族家の出身だとか言ってたな。
うん。やっぱ普通じゃないかも。
普通の田舎の母親は、神託を読み解くなんてしないもんな!?
チクタクチクタク。
誰もいない部屋で、振り子時計の音が響く。
あれからどのくらい経ったのか。
いや、時計があるのだから、まだ26分しか経っていないことは分かっている。
しかし、問題は別にあるのだ。
それは、この26分という時間は、長いのか短いのかということである。
父さんと母さんが神官さまと合流するのに10分。
空いている応接間まで歩くのに5分。
そうざっくり仮定するならば、話し合いを始めてから、まだ10分程しか経っていないことになる。
10分ごとき、神託の解説をしていれば終わるだろう。
一方、神官さまとすぐに合流でき、応接間も近くの物を使っている場合。
20分以上話し合っている可能性もある。
これは長すぎるのではなかろうか。
つまるところ、この時間とは、僕に対する議論に費やす時間なのであって、僕が自分のスキルがどれほどのものなのかを予測するための時間なのだ。
もし、大したことのないスキルであった場合、前者である可能性が高い。
一方、後者であった場合、それは僕のスキルがよほど特別なのか、僕にはスキルが無いのかどちらかだろう。
いや、無いなんてありえないし、言われても信じないけどな!
確かに僕は有名人になりたかったけどさ、
人類初のスキルを与えられなかった少年!!みたいな看板はいらないんだ。
そういう悪目立ちがしたいのではない。
僕が欲しいのは、尊敬や恋慕の視線なのだ。
蔑みや同情はいらない。
コンコン。
「はーい。」
ドアがノックされる。
父さんたちが戻ってきたのだろう。
僕はふかふかのソファーから降りて、結果はどうだったのだろうかと、ドキドキしながらドアを開けに行く。
「遅かったね!何を話し・・・・・・。」
ドアを開けると、そこに立っていたのは、全身黒い衣を身にまとった集団だった。
この神殿に、黒を身に着ける神官なんていないはずだ。
ならば、目の前の人たちは一体何者なのか。
そこまで考えたところで、僕は勢いよくドアを閉めて鍵をかけるーーーことはかなわず、黒い人たちと僕との間で、ドアを開けるか閉めるかの攻防戦が始まる。
複数人の大人に対し、こちらは子ども。
圧倒的に分が悪い。
こういう時は、バリケードを作って立てこもり作戦を実行したいところだが、何せ僕一人だ。
ドアを抑えるので手一杯。
足の届くところにサイドテーブルがあるが、今足を床から放してしまえば、ドアを抑えきれなくなってしまう。
ああ、どうしよう。
段々とこちらが押されてきているのは分かっている。
分かってはいるが、こちらにはどうすることもできない。
父さん、母さん、なんなら神官さまでもいい。
誰か早く戻ってきてくれ!
だが、僕の願いは虚しく、あれよあれよという間にドアは開かれ、連れ去られてしまうのであった。




