48 良い始まりは事の半分
新章。
サブタイトルの呼び名はヴェリテです。
あのあと、ヘルツバールとアルゲベルトとテューの転移の魔法によって、一同はアルモニーの本部へと移動した。ヘルツバールはヴィスと眠ったままのギネフェルディーナを自分で連れて自らの屋敷に入り、竜王アルゲベルトは金狼王グランドを案内し、トモエとリョクはソリテュードに連れられてレイアーナと合流して事の詳細を説明することになった。
途中でヘルツバールがこの場に入り、リョクからギネフェルディーナの話を聞いたり、テューと今後のことについて打ち合わせをして帰っていったりしたことで一旦は中断したものの、ある程度話が終わったところで、新たな乱入者がこの場に現れた。
「まったく、大変なことになったねぇ~?」
「おい、クロード。何故お前がここにいる?」
「えっ? そんなことをいうなら…何でアベルもここにいるのかなぁ? 君は契約を嫌っていたはずだよね?」
「………」
この場に現れたのは、クロード・グルー。レイアーナと契約している幻妖である。
「えっと、ペルーシュさんの契約している幻妖が、リョクと…知り合い?」
「 "リョク" って…ああ、そうか。君はニホンから来たって言っていたから、母国語かな?」
「はい」
「申し遅れたけど、僕が愛しのレイアーナの幻妖、クロード・グルーっていうんだ。導師族の次期 君主で、君主 代理もやっているよ。あっ…そこにいるアベルとは同年齢の腐れ縁ね」
レイアーナは契約した幻妖について話を出さなかったが、まさか神族に最も近い導師族の次期 君主と契約しているとは。トモエにはテューが自分とリョクをここに連れてきた理由が何となく分かった気がした。それにクロードはリョクと腐れ縁 (?) というのなら、尚更のことだ。
「トモエ・マツモトです。いつかで良いのでリョクのことを聞かせてください」
「おい、トモエ。こいつの口車に惑わされるなよ。おもちゃにさせられるぞ」
「酷いなぁ、アベル。そんなつもりは全くないのにーー」
クロードは笑みを絶やさず、逆にリョクの表情は曇ったままだ。クロードはアベルをからかえる材料が増えて至極ご満悦の様子だ。
「っと、まあ。今日はいろいろあったからな。ふたりとも休むと良い。俺は忙しいけどな」
「私たちに、リジニスとルカン・メールとクズハと契約している幻妖たちと…さらには金狼王グランドと幻獣族の女王アルクレアラまでやって来て状況説明って…錚々たる面子ね」
「権力者を集めないと話にならんからな。リジニスはすぐに連絡が取れるが、ルカン・メールが出るかどうか…まあ、ルカンとアルクレアラはあとでシオン様が話をつけているだろう」
「…さっきの説明をするんですよね?」
「そう。シオン様とディーナとヴィスと俺に関する話。もちろんトモエも参加権利がある」
「えっと…ペルーシュさんの言うとおり錚々たる面子じゃないですか。そんなのに私が混ざって良いのですか?」
いわば首脳会談すると行っても良いほどの面子だ。そんな中にポツリと入れられてしまったら身震いがする。しかもすべてのメンバーと知り合いではない。
「何を言っているんだ、トモエ。お前はアベル・エーグルと契約したんだぞ。公表する中で初めての神族の契約者だ。これからはうようよと人が寄ってくるぞ。部屋も変えないといけなくなるかもな」
テューは若干笑いながら話していたが、鞆絵本人としては堪ったものではない。リョクというパートナーと一緒にいれるということだけを考えてしまっていて、それに付随してくるものはまったくもって考えていなかったのだ。
そんなことは同郷出身である樟葉と話したほうが良い気がした。もちろんパートナーであるリョクとも話し合わなければならないことであったが。
「…く、樟葉さんの居場所は、ラバス様の御屋敷ですよね?」
「明日の朝に話すと良い。俺もヘルツバールも、その頃には招待メンバーの全員と連絡が取れているだろうから」
鞆絵は既に樟葉のことを "友達" だと思っていた。道に迷っていた自分のことを助けてくれた第二の恩人のような存在であるから。樟葉の方はどう思っているかは分からないが、とりあえず鞆絵にとってはそうであった。
その点から言えば、ソリテュードも恩人に入るであろうが、彼に関しては友達というより "気だての良い近所のお兄さん" という感じであって、恩人にはどうしても当てはめることが出来なかった。それは彼が自分に何かを課そうとしているのが分かったためでもあった。
挨拶を済ませて別れ、部屋についた。道中でリョクが神族だと分かった契約者がいて、遠巻きから自分たちを観察していた。
鞆絵はリョクと契約してから、いつもの視界とは別の視界が見えるようになった。契約者の胸のあたりに器がはっきりと見えるようになっていたからである。器といっても形状は様々であり、大きさも様々であった。その器に光り輝くものが乗ってあった。
鞆絵は日本にいたときに受けたヘルツバールの説明を思い出して、器の中にある光が契約者の素質だということがはっきりと分かった。そしてヘルツバールの例えは、ほぼ事実だったことも知った。
「そういえば、ヴィスさんが私のことを契約者の素質が高いってラバス様に言ってたらしいけど」
ということは、ヴィスはこの景色が見えていたに違いない。でもあの時言っていた話だと、ヴィスはギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムと以前に契約していて、その後 解約したということになる。
「解約したら亡くなってしまうって…」
「そうだ。だがあの男は人間でありながら幻妖のように魔法が使える "アルノマル" という特殊な人間だった。だから解約しても害はなかった」
「人間が魔法を使う…? 解約しても害はない…? そんなことあり得るの?」
「それについては明日のヘルツバール様の説明を聞くしかない。俺もアルノマルに関しては分からんからな。あの男がアルノマルだということだって、同じくアルノマルであるヘルツバール様から知ったからな」
「ラバス様もアルノマルなの…?」
「ああ。だがあの方に関しては底が知れない。それに俺よりも歳上だしな」
鞆絵は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、飲むことにした。リョクにも何か…と思って冷蔵庫を見て見たら、何もなかった。任務があって留守にしていたため、冷蔵庫に飲食物はほとんどなかった。
「あっ、プリンがある! リョクも食べる?」
「何だその… "ぷりん" というやつは」
「食べたことがないんだ。なら尚更食べるべきだよ!」
神族の食事はどのようなものだろうと鞆絵は想像する。
先のことをあまり考えたくなかった。ただ、ヴィスとリョクとギネフェルディーナのことについては別だった。
プッチンプリンの食べ方を教え、手こずるリョクに対して鞆絵は笑みを浮かべた。




