手ごわいドラゴン
ジェイが放った縄は、ジェイの魔法で一直線にドラゴンの翼を絡め取るはずだった。しかし、そのドラゴンがジェイに向かって吐いた炎が、その縄を焼き切ってしまった。
「まじで~?」
たまたまこっちに向かってくるドラゴンの炎と縄がかち合ってしまったのだが、これは痛手だった。
一度で仕留めないと、次からは警戒されてしまう。
ジェイは急いで新しい縄を取り出すと、いつものように構えた。しかし、もう至近距離にドラゴンは飛んできていた。
ドラゴンの翼の風圧で、ジェイは吹き飛ばされた。
「うわっ」
そのまま転がったところに、ドラゴンの炎が降り注ぐ。轟音と熱がジェイを襲った。
「ひぃぃ」
ジェイはごろごろと転がって、炎から逃げた。ドラゴンの炎が地面を焼いている。間一髪でジェイは焼かれなかったが、ジェイを怖がらせるには十分だった。
腰を抜かしたようにもがきながら、ジェイはよろよろと立ち上がった。そして上を見ると、もうドラゴンはこちらに向かって来ているところだった。
ジェイの額が鋭く光っているのだ。ドラゴンからは、獲物が生きているか死んでいるか一目瞭然だ。ジェイが動けば光りも動く。ドラゴンはムヴュを目指して急降下してきた。
「くうっ」
苦し紛れにジェイは縄を放った。
両手をいっぱいに広げて、縄を操る。ほんのちょっとでも翼にひっかかれば、あとは魔法が縄を絡みつけてくれるはずなのだが・・・またも縄はドラゴンの炎で焼かれてしまった。
「くそ!」
新しい縄を取り出したところで、ドラゴンの脚がジェイをかすめた。咄嗟に頭を下げて身を守るが、ジェイの背中をそのカギ爪で掠った。
ほんのちょっと掠っただけなのに、衣服は破け、ジェイの背中に傷を作った。
≪熱い≫
見えない背中に、ドラゴンの爪の痕を感じる。痛くて熱い。火ゴテでも押し付けられているかのようだ。そうだ、ゴローの爪だって鋭かった。あんなのが当たれば、たとえ掠っただけでも鋭く裂けてしまうことくらい容易に想像がついた。
しかし動けないほどの痛みは感じなかった。
ジェイが興奮しているせいかもしれない。
「さきに、口だな」
ジェイは新しい縄を構えると、翼よりも先に口を封じることにした。あの炎で縄を焼かれてしまうのはやっかいだ。
しかし、ドラゴンは大量の炎を吐きながらジェイに近づいてくる。
そこに縄を投げるのは、焼いてくださいと言わんばかりの無駄な行為だ。
≪一度あっちに放って、後ろから縄をくっつけるか≫
素早く周囲を見回して作戦を練ろうにも、ドラゴンは次々に攻撃してきた。
炎を吐いて近づくたびに、ジェイは一目散に走って逃げなければならない。時には大きく飛び上がったり、くっつく魔法で近くの木に飛び移ったり、いつのまにかジェイは随分と戦うのも上手くなっていた。
とはいえ、逃げてばかりだったが。
― ドゴーン ―
ドラゴンが炎を吹く度に、ものすごい音が響いていた。
辺りは草や木が火で焼かれ、炎と黒い煙があがっていて、とてもジェイ1人の戦場とは思えないほどだった。
「くっ」
ジェイが3度目に投げた縄は、少し向こうの木にひっかかった。
≪よし≫
ドラゴンがそこに近づいたら、あの縄をドラゴンにくっつける。そのためには、ジェイがもう少しドラゴンと木とは反対側にいなければならない。
ジェイは木の位置と、ドラゴンの飛ぶルートを視界の端で確認しながら走った。もともと逃げるのは得意だ。走るのは速い。
しかし相手はあのドラゴンで、力も強いうえにジェイは逃げるばかり。そして何より、恐怖を感じていては、疲労もひどかった。
ただ走って逃げるのとは違う。自分の足がいつものようには動かないのだ。だけど、ここで転んではすべてが終わる。死にもの狂いで走った。
「は、は、は、は」
息が上がりそうになりながら、ドラゴンを見ると、ちょうどあの木のそばを通過するところだ。
≪今だ!≫
こんなところで立ち止まるのは勇気が要る。
しかしジェイは立ち止まって振り向くと、手を上げて魔法を放った。
仕込んでおいた縄はドラゴンの口にくっついた。
「よし」
そしてそのまま、口を縛るように絡める。
なんとか口を塞ぐことに成功した。
「やった」
とはいえ、安心するのはまだ早い。ドラゴンは翼を動かし、物凄い勢いでジェイの方へと飛んできているのだ。
あの翼に叩かれたら、それだけでお陀仏だ。あのカギ爪で裂かれたら人間の形でいられない。あの脚に掴まれたら握りつぶされるだろう。
一番厄介な炎がないだけでもかなり助かるとはいえ、ジェイがあのドラゴンを仕留めるのはまだまだだった。
しかももう、ジェイの体力の限界が近づいていた。
ビュンと迫ってきたその脚に掴まれそうになる寸前に、ジェイは飛んだ。前にはまぐれでしかできなかった跳躍の魔法ができるようになっていた。こういうのを火事場のくそ力というのか、それとも本当に実力なのかは、この際どうでもいい。
飛び上がってしまうと、次は自由落下だ。
そのままだと、ドラゴンはジェイに狙いを定めて飛んでくる。早いところ着地地点を決めて、そこに「くっつか」なければならない。
ジェイが下を見ると、なんと下に黒いドラゴンがいた。
それもそうだろう。これだけ大きな音を立てているうえに、何度も炎が上がっていてゴローが気づかないはずがないのだ。
「来るな、ゴロー!逃げろ! 」
ジェイは上から叫んだ。
その声が聞こえたのか聞こえていないのか、ゴローはただキョロキョロと周りを見回しているだけだった。




