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第一八話 自由な野望

戦いから数時間後

警察隊の医務室にスピルはいた

しばらく気絶していたスピルだが、話し声で目が覚めた

「お、目が覚めたか 具合はどうだ?」

「アイザック隊長…と」

「ああ スピルは初対面か この人はコーネリーさんだ 俺がお世話になっている大国民議会の議員さんだ」

スピルはその肩書を聞いて一気に意識がはっきりした

「議員……!?どうもお世話になっています!日頃から我が国のために身を粉にしてくれて大変感謝しています!」

ルーマニアでは10年ほど前から議員に対する敬意を持つ教育が党主導で勧められていた その時期に教育を受けたスピルにとって、議員というのはかなり目上の人間であるという意識が刷り込まれている

「そんなに固くならなくていいよ 形式ばったものは俺あんま好きじゃないんだ」

だがコーネリーは軽い口調でスピルの緊張を解こうとしていた

「コーネリーさんはあまり身分とか偉さとかを気にしない人なんだ そもそもそんなに偉ぶる人だったら隊舎まで来ないよ」

「いや隊長 そんなこと言われても…」

敬意を崩すのは難しいだろうとスピルは心の中で思った

「うーん思ったより教育が強いんだな…俺の担当は外交だから今の若い子がここまでだとは思わなかったよ」

「スピルは若手の中ではその辺しっかりしてる方ではありますよ レキンにも会わせてみたいですね」

(レキンがいつも隊長に取るような態度をコーネリーさんにもしてて、それをもし他の隊の隊員が見てたらレキンの首が飛ぶかもな…)

とスピルは思っていた

「この子には俺の野望を話しても大丈夫かな?」

「うーん 個人的には大丈夫だとは思うんですが…スピル 今からコーネリーさんが話す話はうちの隊員以外には話さないでくれるか?」

それまでと一転して、少しピリッとした様子のアイザックに驚くスピル

「えっ…あっはい」

「よし!じゃあ聞いてってくれ 実は俺はな…この国を変えたいと思っている」

「えっ…国を変えるって」

「今この国の教育がどこまで外の世界を教えてるのかわからないが、外の国には発言の自由がある それは我らが国の父を公然で侮辱しても罪に問われないほどの自由だ」

ここでいう国の父は、ルーマニア共産党のトップであり首相を務めるチャウエスクのことである

「そんなことしていいんですか!?」

「まあ普通はそう思うよな この国が貧しくとも極端な格差がなく暮らせるのは党のおかげであり、その党を導く指導者であるチャウエスク首相への侮辱は許されない 俺の世代でもそう習ったよ」

コーネリーは続ける

「もちろん、外の世界が万能なわけじゃない ものすごい格差の元で搾取され犠牲になっている人たちもたくさんいる 俺もそんな世界は望まない でもな、自由な発言をしながら一定の平等があり国民が笑って暮らせる国を俺はいくつか見てきた」

「この国の東側陣営という立場は譲れない ナチスの台頭を許した格差を許容する西側の国の全てを追従するわけにはいかない だが、この国が永く繁栄するためには格差を大きくせずに経済を発展させ、人々を豊かにする『自由』が必要だ 今のルーマニアには自由がない」

コーネリーは大きく息を吸い宣言した

「だから俺がこの国を変える 社会主義を守りながら、自由を広げられる国にする」

外の世界を知らないスピルは、その壮大な野望を聞いて押し黙ることしかできなかった

「できればスピルくんにも協力してほしい まあまだまだ先は長いけどな!」

ハハハ と笑うコーネリー

「……俺には、何て答えればいいのかわかりません アイザック隊長が協力しているなら協力したいけど、ハッキリ答えられるほどの知識がない」

「いや、今はそれでいいさ いつか前向きな答えが聞ければ嬉しい」

コーネリーは柔らかく笑った

「じゃ、そろそろ帰るわ 怪我してるのに難しい話聞かせちゃって悪かったな ゆっくり治してくれ」

「いえ、貴重なお話ありがとうございました」

「議員宿舎まで送りますよ」

アイザックが立ち上がる

「いいよいいよ 今は多分スピルくんの方が危ないはずだ そっちにかかってやってくれ」

「わかりました お気をつけて」

「おう、じゃあな」

手を振って医務室から出ていくコーネリーを見送った

「なんだかすごい話でした…あまりにも自分の知ってる世界の話を超えていて…」

「まあまだまだ実感はできないさ でも俺はあの人の考えに共感してる いつかスピルたちにもわかってほしいかな」

「うちの隊が他の隊よりゆるいのって、そういう理由があったんですね」

「まあそうだな つまらないことでいちいち処罰していたらキリがないしな」

自分もそうだが、何よりレキンやビタが恵まれているなと思ったスピルであった


続く

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