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第十九話 保有者たち

最近ルーマニアの街に奇妙な噂が流れていた

人語を話す吸血獣がいると

警察隊は当初この噂を否定していたが、調査を進めて行った結果実在することが判明し、存在を認めることとなった

新しい種類の吸血獣 人に近くなったそれを警察隊は吸血怪人と名付けた

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ただでさえ増加していた吸血獣事案にテロ未遂、それに加え吸血怪人ねぇ…」

ルーマニア国防省政務官 ルーマニア共産党議員であるセザールは呆れたように呟く

「君たち国家警察隊には莫大な国富が投じられている この現状は人民が汗水垂らし稼いだ国家の財産を浪費させているのではないかね?」

密室の国防省大臣室に声が響く

投げかけられた相手は、国家警察隊のトップであるヴルフォク総隊長と『ブラッドスコーピオン』を部下に持つという理由で招集されたアイザック隊長であった

「国家と人民に支える組織として十分な活躍ができてないことは反省いたしております ここ最近の異変も予兆として気を引き締めて…」

「そんな言葉が聞きたいわけじゃないんだがねぇ…気を引き締めてどうにかなるようならこんな事態も起こっていないだろう 具体的に何をするかだよ

特にアイザック隊長 君のところのブラッドスコーピオンをもっと有効に活用すべきではないかね」

「有効にというのは…かつてのブラッドスコーピオン保有者にしたようなことをしろということでしょうか?」

「まあ…どこまでということは言えんがね…」

セザールの威勢が落ちる

ブラッドスコーピオンの保有者は第二次世界大戦の最中にも現れたが、その最期は悲惨なものであった

苦しい戦局を打開するため、当時のルーマニア王国軍はブラッドスコーピオン保有者の血液を全て抜き取り、兵士たちに輸血させ異能の覚醒を促した

多方面に非人道的で非科学的で全く効果を得られなかったその施策は貴重なブラッドスコーピオン保有者を殺しただけでなく、多くの兵士を輸血による感染症や合併症を起こし命を奪っていった

これがルーマニア革命につながる一因にもなった

党にとってブラッドスコーピオンは自身らの集団が与党になるための政変のきっかけであり、だからこそかつての王国が行なった行為は恥ずべきこととして糾弾される内容であった

言ってしまえばセザールは口を滑らせたわけである

「これが密室で、なおかつ我々3人だけの場でなければクビが飛んでいたのはあなたの方でしたな セザール政務官」

少し挑発的にヴルフォク総隊長が告げる

「…!とにかく!しっかりやってくれたまえよ!私の進退にも…じゃなかった国家の安全にも関わってくるのだからね!」

そういってセザールは話を終わらせた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

セザールとの話を終え、二人は車で隊舎に向かっていた

「すまなかったなアイザック隊長 君に危ない橋を渡らせてしまった」

「いえ、こちらこそ申し訳ないです テロ未遂も隊員をもっと鍛えていたら防げたかもしれない 私自身にしてもそうです」

「まああまり気負ってくれるな 君たちの臨機応変な対応のおかげで死者を出さずに済んだんだからな」

「総隊長…ありがとうございます それにしても政務官の態度には腹が立ちましたね」

「彼も今の年齢では後進に突き上げられて後がないのだろう とはいえあの立場までいける人間だ 出世欲だけではないことを願うばかりだね」

ヴルフォクは車の窓越しに街を眺めて呟く

「しかし吸血怪人か…次から次へとせわしないねぇ…スピルくんたちの次のシフトは今日の夕方だったかい?」

「はい 通常よりも増員して行われる予定です」

「私も参加しよう」

「総隊長がですか!?」

「最近前線に出てないし、これからもっと大変な事態が起きるかもしれない

この辺で感覚を取り戻しておかないとね それに…今日はなんだか嫌な予感がしてね…」

「嫌な予感ですか…」

この総隊長の勘は残念なことに的中してしまう

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕方 ブカレスト郊外

家路につく人々で少し騒がしい街を横目に、スピルたち警察隊は警戒を強めていた

(確かに最近後手に回ることが多かったけど、まさか総隊長まで出張ってくるほど状況が悪いなんて…今日は何としても被害が出ないようにしないと!)

「スピル!久しぶりだな!今日はよろしく頼むぞ」

スピルがかつて所属していた隊で仲間だったおじさん隊員が声をかけてくる

「お久しぶりです!よろしくお願いします」

今回の警備は他隊も含めた混成チームでビタやレキン、テイロスなど異能で吸血獣の出現がわかるものはレーダー役として離れた場所に配置されていた

(バルボラさんもちょっと遠いところにいるしチームとしては動けないな…)

「えーっと、俺は他のチームで動く経験が少ないので先輩方に教えていただきたいのですが こういう混成チームの時ってどうすればいいですかね」

「うーん まあ階級の一番高い隊員が支持を出してってのが基本かなぁ この中だとイヌバナ隊の副隊長のお嬢さんが一番高いんじゃねえか?」

そう言って隊員のおじさんはイヌバナ隊副隊長フルジェルの方を指差す

「……ハァ」

フルジェルはため息をついた

「よりによってブラッドスコーピオンの持ち主とチームを組むことになるなんて…最初に言っておきますが 私はあなたの異能や異能にまつわる話を肯定していません」

「おいおい嬢ちゃん一方的にそんなこと言うのはあんまりじゃないか?」

隊員のおじさんが言い返してくれる

「戦闘能力は異能がなくても補えます うちのイヌバナ隊長のように戦闘向きの異能じゃなくても強い人はいます

彼は異能に目覚めるまで戦績が振るわなかったそうじゃないですか そんな人が伝統のある異能に覚醒したからと言って持ち上げられるのはおかしいと思います」

ツラツラと批判と否定を連ねてくるフルジェルにおじさんは気圧されていた

ブラッドスコーピオンを宿してからのスピルは恵まれていた

隊員たちも基本好意的に接してくれたし、最初は刺々しかったレキンもスピルと共に戦うことで態度を軟化させていった

それがスピルという人間の人徳ゆえか、ブラッドスコーピオン保持者に嫌われたくないという理由であったか、ピンテアがスピルをベタ褒めした噂を流したからなのか定かではないが、対人関係において大きな苦労はなかった

だからこそフルジェルの態度には怒りもあったが困惑も大きかった

そんな色んな感情を飲み込んだスピルが口を開く

「確かに俺は今まで弱かったし、強くなれたのもブラッドスコーピオンのおかげかもしれない でも、この力があったからって慢心したことは一度もないしフルジェル副隊長にも認めてもらえるようにもっと強くなりますよ

この国も人々も守れるように強く」

その言葉にフルジェルは冷たく返す

「……勝手にしてください 私が認めることなんてそうそうないとは思いますが

仕切りの話でしたね あなたたちは南の方を警戒してください そっちの二人は…」

フルジェルが指揮をとりはじめる

「ごめんなぁスピル ちゃんと言い返せなくて」

おじさんが謝る

「いえ、俺こそ覚悟を再確認できました 今日の警備も糧にしてもっと強くなりますよ」

「いいねぇそれでこそだ!」

おじさんがバシッと背中を叩きスピルを励ます

この時街はまだ鮮やかな夕焼けと共に平和を享受していた

----------------

「奴らに手柄を立てさせねば…こうなればアレを使うしかないか」

セザールは窓を開くと机の引き出しを開け、小瓶の中から錠剤を一つ取り出し、砕いた

砕かれた錠剤は塵となって消えていく 大気に溶け込んだそれは「空気」を変えた

「私のために働いてくれよ…警察隊ども…」

セザールの怪しい独り言もまた、空気の一部となっていった


続く

※追記 セザールの役職を事務次官から政務官に変更しました ミスです!ごめんなさい

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