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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
perturbation -動揺-
82/92

79 鳥は少しずつ自分の巣をつくる

ヘルツバールは女官の姿に変装していたため、ギネフェルディーナより身長が低くなっていた。密かなコンプレックスの一つである身長の低さに、今はイラつく。

容姿は…というとそれほど気にしていない。凡庸なほどいろいろと溶け込みやすいことを知っているからだ。下手に秀でていると苦労する。ヴィスや目の前にいるギネフェルディーナのように。

そんなことを思いつつもヘルツバールの顔立ちは整っていると言われるくらいの顔だちはしていて、それは女装して顔だちが若干変わったとしても同様だった。ヘルツバール本人はそれを気づいていない。


「ダカラそれをヤメロといってルンダ。お前ノ力ヲ使うとフェアじゃナクナル。それを忠告しにキタンダ」


ギネフェルディーナの力は反則だ、条件さえ満たせば。彼女が幻想世界イリュジオンの女神、と称されるのも、その力を受ければ納得がいくだろう。それだけの力を持っている。ヴィスが契約コントラしていたとしても本人の10分の1くらいしか、どんなに扱おうとしても無理だろう。その力だとしても大抵の君主モナルクは勝てない。今のヴィスは契約破棄していて、その残滓しか使えないとはいえ、ギネフェルディーナが望めば力は使えるのだ。この場所は条件が悪いとはいえ、先程の10分の1のさらに10分の1、くらいしか使えなくても。それでも式典を壊すには十分すぎる。




ヘルツバールだって、助けれるのなら助けたかった。だからその気持ちはギネフェルディーナと同様だった。衝動的な部分が強く、過激な面を持ち合わせているヘルツバールは(ここは意外にもギネフェルディーナと似ていた)、気持ちだけでいったら、ギネフェルディーナに勝ってるのかもしれない。でも、それではダメなのだ。

ギネフェルディーナとの過去の顛末を、自分なりに反省してみれば、ソリテュードのいっている通り、過干渉すぎた。大いに過干渉すぎた。やはり自分でなし得なければ意味がないのだということを。歯を食いしばりながら、自分に言い聞かせていた。


「それでナイト、ヴィスは納得しナイ。お前たち二人で逃ゲタ時のようニ、あいつは納得シナイママだ」


「…それは」


ギネフェルディーナは飲み込みが早かった。ヘルツバールよりも。本当はこれくらい “良い子” であればヘルツバールは早死にすることができたのだろうが、彼はそうではなかった。


「ヴィスは、そうすれば満足するの?」


ヘルツバールはギネフェルディーナの真摯な翠色の瞳から目を逸らした。


「満足する、トカいう話ジャねえ。ケジメだ」


男としてのなけなしの矜持を保つための戦い。それが中身を引っぺがして残ったものだった。あとは本人が彼女にいうしかない。


「ジャあな、ギネフェルディーナ」


今のところ、彼女に言えることは終わった。お節介もやりすぎると迷惑だということは承知済みだった。

ただギネフェルディーナの兄のソリテュードにこの行動がバレるといろいろとうるさいなとほんの少し思いながら。

ヘルツバールはその場から姿を消した。






+++






なけなしの飾り付けは、少しでも自分を良いように見せてくれるのだろうか。


(自信がないなぁ)


そして “敵” の本拠地にいるというのも、何だか実感がない。

確かに建物は違う。白一色の神族の屋敷に比べたら、黒を基調として天井も高い淫魔族の君主宮モナルク・パレは真逆だ。空気も何だか重い。でもその重さが荘厳さをさらに際立たせていると思う。


ただ、場違いには感じる。

リョクに聞けば、他の族領の場所に招かれるという事態は滅多にないことらしい(招く方が立場が上なことが多いため)。神族ならなおさら、招く方が多いという。

実際、招かれているという来賓客の中で一番目立つのは白を基調とした服を着る神族の集団だ。少人数でリョクが悩みに悩んで連れてきた精鋭たちだ。男女分け隔てなく、神族は美男美女の集団である。




最初に鞆絵に挨拶してくれた女性の神族の幻妖フェージョンの恭しさをみて、鞆絵は逃げたくなったほどだ。そんな彼女もこの集団に入っていた。リョクに始めの方で紹介されたということは、つまりそういうこと(・・・・・・)、リョクから信頼されている証ではあるのだが…容姿を見れば二重な気持ちで逃げたくなってしまう。まったく敵いそうにもない。何もかも彼女と比べたら、さらにはギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムに比べたら、鞆絵の価値が一切ないように思えたのだ。




「お似合いですよ」


ありきたりの言葉だった。鞆絵はこれまで正装したこともなかったし、ましてや貴賓などという席に座ったこともない。価値観がわからない。


「リョ…えーっとアベル様は?」


鞆絵の呼称も遠慮がちになってしまった結果だった。本来なら同等の立場なのに、相手をたてる。そちらの方が丸く収まると思って。予想以上のリョクの立場の高さに鞆絵は慄いてばかりだ。


「呼びましょうか?」


「い、いえいえ! 私の方から行くので!!」


「トモエ様、こういった場は、女性がエスコートされる側ですのよ」


それで、鞆絵の着替えを手伝ってくれた、先ほど話題にした神族の女性はそういった。レディファーストという概念が鞆絵の脳裏から遠い。


「アベル様をお呼びしますね」


そういう彼女も、着替えはほぼ終わっていた。彼女の方が自分より綺麗だと鞆絵は感じた。


(こんなところで落ち込んでてどうするのよっ!)


本当は動きやすい服の方が良い。ヴィスを助けることを鞆絵は諦めていない。今回の結婚式では一波乱起こることは一部の幻妖フェージョン、人間には分かっているのだから。


「あ、あの、色々とありがとうございます」


お辞儀ではなく、顎を下げる。これもなけなしで学んだ所作であった。






+++






(ふン、結局こんなもんダロウ)


トモエの式典姿を横目で見つつ、ヘルツバールは建物を見やる。

ここが結婚式場らしい。君主宮モナルク・パレに近いため貴賓の幻妖フェージョンが挙式するのだろう。淫魔族はロワンモンドのある国と同じように貴族制度が存在する。


ヘルツバール・ラバス・ロワイヨムではなく、ヘルツバール・ラバス。または投げやりだが本名のクレアシオン・ヘルツバールでもいい。そんな立場で彼は変装してここに来ていた。

警備は少し厳重にされているが、突破できないわけではない。ロワンモンドの感覚でいえば、緩い。これならヴィスは簡単に潜入できるだろう。成功するかは…正直なところ判らない。ヴィスの覚悟にもよるし、ギネフェルディーナの覚悟にもよるだろう。


来るべきではない、と少し考えた。現に盟友のアルゲベルトは来ていない。でもやはり気になるのだ。例え介入できないのだとしても。その気持ちはギネフェルディーナに負けていないつもりだった。ただ彼女とは違って、取り巻きの一人として観るだけ。先ほども言ったが介入は絶対にしない。そうでなければギネフェルディーナにあんなことを言った意味がない。ギネフェルディーナにも手を出すなと言ったのは、ヘルツバール自身の退路を断つためでもあったのだ。




あれから貴賓の幻妖フェージョンが淫魔族の族領に入り始め、結婚式の空気がさらに深まった。内心どうであれ、ギネフェルディーナ自身が表明している以上、彼女の決定に従わないといけないのが幻妖である。否を挟めるとしたら別の世界にいるダレカサンだったりする。もしかしたら、自分でも聞いてくれるのかもしれないが、自分は先ほども言った通り介入しないと決めた。そうして何事もなく、順調に式の日が訪れたのである。


全員がヘルツバールと顔見知りだが、彼らは自分の存在を知らないかのように通り過ぎていく。変装に関しては君主モナルクであっても見破れないのだ。

例えば最強の幻妖フェージョンである神族であっても。


(さテ…)


あの彼女が、どこまで仏頂面で演技ができるのか。

だが彼女は結構演技派である。というより、ヴィスのためだったらなんでもやる、何度でもいうが自分と同じ過激派である。


(これガ最後のチャンスだ。どう転んデモ、やり直しはキカねぇ)


そもそも人生というものはそうであったはずだ。ヘルツバール自身、そんな気がしないのは、状況を捻じ曲げるだけの力を、すでに持ち合わせているだけの話であった。本来、そういった力を持ったものや事象を人はカミと称えるのではなかったか。


(バカらしイ…)


自論を頭の中で繰り広げる必要すらない。逃避のためになら、いくらでも頭に展開できそうだが、それでは大切なことを見失うだろう。

なにせ、ここはすでに戦場だ。どんなに建物の雰囲気や、幻妖の住人の顔ぶれや、衣装やらを見て、ヘルツバールが見飽きたとしても、戦場であるということは変わりはしない。主役が登場していないだけの話であって。


(…羽根よ、彼らをつがい給え)


胸にあるものを握りしめる。こんな世界たちの中で祈るという行為は自傷行為であるとわかっていながら、ヘルツバールはヴィスの背中に一つ、羽根の重みを乗せた。






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