38 炎と水の混ざり合い
ターゲットは複数の男とギャンブルにいそしんでいた。そんな中に入り込んだ、異物。
「私も混ざっても?」
ポーカーに参戦したリジニスはどんどんと相手を負かしていった。
(イロンデルさん、強いなぁ…)
(相手は幻妖だな)
(えっ!? じゃあ…契約者はーー)
(すぐ隣にいる)
リョクが幻妖と言った者は明らかに人間の容貌をしていた。
(…何で?)
(契約した幻妖はロワンモンドに来れば、人間と変わらない姿になることも出来る)
(なんで、リョクは…そんなことを……?)
(少し…思い出しつつあるんだ…お前の、トモエのおかげで)
ということは、リョクも誰かと契約していた…ということなのだろうか? そのことについて考えていたがバン!!という音で、鞆絵は現実に戻った。
見れば隣にいた契約者が机を叩いていた。幻妖はトランプを机にバラまき、血走った目をリジニスに向けた。契約者もその幻妖も明らかにイライラしていた。
「っ…! ふざけるな!! 何故こんなに勝てる!?」
「それは、貴方が弱いからでしょう?」
「イカサマだ! この詐欺師が!?」
「俺たちが取っ捕まえて…吐かせてやる!! なぁ、相棒!?」
2人は立ち上がってリジニスを見下ろした。剣呑な雰囲気を察したのか、扉から逃げる人たちに鞆絵は呑まれてしまいそうになる。それらを避けようとしたら、リョクの鋭い声が鞆絵の脳裏に響いた。
(トモエ、来るぞ!!)
「「はあああぁぁぁぁーーー!!!!!」」
契約者と幻妖が同時に魔法を使用した。使ったのは炎の魔法で、辺り一面が火の海と化そうとしていた。
そんな中でゆったりと立ち上がり、微笑を浮かべたリジニスは余裕の表情を崩していない。
「ルカン、頼む」
すると大量の水が噴水のように勢い良く流れ出てきた。
鞆絵の身体はリョクの機転により水に濡れずに済んだものの、水流の勢いに壁をも壊れた。リジニスは水流も操っていたようで、壁の穴の先は逃げ道へと続いている。
(壁壊しちゃって大丈夫なのかなぁ…)
(どうとでも成るだろう。魔法は不可能を可能とする)
(そんなのーー)
(追うぞ)
契約者と幻妖は外へ逃げた。リジニスも追っている。残っているのは鞆絵 (とリョク)しかいない。先ほどまで熱狂の渦にあった場所が今では鎮まりかえってしまっている。
鞆絵は魔法が周囲に及ぼす影響力を目の当たりにした。
彼らは目立っていた。契約者と幻妖が炎を撒き散らし、リジニスがそれを消化しながらも彼らと相対しているからである。
(時間切れを狙っているんだろうな。あの男は)
(イロンデルさんが…?)
(契約者のことは知らんが、あの人間の魔法はあの幻妖と同じだろう? なら、元々はあの幻妖のものだ…同じ魔法を同時に二つ……魔力が早々に枯渇するもの当然だ)
(魔力が枯渇したら…魔法が使用できない。それだけ?)
(ああ。時間が経てば回復する)
(それにしても…イロンデルさん本当に強いんだね。二対一で張り合うなんて…)
その様子は火芸と水芸の張り合いをしているようにも見えた。どうも敵対しているようには見えない。
(私って、やっぱりおかしいのかなぁ…こんな状態なのに、放つ魔法が綺麗に思うなんてーー)
争いから離れて、ここから遠い場所で両親と一緒に平和に過ごしてきた鞆絵にとっては、例え目の前で戦闘が行われていようとも。絵空事のように実感がわかない世界だった。
戦っている姿を見たくなくて、無理やりそう思い込んでいるだけなのかもしれない。
(ヴィスさんのときはこれほどじゃなかったはずなんだけどなぁ…)
(………争い事は嫌いか?)
(嫌いだよ。でも……無くならないでしょ? どうしようも無いことなんじゃないかって、思ってしまうの)
(回避できる方法を探せばいい。なるべく被害を出さないような方法を。だがーー)
(リョク?)
(戦闘は簡単な解決方法だ。それを回避させようとするならば…多大な労力がいる。きっと戦闘以上の醜い争いが起こることになるだろう)
(リョクが精霊じゃなければ…良かったのになぁ)
リョクが言うことは紛れもない事実で、だから避けることが難しいのだろう。彼との会話は楽しくて、こんな考え方があるのかと感じることが出来る。
契約者は炎を鞭のように使い、リジニスを攻撃してきた。幻妖は逃に転じている。魔力の枯渇も目前と思われた。
(ヤバいですね…)
危険なことはその鞭で周囲の建物を壊そうとしていること。これでは後ろにいる鞆絵に当たってしまう可能性があった。攻撃の魔法は防御の魔法で防げても、物理的な攻撃の場合は通じないのだ。竜族のように自身を強化する魔法を使うか、それがなければ避けるしかない。
あとリジニスが懸念していることがもう一つあった。幻妖が契約者の素質を食い散らかし、契約者を壊れた物に追いやることだ。
契約者の素質は幻妖の魔力を増やすばかりか、どうやら魔力回復の効果があるらしい。元々素質と魔力は似たようなものであり、何故こうなるのかはリジニスは分からないが、とりあえずそうなっていた。
このまま幻妖を逃がし、契約者が壊れた物になろうものなら、対応が異端者から騎士に換わる。引き継ぎを行うには時間がかかり、その間に逃げられることが多い。
更に面倒なのは幻妖が万が一にも幻想世界へ逃げ帰ることで、こうなった場合、神族の幻妖に管轄が移る。神族の事実上の管轄者であるアベル・エーグルとアルモニーで直接連絡が取れるのはヘルツバールのみであり、そうなると失敗である。ロワンモンドから幻想世界に行くためには門を潜る必要があり、門を守護する契約者はいるものの、彼らに連絡が行くまえに幻妖が逃げ帰る可能性が高かった。
(やはり捕獲は難しいですね。いつもは殺害なのにーー)
捕獲するということはよほどのことがない限り、異端者の仕事では存在しない。それほどにどうしようも無く悪行を重ねた者が異端者の対象となっているのだ。
普段なら契約者を魔法で強引に避け、幻妖を追っているところだが、後ろにはソリテュードから預かっているも同然であるトモエ・マツモトがいる。自分が魔法を使って突破する際にもしかしたら彼女に余波が当る可能性はあった。
(リジニス。あの幻妖を追え。ヘルツバール様に余計な仕事を増やさせるな)
(貴方ならそう言うと思いましたよ)
(お前や儂の面子にも関わることだ。当然だろう。それにーー)
(それに…?)
(あの小娘は心配要らん)
ということは自分の契約する幻妖、ルカン・メールにはトモエと契約している精霊の正体があらかた見当がついているのだろう。
(ではーー突破を)
次話でこの章は終了です。




