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第四十話 父との記憶

十数年前、スピルがまだ幼かった頃

父と母 姉と弟の一つの家庭があった

父親は祖国ルーマニアの教師として国家の偉大な歴史を教えていた

母親はバスの添乗員として市民生活を支える足の役割を果たしていた

父母に愛されて育った子どもたちは、親も国家も社会も疑うことなく育っていった

2人は街の外れにある射撃訓練場にいた

ここは有事に備え全ての国民が射撃の腕を鍛えるために設けられた国営の施設である

だが終戦から30年近くが経ったこの時代には半ば形骸化し、一種の娯楽施設としての側面が強くなっていた

バン!バン!

まだ幼いスピルでは、的に当てることも難しい

「あれーやっぱり当たんないなぁ」

「ははは スピルは的当て下手だな よし!父さんを見てなさい!」

ババン!バン!

スピルの父は、的に当てることこそできたものの中心を捉えることはできなかった

「父さんも命中してないじゃないか!」

「はははすまないすまない やっぱり父さんは教職が向いてるよ 教師が銃口を向ける時ってのは、もう全てが終わる時だ だが、そんな時代はこない」

いつも言い聞かされてる話の前振りを聞いて、スピルが思わず口に出す

「国家のえらいひとたちが事前に防いでくれてるから?」

「そうだ 偉い人たちが話し合ってできるだけ戦争をしないようにしようと頑張ってくれてるんだ

スピルも国家の人たちや父さんみたいに、自分に誇れる仕事をしなさい」

「うん!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そんな平穏な時も、父親の隠れた病気が見つかってからは呆気なく終わりを告げた

「父さん!父さん死なないで!」

「スピル……母さんと姉を大事にするんだぞ」

「父さん!」

「自分に誇れるような仕事で…家族と国家を守れ…大丈夫、お前ならできる…母さんと姉ちゃんを頼んだぞ」

スピルの父がゆっくりと目を閉じる

握っていた手の力が抜けていき、ぐったりとベッドからはみ出す

スピルはこの時、追うべき背中を失った

〜〜〜〜〜〜〜〜

スピルは父親の墓の前で、座り続け泣き続けることしかできなかった

幼い子どもが背負うにはあまりにも重い現実が眼前を覆い、涙となって溢れ出していく

そんなスピルを見て、姉であるフィリカは自身の悲しみを抑え発破をかけた


「スピル、あんたいつまでそうしてるつもり?」

姉の声に振り返るスピル 顔はグシャグシャに泣き腫らしていた

「姉ちゃん……だって」

本当はフィリカだって泣き叫びたいはずだ 父を亡くした悲しみは弟と同じだ

それでも、姉としてここでしっかりしないと立ち直れないと悟っていた

「父さんが死んでも私たち3人、母さんと私とスピルで父さんの分も国家のために働くのよ!あんたがいつまでもクヨクヨしてんじゃない!

ルーマニアの男に生まれたんだから強くなりなさい! 私はともかく、母さんを守れるくらい強くね」

姉の声が震えている 無理をして自分を励ましていることにスピルは気づいた

そんな姉の姿を見て、父が言っていた言葉を思い出した

(2人を頼む…か そうだ、これからは今まで以上に俺が頑張らないといけないんだ)

「ごめん姉ちゃん 俺強くなるよ みんなを守れるくらい強く」

スピルはこの日、心と家族に誓った 強くなること 強くなった力を守るために使うことを

----------

「父さん…?」

そんな誓いを立てたはずの1人である父親が、吸血怪人として目の前に立ち塞がっている

その状況にスピルは動揺していた

同時に、スピルの言葉にレキンとテイロスも驚きを隠せなかった

(この吸血怪人がスピルの父親…?そんな事があり得るのか?)

テイロスは一瞬考えて、ビタからの連絡とそれを聞いたピンテアの意見を思い出した


『吸血怪人は人為的に作られてるか…そうなると非常に面倒なことになりそうだね』

『面倒なことですか?』

『たとえば、警察隊員の亡くなった親族、関係者 心を揺さぶるような人物を特定して、その人間の墓を暴かれ吸血怪人化させられ、送り込まれたとしたら…』

『そこまで組織的に動けるのですか?我々の目を掻い潜って』

ピンテアが口を猫のように尖らせ、回転式の椅子に座って回り始める

『うーんそれはそうなのよねぇ 姿を消す異能…みたいなのが必要になるけど、そんな異能でも死体まで隠せないからこんな回りくどいこともできないだろうし、する意味もないからねぇ…』

椅子と同化し、くるくると子どものように回転するピンテア



(もしピンテアさんの仮説が当たってるのなら…これはまだ序章にすぎない…!)

テイロスは警戒心を限界まで高め周辺をサーチした 

(これは…!?)

「丘の向こうからさらに大量にくる!気をつけろ!」

テイロスが叫ぶ

窮地の中、レキンだけが笑みを浮かべていた

「しゃあねえな ボベ!あれを使うぞ!石よこせ!」

「!…了解!」

レキンの掛け声でボベは自身の持っていたバッグを漁り、鉱石を投げ渡す

「新しい力が使えるようになったのはお前らだけじゃねえ!俺の新技目に焼き付けな!血装甲!」

レキンが叫ぶと今までの鎧よりも大きくてゴツゴツとした姿に変わっていった

人間の姿と巨大戦の中間のような姿でレキンは吠える

「ミネルブラッドによる強化で俺の装甲を変質させて俺自身が巨大化する!全員狩り尽くしてやるよ!」

体積と質量まで膨らむレキンの新形態は本来体を動かすだけでも精一杯で使い物にならないようなものになるはずだった

しかし、この形態を編み出してからのレキンの弛まぬ努力と、カラパッサの試練、ボベのミネルブラッドの選定眼によるちょうどいい量の鉱石を使うことによって、奇跡の力を発現させていた

「マレプリナ・ドェ・サンジェ!」

技名を叫ぶレキン

ヒレから発した巨大な波状攻撃が、周辺の吸血獣や弱い吸血怪人を一掃していく

「スピル!その怪人がお前の父親かどうかは知らねえけどよ!土に還った人間を掘り起こすような外道は叩き潰さなきゃいけねえだろ!」

テイロスも同意してスピルに声をかける

「レキンの言う通りだ 叩き起こされてしまった迷える肉体は、お前の手で眠らせるんだ」


迷うスピルは、果たして剣を振るうことができるのか

続く

いつのまにか40話まできましたね

ここまで読んでくれてる読者さんっていらっしゃるのでしょうか?

リアクションなどもらえたらありがたいです

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