第二十六話 老人と過去
ブラッドスコーピオンの過去の保持者の話を聞くためフィダイル隊長と共にデーバに向かったスピル
そこで吸血怪人を倒し地元を悩ませる列車強盗団の確保にも成功したが、吸血怪人が列車強盗の一味であることが判明
吸血怪人は人為的に作られているのではないかという疑念を抱く
一連の出来事を、スピルは電話にてアイザック隊長に報告した
「…ということです」
『なるほど 報告ありがとう
こっちでもビタが協力してる科学チームが、吸血怪人が人間に吸血獣の能力を移植した存在であるという仮説が出たと報告された 今から議会に話をしに行くところだ スピルたちの件も付け加えて報告しようと思う
現地での対応はそのままフィダイル隊長の指示に従ってくれ とりあえずブラッドスコーピオン元保有者の親族に話を聞くことを促されたんだったよな?』
「はい」
『じゃあその通りの手筈で 首相名義の手紙が届いてるはずだから話自体はスムーズに行くはずだ 君の気になっていることを聞く良い機会だからしっかり頑張ってくれよ』
「ありがとうございます」
電話を終え、地図に書かれたデーバの高台に向かう
白を基調とした南国のような階段をのぼり、家々の間隔がまばらになっていく
(デーバは比較的寒い街なのに、この辺はコンスタンツァのような開放的な街並みだな)
その通りの一番高いところに、その家はあった
「ここか…」
スピルは一呼吸置いてから、呼び鈴を鳴らし待つ
しばらくすると鍵と扉が開く音がして、初老の男性が現れた
「君がスピルくんかね?私がゲオルゲだ」
「はい お会いできて光栄です」
老人と硬く握手し、スピルは室内に案内された
家の中はきれいに整頓されているものの、屋根の一部が雨漏りしていた
「数日前からこの状態でね…お客人の前で申し訳ない」
「よければ直しましょうか?」
「いいのかい?じゃあお願いしようかな…できれば他にもやってほしいことがあるのだが構わないかい?」
「もちろん任せてください!」
この軽い親切心がスピルにとって命取りになった
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夜空に星空が浮かぶ頃、ようやくひと段落がつきボロ雑巾のようになったスピルがいた
(つ、疲れた 屋根の修理 アンテナの調整 ラジオの修理 犬の散歩 街の子どもたちの相手 買い物の手伝い ジャケットを着る ジャケットを脱ぐ…こんなにやることがあるとは…)
「いやーすまないね 本当にいろんなことを任せてしまった
少し甘えすぎたかな 今日は泊まっていきなさい」
「あ、ありがとうございます…そうさせてもらいます」
結局その晩は疲れ果てて寝てしまい、話は翌日に持ち越された
夜が明け穏やかな朝が来た
「ここ何日かは吸血獣が飛び回っていてうるさかったんだが、今日はやけに静かだったな」
朝食の用意をしつつ、ゲオルゲは軽い雑談をスピルに投げかけていた
「多分フィダイル隊長のおかげだと思います 昨日から吸血怪人事件を追ってるので、その関係で陣頭指揮をしているのではないでしょうか」
「そうか フィダイルさんも帰ってきてるのか 彼女もデーバ出身だものな
普段はこの街に異能持ちの警察隊はいないが、今に限って言えば二人も異能持ちがいるわけか これほど心強いことはないね」
二つ分のコーヒーカップを持ちゲオルゲは椅子に腰掛ける
片方のカップをスピルに差し出し、朝食を食べながら本題が始まった
「…私の弟と彼に顕現したブラッドスコーピオンについての話 だったね?」
「はい ぜひお聞かせ願えたら助かります」
「弟は昔から一直線なやつだったよ 正義感が強くて街を守る仕事に就きたいと言っていた
ある日私が用事を済ませ家に帰った時、あいつはひどい高熱を出して苦しんでいた」
「私と両親で懸命に看病をしてね 弟は一命を取り留めた それだけではなく驚異的な異能の力を発現させていたんだ」
「その頃世界ではナチスが猛威を振るっていた 当時の王国はナチスの軍門に降る愚行を起こしてしまってね 劣勢だった戦況を覆すために弟も常に戦場を歩きわたっていた
しばらくして共産党による革命が起きて、同時に弟が王国の非道な人体実験によって死んでいたことがわかったんだ」
「私もショックだったが、それ以上に母がひどく狼狽してしまってね それから母が亡くなるまでの数年はとても大変だったよ」
「それから私は弟の代わりに共産党の議員になってしばらく活動していたが、色々あって党内争いで負けてしまってね 首相のおかげで命こそ取られなかったが、こうして慎ましく隠居しているんだ」
「…君のその力は、強大だ だからこそこれからの時代狙われることも増えるだろう
共産党はきっと君を守ってくれるだろうが、それは平和な世の中で党内主流派の庇護のもとであればの話だ かつての第二次大戦のような残酷な戦争を世界が繰り返さないとも限らない」
「だからこそ 時には逃げ延びられるほどの強さを持つべきだ 本当はこんなことを言ってはいかんのだがね」
ゲオルゲは少しばつの悪そうな顔をする
スピルはずっと彼の話を黙って聞いていた 言葉数は多いとは言えないし、深く掘り下げたいことはたくさんある
だが、それはゲオルゲの心を傷つけてしまうのではと思い、躊躇してしまっているのだ
その心中を察したのか、ゲオルゲは一冊のノートを手渡してきた
「これは弟がブラッドスコーピオンの力を目覚めさせてから、徴兵されるまでの間に彼が編み出した技と、その後戦地とのやりとりや同僚の兵士から聞いた話をまとめたノートだ これを君に託そう」
「えっ…そんな貴重なもの、受け取れないですよ」
「いや、君はこれを受け取るべきだ おそらく私の口から語るより多くのことを学べるはずだ 国のため 人民のため 家族のため そして何より君のために持って行きなさい」
強い力でゲオルゲはノートをスピルに渡した
スピルはなにか重要なバトンを渡されたような気持ちで、ノートを受け取った
「ありがとうございます」
ゲオルゲは満足したように優しく微笑んだ
その時、一本の電話が鳴る
「おっと電話か…スピルくん 君に警察隊から電話だ」
スピルは受話器を受け取った
「あ、はい お電話変わりました スピルです
…えっ吸血怪人が出たんですか!?わかりました すぐ向かいます」
「すみません 急用ができてしまって」
「わかってるよ きてくれてありがとう 怪人討伐、頑張ってくれたまえ」
「はい!」
スピルはノートを持ってゲオルゲの家を飛び出し、急いで現場に向かった
続く




