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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
la mariée -花嫁-
88/92

85 真実はしばしば笑いの内に語られる

ーーとある話だ。

ずっとあるところに縛られてて動けない軛の擬人化がいる。そいつは動けないが二つの世界のすべてがみることができた。

ある日、とある男が言った。人間の器に貴方の魂を入れましょうと。そうすれば貴方の気も紛れ、偽りではあるが自由を手に入れられるだろうと。軛はそれに乗り、軛の一部はモノになった。


モノが自我というものを会得したときには、すでに役割は決まっていて、それでも抗うことなんてしない。そんなことは無意味だった。周囲が国が自分の敵だった。

横暴な黒竜王がいた。竜は秘密裏に人間を必要以上に喰い尽くし、自らの力を増していた。本来生贄に捧げられる自分を置いといてだ。

そんな凄惨な光景を見てしまい、モノは思った。生きたいと。そのときモノは自分の存在意義を思い出したのだった。


クソッタレだ。軛も男も自分自身も。竜は軛が世界を呪ったために生み出された異物で、結局のところ竜もその軛の操り人形に過ぎなかったわけだ。そしてそんな竜と自分自身は鏡合わせのように似ていたのだ。






「ーードコカで、思い当たる節ガアルだろう?」


途中から嫌な予感がしていた。どこか他人事のような話がしないのだ。それどころか色々と類似点が多すぎる。特に最後の方はなんといった…?


「まさか…お前がモノだと言うのかっ、いや待てよ、はっ、ははは! 何を言ってるんだ!? おかしいじゃないか! 私がっ、クビキの操り人形だと、お前は言うのか!? ふざけている、間違っている!」


これが全て真実だというのなら。今まで自分がやってきたこと全てが目の前の男の手のひらの上だったことになる。

…違う。実際すべて操れるとかそういうことではないだろうが、思考は負の感情に行く。幻妖フェージョンを嫌う。自分自身が何なのかわからなくなる。それも全部この男と一緒であるというのなら。

自分は軛とやらが世界を呪ったために生み出された負の産物だった、ということになる。横暴な竜王、この場合は黒竜王と同じく。


「そんなに否定するトコロが、逆に肯定シテイルって証拠になる。気がツイテいるんダロウ? 聡インだかラ。コンナところで勝手ニ頭が鈍クナルなんて、都合のイイコトは存在しないンダヨ。だってそのヨウニ創られてイルンダから」


例えば幻想世界イリュジオンでは争いは起こらない。ギネフェルディーナがそう決めたから。だとするならば、自分の能力は異端なのだ。普通なら起こらないバグみたいなもの。その原因が軛とやらというものだったということか…?


合致はいく。でも理解ができない。今まで謎だったことが急に判明された故の混乱か、それともあっけなさというべきか。それとも目の前の男のいうように、理解したくないのだろうか。イディオファナは頭が痛くなってきた。


(なんで…)


イディオファナは基本的に自分の意思で重要な局面にあっていなかった。君主モナルクになったのも裏で動きやすくするためだった。それでも周囲が勝手に推薦したからなったのだ。結局彼が望んでいたのは人間という種族の解明と自らの能力について。それだけに固執していたと言っていい。それを勝手に他者から種明かしされたときの絶望感や否や。種の中を開けてみたらまた種だった。つまりそこを開けたとしても何も意味がなく、種を剥いた跡だけが残っただけ。しかもその中には真実は詰まっていなくて。


「まあ俺サマも人のコト言えた義理ジャねぇ。お前ハ俺サマの負の遺産ノ産物だ。哀れダ。だから生かしておくこと(・・・・・・・・)にした(・・・)


イディオファナは悪態をついた。何度も何度も何度も。


生かしておくこと(・・・・・・・・)にした(・・・)…? それではまるで拷問ではないか)


何度も何度も悪態をついても、ヘルツバールの顔から哀憫あいびんの表情が消えることはなかった。


(っ、何なんだこの男は)


始めてかもしれない。イディオファナはヘルツバールに対して、多少の畏怖を覚えた。おかしい。自分がおかしいことは客観的に理解はできようが、この男に対してはそれ以上に底しれぬ何かを感じた。


(先ほどの言い分だと、あいつはモノであり、くびきのはずだ。そもそも軛とはなんだ? それに、ここは…どこだ? どこで話している?)


そもそもだ。ここは何なのだ。自分の世界でもロワンモンドでもない。ただ横たわっているだけでも自分がどこにいるのか、今更ながらわからなくなりそうになる。ここには地面がないのだ。それなのに固定化されたかのようにイディオファナは横たわったまま留まっている。傷口はある程度回復はしているものの全快ではないので未だに痛む。

空は混沌としていて、マーブル模様でもあるかのように歪んでいる。グニャグニャと、見ているだけで酔ってきそうなほどひどい空間だった。その上空間把握もできないときている。


こんな様子で、こんな明らかに自分のいた世界とは違う場所にいて、イディオファナは現実を受け入れようとしなかった。自分が負けたことも、そして先ほど判明したしょうもない現実も、全て。


「ココも結構広インダぜ。歩イテいけば別ノ時間軸ノ世界ニ繋がってイルかもシレナイ。正規のルートを通ラナイとそうナル場合が多いカラナ」


そんな哀れな姿を見つつ、自嘲でもするような口調でヘルツバールは話し、虚空に向けて笑う。もはや傷心状態のイディオファナを見ることもしなかった。


「なんトデモなレ、ダ。俺サマはオ前のコトハ未ダ二嫌イダがな。コレハただノケジメダ」


ともはや独り言の羅列を並べつつ、


「あ、この世界ハ俺サマのゴ本体が許せバナンデモでキル理想ノ世界だ。だカラ生理現象を起こしたトシテモ頭に思い浮カベルだけでナンデモ出現する。こんなフウニ、ナ。

まあせいゼイ俺サマに抗っテ、頑張レバいい。オウエンしてるゼ。ジャアな、ピエロくん」


ベッドを出現させたヘルツバールの声が遠ざかって行く。イディオファナはそのベッドの中にいつの間にか入っていた。イディオファナは現実から目を逸らすかのごとく視界を遮断した。






+++






「さて、とりあえず改めて私が主君の代わりにご説明をさせて頂く」


色々と片付いた後で(ほんの一部だけだったが)、リョクは招待客を招いていつもの説明を行った。淡々と感情も乗せずに事実だけを報道するかのように。これも神族の姿の一つだと鞆絵は再確認した。


一つ、重要なことはギネフェルディーナがイディオファナと個人的な取引をしていて、それに逆らえずに結婚することを呑んでしまったこと。個人的な取引というのが、ギネフェルディーナがやけに親しくしている見知らぬガキ(・・)であることには皆んなは薄々気がついていたが、そこら辺はリョクがぼかしたため見てみぬふりをした。それだけ本来の神族としての権限が強いということになる。


それと同時刻、彼ら幻妖フェージョンにとってはあり得なかった行動が、行われていた。


「大丈夫?」


「まあ、なんとかっ…な。あんたのおかげで運は良いようだ、し。致命傷は外してある」


「本当?」


「ああ」


「よかったぁ…!」


“ああ、痛い痛い” と続いた二人の会話。ギネフェルディーナがヴィスに抱きついたのだ。そんな状態を鞆絵はなんとも言えない目つきで見ていた。 結局彼らには互いが必要でそれは昔から変わらなかったのかもしれない。そんなふうに少し思ってしまった。けれども鞆絵はギネフェルディーナと話したかった。未練という苦い気持ちを断ち切るためでもあったのかもしれない。それとも納得していないのかもしれない。それと同時にリョクの主人として、自分の上司? つまり上の立場となる幻妖フェージョンに対して、挨拶しなければならないという義務感もあったのだ。






色々とよくわからん説明が盛られてしまいましたが…

最初に出てきた話は外伝で本編完結後に連載予定です。


もう少し続く…(予定)。

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