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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
corbeau -鴉-
63/92

60 高貴は拘束す

トモエは主君に似ていた。

衝動的なところもそうだし、博愛主義なところも主君と似ている。

すべてのものが説得すれば、納得してくれるだろうとも思ってそうな愚かさ。死に急いでいるようにしかみれない儚さ。それら全てが愛おしいのだ。

彼女たちが望む世界は優しく、それゆえに一番実現させることが厳しい。だから傍で守りたいと本気で思っている。


「なにか…私に手伝えることはありませんか?」


「トモエ!!」


言い出しそうな気はしたが、まさか本当に口に出してくるとは。


クズハ・ヒイラギとグランド・クル・ルーオール・ロワイヨムがこちらの方を見ている。

クズハの契約コントラしている幻妖フェージョンはヘルツバールの要望に応えているため、いない。


「私にできることは少ないと、分かっています」


「お前はまだっ…見習いだろう! それにもう…自由には動けないんだぞ。よく考えて発言しろ」


苛立ちを隠せなかった。主君以外の件でこんなに感情を荒だてたことはない。


なぜここまで強く言っているのか、トモエには分からないのかもしれなかった。とは言っても、強く言うのを止めるつもりはなかった。

強く言わなければ…消えてしまいそうで。


どうしてそんな死に急ぐようなマネをするのだろうか。理解ができないし、理解したくもない。




「いつもなら、リョクの言うことを聞き入れたと思うよーーでも、時間がない」


「………」


「リョクだって分かっているはずでしょう? ギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム様を早く取り戻さないと」


「理由がない介入は…武力行為とも取りかねん」




遠い遠い過去の過ちゆえに続く慣習だ。容易に変えることは不可能だった。自分だけが動いたところで、変わることはない。




「我々神族は…蟲族とは真逆の性質を持っている。女神を抱くがゆえに、どこにも介入することはできず、自由に動くことを許されていない」


「それって誰が決めたの? ギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨム様がお決めになられたの!? 違うよねぇ! …そうじゃなきゃ、ヴィスさんがあんなふうに怒ったり…しない」




トモエは折れることなく立ち向かっている。主君と同じように。


(何故だ…何故、あの男を庇うようなことをーー)


昔からあの男は周囲を惹きつけた。それは淫魔族の君主モナルクの息子ゆえか。やはり血筋なのか。


「みんなを守るために、みんなから離れるって、私はおかしいと思う」


「っ…!」


あの男を守るために、慣習を破ろうとするのか。

慣習は…自らを、そして皆んなを守るためにあるというのに、それをトモエは理解できないのか。

これは若さからくる、感情的な…浅慮な言論だ。個人の気持ちに合わせて慣習を変えられるのならば、それは慣習にはならない。ただのワガママになるというのに。


「はい、待ったまった!」


「クロード…!」


「頭を冷やせーー君らしくもない」


激昂に任せて彼女を傷つけるつもりはなかった。そもそも女性に手をあげるなど、女性を主君と抱く神族の一員にとってはあってはならないことだ。


「わざわざ世界を跨いで様子を観に来たら…案の定これだよ。君は人のことをまったくといって良いほどしらないんだからさあ…」


「間違ったことは…何も……言ってない、だろう?」


腐れ縁のクロードは呆れていた。




契約者コントラクター契約コントラする幻妖フェージョンは別々の考えをもっている。同じじゃないんだ。いいか、自分の意見だけを妄信して相手を丸め込もうとするなーー後悔したくないのなら」




それでもアベルはクロードを睨んだ。

聞くことはできても、受け入れるかどうかは別の問題だ。


(っ! 何で、なんで届かない…!?)


感情的になっても、自分の声が彼女に届くことはない。唇から血が出るまで噛んでいた。


ーー今度こそ喪いたくない。それだけだというのに。






+++






リョクを怒らせてしまった…とぼんやりとしながらも鞆絵は思ってしまった。なんで彼が感情的になって怒るのかは理解できなかったけど。


リョクは頭を冷やすと言って、友達であるクロード・グルーと一緒にどこかへ行ってしまった。ほとぼりが冷めたら、謝れる機会を作れるだろうか。


彼が容認しない限り、鞆絵は魔法マジーを使用することはできない。頭の中で呼べばリョクに届きはするだろうが、返事をしてくれるかは分からない。


(………)


魔法マジーが使えなければ、普通の人間と同じ。このアルモニーにいることすらきっと許されないはずだ。

自分は上手くいっている方では無かったのかと自嘲しそうになる。


そもそも命をヴィスに救われた時点で幸運だったのだ。普通ならあの時点で殺されているというのに、まだ生きながらえている。不思議だった。


「鞆絵、なんでそんなに急ごうとするの?」


「樟葉…」


「…ヴィスさんが心配?」


「うん」


「…そう」


樟葉はそれ以上何も言わなかった。向こうを見ると金狼王グランドがこちらの方を伺っている。

この場の空気を悪くしたのは自分だ。早く謝らなければ。


「樟葉様、金狼王様……申し訳ございません」


何と他人行儀な言葉が口から出るのだろうか。


「でも何かやりたいのは事実です。リョク…アベルがいないと何もできないのは分かっています。それでも!」


結局のところは自分の意志次第だった。後悔することなんて、あとでいくらでもできるのだから。


「…エフォール様のところに行ってみます」


「正気か?」


金狼王が問いかける。


「口で言うことなら、いくらでもできます。でも…今の状態ではどんなに言葉を重ねても嘘にしかならない。だから…行きます」


魔法マジーの制御だけは得意とするところだった。周囲も褒めた。

ならそれが煽てる行為ではないように実演するしかない。


「鞆絵! …さすがにそれは」


エフォール・シエルのところは危険だ。それを先ほどヘルツバールに言われたばかりだというのに。

それほどまでに鞆絵は急いでいた。


「樟葉。やっぱり自分でやらないと…納得できないの。あとで帰ってきたらバカだって…私のこと…罵ってね」


「ともえ!」


ーーああ、なんで。なんでそんな悲痛な声をしているのか。


いつも超然としてて、笑みを浮かべているのに。命に関わるようなことには成り得ないというのに。なんでそんな悲痛な顔をしているのか。

鞆絵には理解できなかった。


それくらいには魔力シャルムのことも魔法マジーの危険性も、鞆絵の頭の中から抜けていた。






+++






ーー身体が痛い。


気がついたときには息苦しさを感じた。夢中で何かを吐き出し、目眩がしながらも、周囲を見やることにする。

一応軍に属していた身だ。自分の状態はある程度自分で分かると勝手に自負している。もちろん判らない部分もあるが。


(じじい…?)


竜王との仮契約スエコントラが切れている。あの男が俺に命じて強引にやったのだろうか。


「大丈夫かな?」


倒れついている場所は…岩場。そして水が近くにある。

そして遠く目を凝らせば、幻想世界イリュジオンの中心地、白い神殿が見えるはずだ。


「魚族か?」


声は霞んでいた。視界が明るいのは、前髪が無理矢理切られたからであろう。

視界が開けた感覚は、随分と久しぶりのことのように感じた。彼女が傍から居なくなってからは、意図的に眼を隠すようになっていたから。


「俺を見ない方が良い。良くないことが起こる」


「自分の魔力シャルムを制御できないんだーー僕と同じだね」


見渡したら、少年の姿をした幻妖フェージョンがこちらを見ていた。鞆絵よりも小さい姿は、誰かに庇護してもらわないとたちまち害意に晒されそうだ。


「君は淫魔族だろう? ーーここは島だ。誰かが流れ着いてくるなんて、水流の問題でありえないんだけど」


どうやら見かけによらず聡いようだ。


ボルトを通ってきたの?」


「………」


「僕たちの族領に淫魔族が入ってくるなんてね。君、僕の話し相手になってくれない?」


ヴィスは不審な目を向けた。




「お前は、誰だ?」


「僕はアンディゴ・ソヴァジヌ・ロワイヨム。傀儡の君主モナルクだよ」




蒼い、うなじまでの髪の揺らしながら、少年の姿を取った幻妖フェージョンは笑った。






次話から新章です。

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