表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
libération -解放-
64/92

61 勝負を投げ出す者は負け

新章。

「本当にたまたまだったよ。運が良いね」


ここは、幻想世界イリュジオンだ。彼女の理念が世界を支配する。“運が良い” というのも、結局は彼女の力によって守られているだけに過ぎない。

彼女と別れてから何度も…このような事態があった。彼女は自分の力を詳しく語らなかったが、親代わりであるヘルツバール・ラバス・ロワイヨムの証言と自らの調べで結論は出ていた。


ーーこれは彼女がもたらした結果であると。


ヴィス・コルボーは嘆息した。

自分が潮の流れに逆らってこの島にきたのも、魚族うおぞく君主モナルクに救われたのも偶然では無い。もはや必然に近い結果だった。


「ねえねえ、返事してよ」


「まとわりつくな」


「僕は自分のやりたいようにやるよ」


「お前一応傀儡じゃなかったのか?」


「うん、そうだよ。だからじゃないか。できる範囲で、やりたいようにやるんだよ」


ヴィスは魚族の君主モナルクだというアンディゴ・ソヴァジヌ・ロワイヨムによって助けられていた。


「ロワンモンドに行きたい。ボルトはあるか?」


魚族といえば、ルカン・メールがいる。

彼は魚族での実力者でヘルツバールと交友がある。ヴィスとは直接は交友はないが…話は通るのではないかと思っている。




淫魔族の君主モナルクであるイディオファナ・エロン・ロワイヨムとの因縁があってか、ヴィスは幻妖フェージョンを信用していない。

“彼女” や淫魔族の幻妖であるレジニア・ソワンと話せたのは…ヴィス自身は何故かはよく理解していないが… “彼女” の場合はその雰囲気に引っ張られたせいで、レジニアの場合は血縁者であり、自分の洗脳を解いて助けてくれたということのが大きい。


アルモニーという組織で幻妖フェージョンを狩る騎士シュバリエという職業をしていたのも、幻妖に個人的な感情を抱いていたからだ…というのは否定できない。これはヴィスだけではなく、同じアルノマルであるヘルツバールだって幻妖を憎んでいるのだ。その気持ちはヴィスよりもずっと深く澱んでいる。




というわけで、ヴィスはアンディゴの存在にイライラとしていた。

“彼女” が囚われているのだから、本当は淫魔族の族領に戻りたかったが…イディオファナに手も足もでないのだ。今の状態で単身戻るのは無謀だ。


宮殿パレスに行けばあるけど…僕の権限では無理だ」


君主モナルクなのに?」


「僕に求められているのは、穏やかに過ごすこと…それだけだよ」


その声には悔しさが残っている。

力を持っているのに、使いこなせない悔しさは、ヴィスにも痛いほど分かったために、追及するのをやめた。


本来ならば、君主モナルクは族を守るために存在するためのものだ。守るための行動は君主それぞれで異なるが、君主は族の旗印ともいうべき存在になる。基本的に一番強い存在が君主になるから魔力シャルムは使いこなして当然、暗黙の了解だ。


「お前先ほど、魔力シャルムを制御できないと言ってたが…」


「うん」


「じゃあなんで君主モナルクになっているんだ?」


「複雑な事情があったりするんだけど…君主モナルクになったのは僕自身の意志だよ。後悔はしていないんだ」


青い瞳が真摯に見つめてきた。

逸らしたのはヴィスの方だった。


そんな視線をこちらに向けてくるのが、嫌いで吐き気がする。


「怖くはないのか?」


「淫魔族だから精神影響系の魔法マジーになるのかな? 君を見ているのは僕の意志だから…君は悪くないよ。それが嫌なら君の言う通り、見なければ良いんだから。でもね、目を逸らして真実を語るのは気がひける。僕自身が許せないだけなんだ」


「……ッ」


ヴィスは絶句して、言葉もでなかった。


(ーー今まで自分自身の力を抑え込むことしか考えてこなかった。でもそういう考え方もあるのだろうか…?)


ヴィスは自分の力をワルモノだと決めつけていた。それは周囲を巻き込むからだ。

しかし同じアルノマルであるヘルツバールが使える力を、ヴィスはワルモノだとは思っていない。そもそも性質が違いすぎた。

ヘルツバールが自分の力を使いこなせるようになったのは、そうせざるを得ない状況だったりしたからだ。つまり周りから強制された。しかしヴィスは周囲から強制されることを拒んだ。




(つまり、扱えないのは、俺のせいか…?)




自分のせいであるということは、前々から自覚していた。だが、以前とは違ってその意味合いは異なっていた。

ーーなぜ扱えないのか。その根本的な問題が見えた気がした。


「結局は意志なんだ。何をしたいか、やりたいか。そのためにどうやって行動するか」


ヴィスは自分の意志で、アンディゴを見た。




「僕もできる限りのことは、協力するよ」




変わらない真摯な両眼が、こちらを見つめてきた。






+++






鞆絵は走っていた。

焦燥感に駆られながら、エフォール・シエルがいる場所へと走っていた。

本当はやらない方が良いということは、分かっている。でも何かをやらなければ、落ち着いてすらいられないのだ。


ヴィスが連れ去られてから、鞆絵は心あらずで、ふわふわと漂うことしかできなかった。待つことができなかった。心の余裕がなかったのだ。


リョクと仲違いしたことを引きつったまま、大きな魔力シャルムが発するところへ駆けて行く。




「ーー何用じゃ? 小娘」




赤い魔力シャルムの元に近づいたら、唐突に長身の女性が鞆絵の目の前に現れた。

ヘルツバールを模したような髪型に、背中にある翼。体のラインが強調される赤いマーメイドラインのドレスは艶やかで色っぽい。


「アルクレアラ様」


「何用じゃ、と聞いておる」


質問を強制されているかの問いに、鞆絵は少し戸惑いを覚えた。

少なくとも今まで出会ってきた幻妖フェージョンは、自分の魔力シャルムを自制したように思えるが、彼女にはその常識が当てはまらないらしい。

圧倒されるような真紅の力に、普通のように呼吸することが難しくなってきた。


「エフォール・シエル様の手助けがしたいのです」


アルクレアラは笑いだした。

その度に波打つ力に、鞆絵の息苦しさが増す。




「おかしいな。小娘の立場ならば、あの竜の小僧を “様付け” するのはおかしいことだ。そなたは調停者の一族と縁続きになっている。しかもその主の付き人の男とだ! それがどういうことか…小娘、そなたは理解しておらんだろう?」




アルクレアラの笑いは続く。鞆絵の息苦しさはさらに増し、あまりの息苦しさに膝をついた。


「小娘よ。そなたはもう神族の一員だ。ならば余計に突っかかることをせぬことだな。身を滅ぼすぞーーそれにアレは小僧の問題だ。小僧自身が解決せねば何も意味がない」


忠告なのだろうか。それとも自分の領域にかかってこようとするのが嫌なのだろうか。


契約コントラは一方的だと…特に幻妖フェージョンの方は思いがちだ。ヒトが死ねば契約は消滅する。消滅したときに幻妖側に生じるリスクはない」


「アルクレアラ様、貴女様は…私を、消そうとしているのっ…ですか」


鞆絵は徐々に立ち上がろうとした。その様子にアルクレアラは息を吐く。


(ーーこんなに早く順応するとはな)


シゴーニュ・テュードゥヌスもとい、ソリテュード・パンの見立ては、少しは合っていたのだな。とアルクレアラは思った。


ロワンモンドの神である彼の思惑に対し、アルクレアラは賛同している。あくまで彼女はヘルツバール至上主義であり、その過程にある存在については目をかけることはしない。鞆絵のことですら、思惑の一つの駒でしかないという考えは崩していない。

鞆絵の前に現れたのも、追っ払わないと後々面倒なことが起こると踏んでのことである。ソリテュードが本気になれば、自分はまったく敵わないことを、アルクレアラは承知している。


そもそも彼女は力への欲求がそれほどなかった。今までほぼすべてのことを自分の力で乗り越えてきたからだ。


そんな彼女でも、力不足を嘆いたことは過去にあった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ