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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
libération -解放-
66/92

63 起こらねばならぬことは、必ず起こる

過去話。

ヴィスは上のものたちからの心証が非常に良くなかった。

ヘルツバール・ラバス・ロワイヨムという大きすぎる存在から、庇護されている唯一の子供。その肩書きはどこへ行こうとも付きまとい、ヴィスはそれに反発を覚えるようになっていった。

喧嘩別れの状態で彼から離れ、母国の士官学校に入って軍人になったが、そこでもヘルツバールの名前は知れ渡っていた。もはやここまでいけば新興宗教の神とでも言えるのではないだろうか(というより実際、本当にヘルツバールはそのような存在なのだが)。




生まれたときから血なまぐさい光景ばかり見ていた。血の繋がっているだけの・・・男から強制されるのは、自分の能力を制御することだけだった。しかもこの能力はいきものを壊す(・・・・・・・)、危険極まりないものだったから。


自分の力によって、対象同士が殺しあう。倫理観というものは皆無だった。その力が恐いと思い始めたのはかなり後のことであり、小さい頃は別に何も感じることは無かった。

摩耗し過ぎて擦り切れるものすら無くなっており、感じる心すら失っていたから。




上官たちが怪物を弱らせ、その場を引き上げていく。後片付けがヴィスたちに任せれた任務であった。

怪物の回収と、研究班への引き渡し。そんな細々とした作業はヴィスの得意とするところではなかった。


誰しもが汚物・・に触るのを躊躇う。じっさいそいつは弱らせただけで命は奪っていないのでそれなりの注意が必要だった。

巨大な怪物の場合だと裁断する必要も出てくるのだが、幸いなことに対象は小さい。だがかなり強い個体であったらしく、部隊は半壊して戦闘部隊の誰もが怪我を負っていた。


「………?」


突如、ヴィスは顔を上げた。何か大きな気配を感じ取ったからだ。

特殊な空間を通してからしか怪物はやって来ない。その空間からこの場所は離れており、化け物がまたやって来るはずもない。気のせいかと思いヴィスは作業に戻ろうとした。


化け物が動き出した。


ヴィスの部下が身動きを封じていたのだが、それを掻い潜り、どこかへ行こうとする。ヴィスは追った。

対象は痛みを感じていないかのごとく、超人的なスピードで駆けていたがヴィスはこの程度(・・・・)なら追いつけると思った。

化け物の速度が緩み、ヴィスもそれに倣った。視線の先には何かがいた。




(ーー白い(・・)




彼女の第一印象はそれだ。

白い。とにかく白い。まるで自分が汚濁に塗れていると思わせる程に白い。天使という存在がいるのだとすれば実際にこんな感じであろうか。


彼女は地面に倒れていて、気を失っているようだった。そんな彼女に怪物が近づいていく。

彼女が穢れてしまう(・・・・・・・・・)と思ったヴィスは近づく前に怪物を拘束した。


彼女が意識を取り戻し、目が開く。透き通った翠色の瞳に魅入られそうになった。それと同時に自分への嫌悪感が増し、怪物を連れてその場を後にした。


彼女を置き去りにして。





「ターゲットを連れてきた。ちゃんと拘束しておけ」


「…中尉?」


「なんだ?」


「後ろにいる女性は誰ですか?」


嫌な予感がした。意を決して振り返れば、先ほど見た彼女がそこに立っていて首を傾げている。

みんな惚けたように彼女を見ていた。それほどまでに彼女の存在は浮世離れしていた。異世界にいる妖精と言った方が納得がいく。


「知らん」


ヴィスはそこそこの速さで帰還した。普通の人間、もしくは一般女性がついてこれる速さではない。ならーー


(ーー関わりたくもない)


怪物・・なんかに関わったらろくなことにならないのはヴィスも身にしみていたし、親代わりであるヘルツバールだって同じ意見だった。


だというのに彼女は自分の側を離れることはなく、ついていっている。部下が彼女のことについて色々と話しかけようと、彼女を足止めしていたが、いつのまにかいなくなってヴィスの背中を追いかけていた。


散々動き回って撒いてやろうと思ったヴィスは人間離れした脚力で動き回った。そんなことをしても必ず彼女は後ろについてくる。元々ヴィスは気が長い方ではないため、容易にストレスが限界に達した。


「いつまでついてくるんだ?」


これでも感情的にならずに済んだと、ヴィスは内心思っていた。


「いつまでも」


高い声だったが、耳障りではなかった。鳥が心地よく囀るような声だ。


「もう日が暮れている。その手(・・・)のことならお断りだ」


「そのてって、なに?」


試しに話しかけてみたのに、とぼけてみせた。


ヴィス・コルボーは非常にモテる。自分の容姿がかなりマズい(・・・)ことも知っているためか、髪で隠すようになった。これでマシになったのだが、髪を隠す前はそれこそ大変で異性どころか同性にも迫られたことがある。

それが淫魔族の血のせいであるということを、このときのヴィスは知らない。


ヴィスはその類だと決めつけてかかろうとしたが、それにしては顔に生気があるし、服も上等と一目で判るものだった。放っておいたりしたらマズいことになるかもしれない。


「…女性隊員に頼んで、家まで送らせよう。どこに住んでいる?」


「どこ? どこって…うーん」


ヴィスは彼女を見ようともしなかった。見たくなかった。目を背けたくなるような魅力が彼女にはあったのだ。




「あなたのところ」


「は?」




ヴィスはさすがに振り向いた。




「あなたがわたしの、うんめい」




動揺もせず、淡々と、翠色の瞳を真摯にこちらに向けて、彼女は言い放った。






当時は何も知らなかった。彼女がどういう存在であるかについて、ヴィスは一切考えることはなかった。鬱陶しいと本気で思っていた。


彼女は自分が守ろうとしている場所に強引に入り込んできた。




「ギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムっていうの」




やけに長ったらしい名前は、彼女の存在を証明する要素が入っていた。


このときにでも、一方的に縁を切っていたヘルツバールに彼女を預ければ良いと思った。だがヴィスはそれをしなかった。最初、ヴィスは何故そうしなかったのかはよく分からなかった。


ギネフェルディーナと名乗ったその女は怪物とはいえ、あきらかに人…人間と同じ姿をしていた。しかもその姿は美し過ぎた。

ヴィスとしか話そうとせず、事情聴取のために話しを聞こうにも彼女はまったく応じようとしなかった。そのためヴィスが駆り出されることになった。


ヴィスにだけは何でも話そうとしたため、男女の仲を疑う良からぬ噂が立ちはじめる。彼はさらに孤立した。自分から居場所を拒絶したためにいく場所もない彼は、結局ギネフェルディーナと一緒にいることになった。

ギネフェルディーナは数日してから事情聴取を終えたが、彼女はヴィスの傍にいようとした。


「お前は、化物だ」


「うん」


「それを知られたら奴らの実験材料だ」


「うん」


「だから…」


ヴィスはギネフェルディーナと過ごす時間が心地よいと感じるようになっていた。彼女といるとなぜか自分の煩わしい力を抑えつけずに済んでいた。

非情にならなければならなかった。軍に所属している以上、彼女を研究施設に明け渡さなければならない。しかしヴィスの主張がそのまま通るとは限らなかった。まず彼女はどこからどう見ても人間・・であったし、美し過ぎた。


(………)


ヴィスはしばし悩んだ。彼女がそばにいる以上、厄介事が増える。現にそのようなことが起きているし、皆自分たちが男女の関係にあることを疑ってならなかった。

煩わしいことから逃れるためにここにいたのに、煩わしいことが次から次へと増えていく。彼女の方はヴィスの傍から離れるという考えは起こらなかったようで、周囲から離されようとも、色んな人から誘惑されようとも、立場的に偉い者がい願っても、それらを拒絶してヴィスの元へと戻ってくる。

ヴィスのところに舞い戻ってくるギネフェルディーナの姿をずっと見ながら、彼は段々とよろこびが勝つようになってきた。




「だからーーしばらく旅をしないか?」




ーーすべてのしがらみから逃げるために、ヴィスはギネフェルディーナを誘うことにした。






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