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ゴローの一部



 茶色いドラゴンが死んで、埋葬が済んでも、3人はしばらくそこにいた。もう夜も更けていたので、その日はそこで休むことにした。



 次の日になって、日の光を浴びると、やっと気持ちが新しくなるような気がした。3人はまた川のそばへ行くと腰をおろし、話をすることにした。ゴローが色々なことをジェイに聞きたかったのだ。

「私は、人間に戻る大きなヒントを見つけたような気がします」

「そうだな」

「ジェイ、気のない返事ですね」

 なんとなく気合の入ったゴローとは裏腹に、ジェイは沈んだ顔をしていた。

「そうか?」

「ジェイは昨日もドラゴン退治をしたし、しかもその後使い慣れない魔法を使ったから、疲れてるんじゃない?」

 モンがフォローしてくれた。


 確かにその通りだ。使い慣れない魔法はどうしても疲労が大きい。だけど、ジェイの心をより疲れさせたのは、昨日ゴローを傷つけてしまったことであった。ゴローは何かをジェイに聞きたい様子ではあるが、ジェイはまたゴローを傷つけることを言ってしまうのではないかと思うと、どうしてもうまく話せないような気がした。


「あの魔法は驚きました。ジェイが、あんなことができるなんて思いもしませんでしたから。ジェイ、すごいじゃないですか」

「うん。まあ、ここのところ魔法を使ってるし、魔法を使う意味とか、必要があるから、いつの間にか上達してて」

「他にも色々出来るようになってるんじゃない?」

 モンも嬉しそうに言った。

「いや・・・別に、魔法は使えなくても良いんだ。俺は、普通の人間になりたいんだ」

 と言ってから、ジェイはまた、しまったと思った。人間に戻る望みの薄いゴローの前でこんなことを言ってはいけない。そんなジェイのようすをゴローは咎めなかった。


「ジェイはあの人が、人間に戻れるって思いましたか?」

「うん・・・」

 ジェイはゴローを傷つけないようにするあまり、またもぶっきらぼうになってしまった。

「どうしてですか?じゃあ、私も腕を切り落としたら人間に戻れますか?」

 そう言われてゴローの顔を見るジェイの目は戸惑いであふれていた。その顔を見てゴローは察した。

「私は人間に戻れないってことですか」

「いや・・・」


 困り果てたように下を向くジェイを見ていて、モンが優しく言った。

「ね、ジェイ。本当のことを言うのは辛いかもしれないけれど、ゴローは知りたがってるわ」

「でも」

「ジェイだって、自分のことで本当のことを知らされていなかったら嫌じゃない?」

「それはそうだけど」

「じゃあ、ちゃんとゴローにも言ってあげなくちゃ。ね、ゴロー。ジェイはゴローに嫌な思いをさせたくないって言うんだけど、ちゃんと言ってくれた方が良いわよね」

「勿論です。本当のことを言ってくれた方が嬉しいと思います」

「でも」

 そう言ったきりジェイは顔を苦しそうに歪ませて、次の言葉を出せずにいた。


「ジェイは本当に臆病な賢者様ですね」ゴローが笑った。「ねえ、ジェイ。私はね、もう200年も生きているんです。そりゃ、嫌なことがあれば落ち込みもしますけれど、大概のことは経験してきてるんです。そんなにジェイが思っているほど繊細じゃないですから、言って良いんですよ」

 そう言われてみると、昨日も、傷ついて去って行ったゴローはそうだった。言いたいことは言うし、落ち込んでみせるけれど、いつまでも引きずっていないで、先へ行こうとしている。

 ね?というふうに首を傾げてジェイを覗き込むゴローのそのあっけらかんとした感じに、ジェイは迷いながらも、やはり言うべきだと思った。


 ジェイは口に手をやり、少し考えるようにしながらゆっくりと話し出した。ため息をついたり言葉を区切ったりするのは、ゴローを傷つけたくない気持ちと、本当のことを伝えようという気持ちのためである。

「あのドラゴンの人は、生きるか死ぬかってことは考えていなかったんだと思うんだ。ただ、あの左腕にある悪魔の魔法を取り去りたかった。それは人間らしい気持ちだ」

 ジェイが話しはじめると、ゴローは真剣に聞き、そして相槌をうった。

「だから、彼の腕を見た時俺は、彼は人間に戻れると思った。その左腕さえ切り離してしまえば、彼はもう悪魔の魔法から解き放たれる」

「じゃあ」

 ゴローは希望が湧いた。左腕を切り落とせば人間に戻れるはずだ。だけどさっき、ジェイはその言葉を肯定しなかった。

「ゴロー、お前は昨日、その悪魔の魔法が自分の命を守っているって言っただろ。俺もそれはそうだと思う。だけどこの大陸の人間はさ、多分そんなに生きないだろ?200年経てばみんな死ぬんだ。

 だから、腕を切り落として人間に戻れば200歳になった身体は朽ちてしまう、つまり死んでしまうんだ。悪魔の魔法がゴローの命を守っているのは確かだよ。

 それに、腕を切り落としたら当然、火の魔法は使えなくなる。ゴローはどう思う?命と火の魔法がなくなっても良いか?」

「それは・・・私の身体の一部ですから、なくなるのは困ります」

 ゴローは素直に答えた。

「俺にも、ゴローがそう思っているのがわかる。お前の腕には、悪魔の魔法の命とゴローの人間としての命が絡まり合っている。その腕だと、俺の魔法では切り離せないんだ。そのまま切れば、お前はドラゴンのまま死ぬことになる」

 この言葉を言うのは本当に辛かった。

 どちらにしろ、ゴローは悪魔の魔法の宿る前脚を切られれば死ぬのだ。だけど、今のままでは、ドラゴンとして死ぬことになる。つまり“ゴローはドラゴンだ”と言ってしまったのだ。




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