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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
la mariée -花嫁-
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80 りんごは幹から遠くに落ちはせぬ

こうした色々な思惑が入り混じった中で、鞆絵は最初ともいえる公式的な来賓扱いの訪問をしていた。それについて鞆絵が考える必要はなかったし、重苦しい立場について、今は頭を悩ませる余裕がない。今はただヴィスの動向と神族の対応が気になっただけだ。


(自分の容姿なんて、いま気にしようがどうしようもないっ、し)


やけに動きにくい服の構造だって気になる。見栄を張らなければいけなくなる。リョクの側に(立場上)いるところで、彼がすべてサポートしてくれるわけではない。彼からは、幻妖フェージョンの危険さについて、訪問が決まってから、作法と同様に説明を受けていた。

実際、鞆絵は知っているのだ。幻妖にとって、人は餌。そんなふうに考える力の強い幻妖も多い。しかしこれは君主モナルクである幻妖、または君主に近い幻妖ほど意識が変わる。彼らは世界を跨いだ友人なのだと。そういう考えの草分けを作ったのはヘルツバールだ。彼は強くて、ギネフェルディーナにも認められている。実力主義の幻想世界イリュジオンではヘルツバールの存在は君主と同様として認められた。

実にすごいことだと思いつつもその業績の偉大さに眩みそうになるのが、鞆絵の現状だった。


そんなこんなで、来賓とはいえ、鞆絵は人間で扱いは神族の幻妖フェージョンと同じだ。手を出せば族問題に発展するのだが、それを無視して危害を加える幻妖がいないとも限らない。リョクは鞆絵周りの警備を自分より強くしていた。

まだ、鞆絵はリョクほどに力を使いこなせない。当たり前のことだ。時間が短すぎる。これから徐々にやっていくことなのだから。


それはこの式典中もあまり変わっていない。立場上、リョクの隣に入れるのは鞆絵だが、以前から危ない橋を渡るなと念を押されているのもわかっている。ヴィス・コルボーに関することだ。

ヴィスについてはリョクは色々と感情を持ちすぎて、ぶつぶつぶつと独り言をずっと発し続けるくらい、長い感情になるのだが、今回はとりあえず、状況に応じて援護か静観か。どちらかの命令を部下に下すことにしている。


とりあえず、この式典のどこかにヴィスが乱入することがほぼ確定している。そうでないと本当に淫魔王イディオファナ・エロン・ロワイヨムとの結婚が正式に成立する。成立したら取り返しがつかない。破るなんて選択肢は、彼女の立場上、ないのだ。






+++






淫魔王イディオファナ・エロン・ロワイヨムはギネフェルディーナと結婚することができて、有頂天になっている…ということではなかった。周囲のものたちが訝しむほど、冷静だった。


彼は仲間を持たず、側近を使い捨てするだけだ。使えるなら使うし、使えなければ変える。そもそも誰も信用していなかった。

妻だって同様だ。アンソルスランは認識しているが、以下は入れ替えていることすら認識していない。間者も同様で、刺されたところであまり気にしない。刺されて死んだらそれまでだと思っているし、死ななければ洗脳という末路が待っているだけだ。


彼は自分の力の及ぼす事象だけに興味があった。自分の本来の力である洗脳は周囲には隠して淫魔族の特有の力である魅了を持っているということにしている。彼にとって口封じは簡単であったし、その力もあった。

そんな彼にとって君主モナルクという地位は邪魔だった。立場的にやれることもある。それはギネフェルディーナとの面会。それ以外はあまりにも鬱陶しいくらいの執務の量が押し寄せてくる。自分の研究の場所を秘密裏に作ってはいたが、彼は飽きた。なぜなら淫魔族で一番強いのは彼であるとギネフェルディーナから認証されているからだ。それならそれが事実となる。そういったこの世界の規定がイディオファナにとっては堪らなく嫌だった。


ロワンモンドに注目し始めたのは竜族の次と自称しても良い。あそこは幻妖フェージョンにとっては辺鄙な場所として興味が向かないように、誰かから仕向けられているかのように、幻妖たちは無関心だった。

イディオファナは違った。急速に発展していく文明はいつしか自分たちの世界よりも民度が上がってしまった。人間の活力には恐れ入る。それに比べたら自分たち幻妖はなんたる始末なのか。

イディオファナは人間を使って研究を始めた。人間相手に対しても洗脳が効く。しかし世界の壁があるのか、異世界なせいなのか、イディオファナの力が落ちるせいなのか、それら全てが原因なのかはわからなかったが効力は落ちた。だがかけ続けるうちに幻妖のとき同様に相手の抵抗力が落ちていった。これは思わぬ収穫だ。やはり幻妖と人間は似たようなものなのかもしれない。幻妖にとっては餌となるの力を持ち合わせているのだから無関係とは言い切れないーーそもそもなんで世界が二つ存在する?

イディオファナの問いは増すばかりであったが、それに応えるものはおらず、自分でやって見つけるしかなかった。それが堪らなく愉快だったりした。




洗脳した個体を交配に使うことがあった。世界の垣根を超えて、子供はできるようだった。しかしできた子供は胎内で亡くなってしまうか、生まれてきても数日しか生きられない。淫魔族も子供ができにくいが、人間に関してはこれの比ではなかった。生きられないのだ。個体のことはどうでもいいが、自分の子供のことについては興味がある。イディオファナは世界を呪った。

つい最近の出来事だった。その子どもの母親は子供の代わりに死んだのかもしれない。そんなことはイディオファナの頭の中にはない。その個体から生まれた子供は生き延びた。イディオファナは度々様子を見に行った。彼も自分と同じ力が使えるらしいと知ったときの愉悦といったら、なんと表現すればいいのか。自分の怨念が息子にも宿ったのかもしれないと思った。


(すばらしい)


イディオファナは外見が美しいものが好きだった。だからギネフェルディーナもそれなりに好きだったし、物だって自分の感覚に従って自分で選ぶ。人選だってそうだったし、逆に誰かに決められることが嫌いだった。幼少期の環境が関係しているのかもしれないが、それについては気にしていなかった。不快なものは不快なものとして切り捨てる。その代わりに綺麗なものはそれなりに愛でる。この自分の子供の頃に瓜二つな顔を持ったもう一人の自分を本気で愛せる、と思っていた。


洗脳の力は使わせるようにした。彼と一緒に世界に復讐してやるんだと思っていた。息子の意思は関係ない。ただ息子は親に従っていればいいのだ。幼少期に自分が親から言われた通りに。

そうして世界に復讐をすれば、何かが変わるだろう。その何かが変わるのをイディオファナは見てみたいと思っていた。そうすれば息子も喜ぶだろう。親の喜びが子供の喜びだ。

そのようにイディオファナは無意識に息子を洗脳していたし、息子も洗脳されていたことが分からなかった。ただ息子にもたらした効果は周囲をぼんやりとさせ、自らが行った行動をわからなくさせ、自分の力を発動させることに躊躇を及ぼさないこと。周囲への興味を失くさせること。心を失わせることだった。

子供が洗脳させるために選ぶ道具は数知れず。与えるだけ与えまくった。本音では彼はその場に居続けたかったのだが君主モナルクとしての立場がそれを許してはくれない。


(あのドブ猫が全てを持ち去った。そうだ。あいつが悪いのだ。ヘルツバール・ラバス・ロワイヨム!)


たぶん相手もこっちの殺気を感じているのかもしれない。ちょっかいをかけてヴィスの行方を探そうとしても絶対に彼が邪魔してくる。

それにイディオファナはロワンモンドの住人ではなかったから、かの異域のことについてはまったく無知だった。執務の隙をついて捜索しようにも手がかりがない。ヘルツバールが息子を連れ去ったことのみだけが分かっていた。ヴィスと名付けられたイディオファナの息子はかつて竜族の族領で時間を過ごしたことがある。そこでようやく知れたのだ。位置が分かっていても、今戻すのはまずい。

遅すぎた。息子に自分の記憶が残っているかどうか、あやふやなままだった。イディオファナのことを覚えておいて恭順するのかが分からない。


ただ息子の眼はイディオファナの眼でもあった。息子の視界だけがイディオファナには視えた。異世界ならまだしも、金狼王の一部意識を洗脳したなど、少し色々あったが最終的には自分たちの世界にいるのだ。自分の執着が息子の洗脳を強めたと言っても過言ではない。血のつながりは消えていなかった。イディオファナがヴィスのことを見つけられたのだって、ヴィスの世界から視た世界が竜族の族領だったからだ。


そして今、この式典の近くに忍び込んでいるのをイディオファナは把握済みであった。






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