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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
libération -解放-
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67 裁いてはならぬ、そうすれば汝らも裁かれぬだろう

ギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム。彼女の自筆の手紙にははっきりとイディオファナ・エロン・ロワイヨムと結婚すると書かれていた。


「となルト、その噂は彼女自身の意思ってコトなのカ? ガしかし…」


「そうですね、ヘルツバール様。仰りたいことは判っていますよ。主君は大変意志が強い御方でいらっしゃる。簡単に意見を変えることなんて、無いと言っても過言では無いでしょう。増してやこのような文などーー」


リョクのただでさえ鋭い眼光がさらに鋭敏になり、赤い眼光が周囲を牽制するかのように光る。

そのような状態であっても、自分の赤髪を片手でぐるぐると弄りながら、ヘルツバールはいつも通りの様子で話しを続けた。


「そうイエバ、アル。ヴィスとの連絡ガ途絶えたママなんダヨナア?」


「…ああ、そうだ。ヴィスが自主的に破棄した…もしくはイディオファナによって破棄させられた(・・・・・)のだろう」


最初にヘルツバールがヴィスに会ったときに、ヴィスには父親イディオファナによって、自身の力を試す実験を、洗脳することで強制させられていた。だからイディオファナはヴィスを洗脳することができる。


契約者コントラクターだけが解約リベラシオンできるが、その行為は自殺行為だとされている。普通はできないのだ。

さらには洗脳させた状態で解約なんて、生きた屍、ゾンビになるに等しい行為だったりするのだが…ヴィスは半幻妖ラ・フェージョンであるため、今回の竜王アルゲベルトとの仮契約スエコントラは耐えた可能性が高い。


「ヴィスにトッテハ二回目ダな…」


一回目はいま話題の中心人物であるギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムだ。あのときよりは心身ともにダメージは少ないはず。例え、操られていようが…とヘルツバールは続けた。


「取り引きにヴィスを使われた可能性がある。彼を故意に見離す代わりの条件として、自分と結婚する」


(あのクソが…)


竜王の発言に対し、リョクは内心怒りで奮えていた。彼の怒りの感情を契約コントラを介して、鞆絵は十分過ぎるほどに受け取っていた。

確かにリョクならばヴィスのせいにしたいのだろうが、その中に自分自身に対する怒りも受け取れられた。




鞆絵にだって存在する、自分自身への怒り。

リョクは自力でギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムを取り戻したいのを必死に自制して我慢していた。鞆絵がヴィスを助けにいきたいのと同様、いやそれ以上かもしれなかった。


長年の忠誠心がそのような感情を引き起こすのだろうか、それとも嫉妬?

鞆絵にはまだ判らない。彼らが一緒にいた光景を見たことがないから。




「こう書かれている以上、我々は動けません。他の方法は考えますが…っ」


「無理はスルなヨ。強行手段に移っタラそれコソ立場が無くナル」


神族の君主モナルクはギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムだ。この状況だともしかしたら神族は淫魔族の配下になるかもしれない。その可能性が高い以上、この要求を納得するのがプライドからしても難しい、のかもしれない。

神族が持っていた特異性が、婚姻を結ぶことによって無くなろうとしている。一番他人事ではないのはリョクを含めた神族全員だ。だからこそ鞆絵はそこに行こうと思いついた。




そして話題は本題であるエフォールの潜入の話題に移る。

ヴィスがどこに閉じ込められているか判らないため、第一優先度的にはレジニアを保護することが先であるそうだ。


「先ほど、レジニアと連絡を取りましたがーー」


エフォールは続ける。

レジニアには魔法マジー無力化の能力があるため、イディオファナにかけられた洗脳を解くことができるかもしれない。彼女によれば、ヴィスに対しては効果があったということなので、他にも効く可能性が高いとのこと。


それと、イディオファナがギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムと婚約したことは淫魔族の中でも知れ渡っており、同じ館にいるレジニアの母親、つまりイディオファナの正妻がどのような状況か、軟禁されている状況からだと確認できないが、この件に関して自尊心の強い母は非常に腹が立っているはずだ、とレジニアは言ったそうだ。


「淫魔族に対しては、我々は関わりが薄くて疎いのだが、重婚は禁じられているのか?」


金狼王は疑問を発した。

幻妖フェージョンの結婚形態は様々である。君主モナルクのみに重婚が認められる場合、一般的に重婚が認められる場合、重婚が認められない場合。

その形態にもっとも複雑なのは蟲族らしいが、鞆絵は樟葉とはこの類いの話しはしたことがない。


「僕も一応彼女に確認は取りました。答えとしては正式な手続きが必要なのは1組だけ。でも淫魔族の場合、正式なパートナーの他にも “お遊びとしての” 相手が存在する場合も多い…とのことです。でも今回の件は…例外だろう、と」


“この情報が流れてからというもの、母親が自分のところに来ることは無くなった。こんなことは今までにないことだ” とエフォールに言ったらしい。


「ふむ、君主モナルクの配偶者は、基本的に実権は持てないはずだが…な。淫魔族はパートナーに関することでは、プライドがすこぶる高いようだな」


魚族のルカン・メールはそう言った。

族が違う以上、他の族の倫理観には口入れはできない。場合によっては喧嘩が起こることもある。それはルカン・メールの契約者コントラクターであるリジニスから、重要なこととして聞いたことだ。これは皮肉なのだろうか。


「そもソモ彼女が婚約するッテいうコト自体が、今までナカッタことダ。例外は起こり得ル。だロウ? テュー」


「まあ、そうだな…」


「というコトデ、確認ト情報の共有ってイウ本題は終わりダ。今マデ偽情報に惑わされるコトなく、ココまでこレタが…流石に事情を知らない他の君主モナルクが婚約という事態に反意を示す可能性は大いにアル。ソウなれば最悪、戦争だな」


「あの、良いですか?」


鞆絵が口を挟んだ。辺りを見回して “戦争” という言葉に恐怖を抱いているものがいないことを、恐る恐る確認してしまった。

やはり鞆絵が思っている以上に、この世界は、幻想世界イリュジオンは殺伐としているのだろうか…


「どうゾ、トモエ・マツモト」


「その、戦争になった場合って、本来それを止めるのは神族なんですよね? でもその神族の君主モナルクでいらっしゃるギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム様は淫魔族の族領にいらっしゃって、リ、アベルがいうところだと、奪還が難しい状況にある…ってことで合ってますよね?」


「そうだ」


答えたのはテューだった。テューはヘルツバールの近くにおり、同じくヘルツバールに寄り添うように侍る、幻獣族の女王がいる。

アルクレアラは傍観するように言葉を発していない。




「神族は君主モナルクがいないから動けない…だったらーー誰が、その最悪な事態を止めるんですか?」




一同は沈黙していた。多分それが答えなのだと鞆絵は感じてしまった。

先ほどの話しを思い返す。神族が淫魔族の配下に付くとなると、止める存在、つまり抑止力は無くなる。


(トモエ、その疑問はここにいる誰もが考えていることだ。だからこそ予想以上に事が大きいんだ)


リョクの思考が鞆絵に反応してくれた。

ようやく事実の一環が呑み込めた気がする。つまりギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムはそれだけ重要な存在なのだ。それをここにいる誰もが知っている。


(きっと、私はあの姿しか見たことがないから…)


恩人であるヴィスを庇ったあの姿。か弱いと思わせるような相貌。それと同時に、その時になって何もできなかった自分と彼女を無意識に比べてしまう。本当はそんな比較できる対象ですらないというのに…


ーー身を犠牲にできるほどの行動を起こすことができた、彼女が羨ましいと、どうしても感じてしまうのだ。






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