42 祖国とは、どこでも人が落ち着けるところのこと
「ここからは徒歩だな。魔法は使えるか?」
「はい」
「ならトモエのペースに合わせて行くか」
鞆絵は最初よりも早いスピードで進むことが出来ていた。
目まぐるしいスピードで周りの景色が移り変わっていく。
(やっぱりヴィスさん、カッコいいなぁ…)
(あの男のどこがカッコいいんだ?)
(仕草が様になる…かな? 私が真似したって同じことは出来ないもの)
(………)
(ああいう人って、失敗しても様になるんじゃないかって思っちゃうんだもの)
(それは…ちょっと違うんじゃないのか?)
(どうして分かるの?)
(………)
(リョク、どうしたの?)
(……………いや)
どうもモヤっとした気持ちになってしまうのはどうしてか。
リョクと喧嘩した訳でもない。ヴィスとも喧嘩した訳でもない。けど…何かが違う。
鞆絵にはどうしてか分からなかった。
+++
「宿は…ここだ。もう遅いから、散策は明日な」
慣れた手つきで入っているヴィスに、ついて行く鞆絵。
『二部屋頼む』
『あら…いつぞやのーーずいぶんとお久しぶりね』
(…?)
言語が分からないので鞆絵はヴィスが何を行っているのか分からなかった。ヴィスは手早く手続きを済ませてとっとと先へ行ってしまうので、鞆絵もついて行った。
「トモエの部屋はそっち、俺の部屋はこっち。話があるから一旦こっちに入ってくれ。それとも…荷物を置いて来るか?」
「いえ、大丈夫です」
ヴィスと一緒に入る。部屋は鞆絵にとってみれば丁度いい広さだった。ヴィスからしたら、どうか分からないが…
「ここはアルモニーの手がかかっていないほどの田舎だ。もちろんこの宿もアルモニーは関与していない」
「ヴィスさんは以前ここに…?」
「ああ。ここは…俺の生まれ故郷に近い」
「ヴィスさんフランス生まれなんですか!?」
「そうだ」
キラキラと輝く目を向ける鞆絵からヴィスは視線を外した。
「とりあえず、明日のことについてだがーー」
明日の集まる時刻を告げる。幻妖は夜行性の場合が多いが、昼に行動する幻妖もいる。それを見極めるために昼に行動するという。
「トモエは寝るといい。明日は体力を使うからな」
「ヴィスさんは…?」
「少しだけ聞き込みをしておく」
そう言ってヴィスは出て行こうとしたため、慌てて鞆絵も出ることにする。
「駄目ですよヴィスさん! 鍵をかけないと…」
「田舎だし大事なものは身につけてあるしな。後はあまりーー」
「それでもですよ!」
「………」
必死な形相の鞆絵におされてか、ヴィスは鍵をかけて降りていった。
(ヴィスさん…大丈夫なのかなぁ?)
(あれがあいつの普段の様子なんだろう。気にすることはないさ)
(………)
そうリョクが言うのなら、そういうことにしようと、鞆絵は話題を切り替えることにした。
(リョクと一日以上もいられるなんて…すごいなぁ、ラバス様)
ヘルツバールはソリテュードとほぼ同じ方法でそれを成し遂げた。最初は半信半疑だったが、ヴィスがまったく疑っていなかったことと、リョクの発言によって疑いを無くしたのだった。
(あれは…あの方しかできないんじゃないのか?)
(リョク、珍しいね)
(何がだ?)
(人を褒めるの。私だってないのに…)
(褒めているわけではない。事実だ。自然の摂理を改変することは…あの方にしかできない)
(それって、神様みたいだね)
そう良いながらも自分の部屋のドアを開けた。
+++
翌日。ヴィスは既に幻妖についての情報を入手していた。
「狼族の幻妖らしい。こりゃあ厄介だ」
狼族はスピードに長けた族だ。自慢のスピードで獲物を追いかけ、仕留める。逆にこちらの攻撃はそのスピードで避けられやすく、命中しにくい。尖った牙と爪は獲物の肉に食い込み、離れることはない。
集団で行動し、獲物を捕える族であるが、ロワンモンドに迷い込む場合 (幻想世界は門の管理はされていないところが大半である) は大体単体であり、それも集団から逸れてという場合が多く、話し合えば幻想世界へと戻ってくれる…話し合えばだが。
ヴィスは狼族の幻妖と戦闘をしたことはないらしい。
「ということは…ちゃんと話が出来ればーー幻想世界に帰ってくれると?」
「いや、それは迷い込んだ場合だけだ。こちらの世界で力を増やそうってなれば…制裁が必要だからな」
そのために殺害という手段があるという。
「幻想世界は法律は無い。だが、属するグループの中での決まり事がそれぞれにあって、それを破ろうものなら罰則が下る。狼族は特にそれが厳しい」
「ということは…故意にこちらへやって来たということがばれた場合はーー」
「騎士が幻想世界に帰したとしても、そいつの辿る道は…悲惨だろうな。まあ、俺はじじいよりもさらに弁舌が上手くないしな…話し合いで帰せることなんてほとんどない。大半が幻妖と戦闘をして…傷ついた幻妖が幻想世界へ逃げ帰る」
「…ラバス様おしゃべりですからね」
「いや、あれはハッタリだ」
鞆絵は日本でのヘルツバールの様子を思い浮かべていたのだが、どうやら実際のところは違うみたいだ。ヴィスはそれ以上いうことはなかったので、鞆絵もそのことについて追求するのを避けた。
「とりあえず、戦闘だろうな。鞆絵は治療師だから前には出るなよ。戦闘が始まったら防御の魔法と目眩ましの魔法は必ずしておけよ」
「はい」
「あと、離れたところから回復は出来るか?」
(俺は出来んぞ)
(ペルーシュさんから教わったから、感覚さえ、憶えていれば…出来ると思う)
リョクは自分の身体は回復出来た。レイアーナがいうところによれば、回復の魔法が自分に使える幻妖は、他人に対しても回復の魔法をかけることが可能だという。
「やってみても良いですか?」
「ああ」
魔法には必ず意思が必要だ。情景、即ちイメージが必ず入る。魔法がどれだけ具体的に現実世界に顕現化出来るか、すなわちどれだけ効力が催すかは、経験と才能によるものが大きい。
傷ついた身体を想像して、そしてそれが治る姿を想像する。想像して、相手の姿に重ね合わせる。
「驚いた。これだけできるとはな…」
「ヴィスさん…?」
「上出来だ、トモエ」
「本当ですか!?」
こうやってして、契約者は契約している幻妖が使えなかった魔法を獲得していく。技術と努力で自分の才能をある程度開花させることが可能だ。
「これだけの期間で……トモエ、お前は天才かもしれん」
「そ、そんなことは…」
「俺もこうであればーー」
ヴィスの最後の声は、鞆絵には聞こえなかった。
「竜族の契約者としては、防御の魔法を張って、受け身で対応するしかないーーさあトモエ、行くぞ」
鞆絵はその翳りをみせた声に不安になったが、そのあとヴィスがまくしたてるように話しかけてきて、自分の世界でその話題を完結させてしまったため、不安に思いつつもついて行くしかなかった。
(………)
無言だったリョクと共に。




