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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
la mariée -花嫁-
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84 捕えようと思っていた者が捕えられる

「ちっ、何をしている! 効かないのか、ならーー」


「お父様」


「お前のことなどどうでもいい! ヴィスはどこだ! 私のっ、息子はーー」


イディオファナは少し弱っていた。リョクは手出しはしようとしなかったし、ヴィスは銃撃でイディオファナの攻撃を防いでいた。その後壮絶な格闘戦が始まった。しかし、元々淫魔族は智略に長けるが、その分身体能力は他の族には劣っていた。イディオファナの手足である洗脳はレジニアによって解かれており、また行うには時間が必要だった。そんな時間をヴィス・コルボーが与えるはずがない。

怒涛の連打が続いた。蹴って殴って、衝撃波を飛ばし、吹っ飛ばす。イディオファナを守りにきた護衛すらもまとめて吹き飛ばしていき、その隙間隙間でヴィスに攻撃が当たっていて、ヴィスの方にもダメージが蓄積していった。とばっちりはリョクが全部斬り捨てた。その数は後処理とはいえ、相当な数に及んだ。


結局、他の幻妖フェージョンたちは手出しすらできなかった。ただの喧嘩…にしては尋常ではない気迫があったのに加えて、この場の異分子たち、特にヴィス・コルボーとレジニア・ソワンについての能力がはかりかねるところがあったからだ。それにヴィスとイディオファナ、そしてギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムとの関係性も。


「お前のやっていることは、この場の行動によって証明された…っ。詰みだ」


双方ともに満身創痍であった。淫魔族の部下たちを全て倒したヴィスはそう言った。血が滲んでいる。

先ほどとは一変して静寂が場を支配した。皆がイディオファナの返事を待っていた。ヴィスは気合いだけで立っているようなものだった。互角に戦うことができていたのは、そう見えていただけである。動きが鈍いのも承知の上だった。まだイディオファナはヴィスをいたぶっていた節があった。


「ふふっ」


ふと、イディオファナの様子が変わった。


「あははははっああああ!」


狂ったように笑い続ける。この狂気。ヴィスには経験があった。自分自身の狂気と、そのまんま同じものだったのかもしれない。イディオファナに関しては小さい頃、こんな顔をして、自分を見ていたような気がする。自分には何もないのだと。あるのは父親である、この自分だけだとーー


当然ながら周囲はイディオファナの様子に騒然となった。様子を尋ねようと近づいた生き残りの護衛がゴリっという音と共に蹴られ、踏み潰され、惨たらしくなっていく。その姿をただ眺めているしかできなかった。淫魔族は彼の国であり、ここは彼が法である。彼がやることは正義だった。がしかし、同族をここまで痛めつけるとは、というのが皆の総意であった。アンソルスランがレジニアにやっていた行為とは全く違うのだ。身体が変形している。痛ぶるのではなく、憂さ晴らしにこのような行為に出るとは。




「お前にっ、できるはずがない。汚れたお前がっ、結ばれていいはずがなかろう! 幸せなんて、望んではいけないのだ。さあ私の声に従え!」




暴力を加えながら、誰に言っているのか一瞬わからなかった。自分に言っているのだと気がついたヴィスに強烈な頭痛が襲った。なりふり構わずに壊したい衝動に駆られる。そして、父親には従わないといけないという、根をおろしていて、自分でも隠していた規律が、掟が蘇ろうとしていた。ヴィスはそれに逆らえない。

視界が歪み始めた。何も聞こえなくなる。何も感じられなくなる。何も、何もできなくなるーー




「ヴィス!」




視界が暗くなる中で、誰かが叫んでいた。その声も若干どころかかなり遠い。細い線の彼方に存在しているような、そもそも存在していないような気がしていた。




「待って、行かないで!」




誰かの声がした。高く凛としていて、それでいて誰よりも優しいその声。

ヴィスにはそれすらも断片的にしか聞こえなくて。でもどこか既視感があった。




「ヴィス!」




ああ、確かに思い出した。あれは確か彼女を見捨てたときだったような気がする。自分のことしか目が回らなくて、彼女を混乱の中見捨ててしまった最低の自分がそこにはいた。




『人生ってやり直せるんだぜ』




そういったのは誰だったか。その時よりさらに過去、自分に手を差し伸べてくれた親代わりの存在。




『だから、行こう。みんなが待っている』




ヴィスはあのとき自分で拒否した彼女からの光を掴んだ。急速に浮き上がるような感覚がして、視界を取り戻してブレた。




「っ、ディーナ」




白く白いか細い腕がそこにはあった。ギネフェルディーナはまたしても身をとしてヴィスを守ろうとしてくれた。




「ごめんな、さい。本当に申し訳ない。ずっと言いたかったんだ」


「っ!」




また泣いてしまった。泣かせてしまった。いつもこうだ。記憶の中の彼女は泣いている。なんで泣いているのか。自分が泣かせてしまったからだ。


「許す必要なんてない。とりあえず力を、今だけ貸してくれ」


ヴィスはギネフェルディーナの腕を優しく解いた。


血に塗れた手を開く。徐々に光の帯がそこに集まっていって、太陽のような輝きを放った。つかみ、そして走る。最後の手段、ヴィスの洗脳という一番頼れるものだったであろうそれは、ギネフェルディーナとヘルツバールの力によって取り払われた。それをイディオファナは知るよしもなかった。ギネフェルディーナが護衛を退け、何かしたことしか判らなかった。


「いい加減


動けることに愕然としているイディオファナの顔を




くたばりやがれえええぇぇぇえええ!」




ヴィスは一発、吹っ飛ばした。






+++







「うっ…」


そこは見知らぬ場所だった。一体何が起こったのか。何日経っているのか。イディオファナには思い出すこともできないが…


「やア、お目覚めダナ。淫魔王」


「なぜ貴様がここにいる」


そこにいたのはただ一人、君主モナルクと同列に扱われている存在だった。赤い、朱色になびく髪の中に小さな三つ編みの編み込みがうつる。イディオファナは彼が嫌いだった。その感情は向こうのほうもどうやらあるようだ、というのは前々から知っていたこと。


「潜入捜査ハお手のモノ。ロワンモンドに比ベタら甘い甘イ」


つまりあの戦いの何処かに彼、ヘルツバールがいたということなのか。


(ならば加勢すればもっと早くことが済んだだろうに)


さすがにイディオファナはヘルツバールの実力は認めている。あえてワンツーマンの演出を実現させたのだろうか。結局のところ集団戦に発展していったが。


「さテ、トコロでだ。お前の処遇にツイテだ。さすがにアレダケのことをしでカシテお咎めナシとはイカないワケだよ。ピエロくん」


「処遇だと!? 壊しに来たのはあちらの方ではないか! そしてそれを仕向けたのもーー」


「ヴィスに関してハよくヤッタよ。あんな大立ち回リ。途中危なカッタけどな」


「やはり貴様、あそこに…」


「いないハズガナイだろう? 子供に関するコトなんダ。親が憂いナイデどうする」


やはりか。

例えヘルツバールが加勢しても状況は変わらなかったのかもしれない。一番の決め手になったのは、自分の血を引く娘の存在だ。あの娘さえいなければ勝っていたであろう。歯牙にも掛けなかったことが自分の敗因の一つなのだろうが。

自分も用意周到だと思ったら、相手も用意周到だったという話だ。さすがにヴィスに関しては唐突に自分とのシンクロができなくなったから、生きていても何かしらのことはやらかすと、乱入くらいはしてくるだろうと思っていたが…


「さて、俺サマも義務ガアルからな。お前の問イに応えてヤロウ。コノママだとお前ガ不憫デ仕方がナイから、ナ」


いつの間にか出現した椅子に座ったヘルツバール。イディオファナは先ほど…かは分からないが、ヴィスの攻撃によって満身創痍で横たわっている。ヴィスをそこまで育てたのは自分自身の憎しみであるとイディオファナは思っていた。今でもそう思っている。






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