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L'amour pur -純愛-  作者: 鶯花
Dragon -竜-
27/92

24 目的は手段を正当化する

「崇高な目的のためには、時には汚い手段を使うことも許される」

流血表現が少しだけあります。

エフォールの力はヴィスよりも上になっていた。

昔はヴィスの方が上だったのだが、約三十年という人間にしては長い月日の中で、立場が逆になったようだと剣戟を交わしながら、ヴィスはそう思った。

となると、普通に剣戟を交わしていると、力で押し負けられるのは確実。この時間が長引けば長引くほどヴィスには不利な状況になってしまうことは明らかであった。


竜族そのものは数多ある幻妖(フェージョン)の中では強者である。

幻想世界(イリュジオン)にも様々な族が存在するが、竜族はその中でも最硬の防御力を誇る。竜態では余程強力な攻撃でもない限り受け付けない。それと同時に攻撃力も凄まじい。竜態ではそれだけで人間の全長を超えるような牙による攻撃。防御のときに活躍する鱗は攻撃時にも活躍する。鱗は触るだけでも凶器になりうるものだ。

そんなステータスは竜神態のときでも適応される。人間よりも硬い肌と人間以上の腕力。それだけで脅威だ。


だがしかし、エフォールに比べたらヴィスは圧倒的な戦闘経験がある。この試合は本当の戦闘とは異なるものだが、大きなアドバンテージとなりうるものだ。

正攻法で勝ち目が薄いと即座に判断したヴィスは次の行動に移った。






+++






エフォールはヴィスと剣を交わしていた。自分は剣というよりは大剣に近い剣だ。打ち負けるはずがないが拮抗しているのは、ヴィスが知らず知らずのうちに魔法(マジー)を使って筋力を上げているからか。


(…にしても、やっぱり強い)


相手が予想もしないようなところに打ち込んでいたりするが、全て防がれている。これが経験の差かと苦々しく思う気持ちもない訳ではない。

しかも銃を持っているため、遠距離になると不利であるということが分かり切っている。魔法(マジー)は使用するためにラグがある。銃になるとそれがほとんどない。普通の銃弾なら竜族のエフォールは無傷でいられるだろうが、今回ヴィスが込めてある銃弾は竜族の幻妖(フェージョン)に有効なものであろう。アルモニーの技術の傑作であろうその銃弾はこの場合では脅威の一つだ。


(…でも、これなら打ち勝てる)


エフォールはまだ全力を出してはいなかった。徐々にだが、戦闘中において剣に込める力を強くする。

それによりヴィスはエフォールの剣を弾くというよりも避ける方向性へと移動し始めた。これはエフォールの攻撃を真っ正面から対抗することが出来ないことを意味している。


ヴィスが避けた反動により反撃してこれないように剣を振り回し牽制しつつ、エフォールは機会を探る。

避ける先を察知し、そこへ攻撃を繰り出せばいいのだ。


(ここだ…!!)


ヴィスの隙に対して全力で剣を撃ち込んだエフォール。だが、撃ち込んだ剣は空を切った。

強引に身体を捻り、気配を感じた方向を向いて反撃を身構える。


「ぐぅっ…」


ヴィスは足を狙ってきた。足を狙われるとは思っていなかったエフォールはまともにくらった。強引に身体を捻った影響も相重なり、身体の軸がブレる。

それが修正されないまま、横蹴りがエフォールを襲った。エフォールは吹っ飛ばされて地面を転がりつつも、何とか受け身を取ろうとするが…


ヴィスはそんなエフォールに容赦なく銃口を向けた。パンパン! と音を立てて発射された弾丸は全てエフォールに当たった。


「………っ」


「まだやるか?」


思いっきり脇腹を蹴られた上に、身体の節々がチクチクと痛む。しかし、エフォールはまだ諦めるつもりはなかった。


「はぁぁぁっ!!」


気合いと共に剣を一閃、風の魔法(マジー)を付与させ衝撃波として放つ。ヴィスがそれを避けると、目の前にエフォールがいた。全力で一閃を振るう。辛うじてヴィスは避けたが片腕に衝動が走り、銃が手から落ちた。

ドゴォォン! とエフォールの一閃の衝撃が地面に浸透していく。エフォールの側をスレスレ通り抜けたヴィスは背後を狙った。振り返りざまに背後から片手で横に斬り上げ、揺らぐエフォールの身体を地面にうつ伏せの状態で押さえつけた。


ヴィスによる拘束を逃れようとエフォールは藻掻くが、それをヴィスは許さなかった。


「わ、分かった! 降参するから、早く拘束を解いてくれ!! わざわざ負傷した箇所を締め付けられて本当に痛いんだぁ…」


「うむ。そうだな……息子が降参したことだし、ヴィスも拘束を解いてやれ」


ヴィスが拘束を解くと、審判であるアルゲベルトがヴィスの勝利を周囲に告げた。一部始終を観戦していた観客は一人と一匹に対し惜しみない称賛を送り、歓声に満ち溢れた。







+++






「ふぅ~」


竜族と戦闘するのは、中々に疲れる。それが、若くて経験の浅い竜であっても。

それがヴィスの正直なところの感想であった。

ヘルツバール程の強さを持っているのならば気疲れしないのであろうが、自分自身はそこまで強くない。今回の場合も立ち回りを考える必要性があった。


エフォールは立ち回りを変えれば、更に強くなれるだろう。もっと辛抱強さが必要なのだ。とヴィスは感じていた。戦闘での相手の心理を読み取るのは重要なことであり、今回、先に動いたエフォールは心理戦に負けたのだ。

竜族はスピードに劣る。重い身体を動かすのには相当な威力の魔法(マジー)を身体に付与しないといけないのだ。それは自らの負担の増加にもつながる。だから、防御力の高い竜族は常に "受け" の立場でなければいけないのだ。魔法(マジー)を使ってスピードを上げるよりも長期戦に持ち込んだ方が勝率が高くなり、身体へのダメージが少なくなるからだ。


(エフォールもこのままいけば、自分よりも強くなる可能性はあるな…)


そもそも、人間は圧倒的な弱者だ。だから搾取される。他の幻妖(フェージョン)達の力を借りなければ、幻妖(フェージョン)達とは戦えないのだ。

人間が唯一 幻妖(フェージョン)に勝る、もしくは拮抗する点といえば向上心、言い換えれば野心のみである。




ヴィスは落とした銃を捜した。

エフォールの攻撃で片腕に衝撃が走っていたが、それほど気をつけるものではないように感じる。普通なら負傷しているはずだが、痛みもないし、痺れもほとんど無く、動かすのにはほとんど差し支えない。これも彼女(・・)の加護の残滓であろう。とぼんやりと思っていた、そのとき。




「ヴィス! 避けろ!!」




ヘルツバールの悲鳴のような叫び声に反応しようとしたときに、身体に衝撃が走った。意識が暗みそうになりながらも剣で反撃しようとするがやすやすと躱された。

自分の身体に視線を落とすと、背中から深々と刺された銀色の短剣が見れた。黒いコートに血が滲んでいく。ヘルツバールの声がなければ、この短剣は確実に心臓を刺していたはずだ。


立っているのも段々と辛くなってきて、ヴィスは崩れ落ちた。

誰が犯人だろうか? と辺りを見回したら、目の前には一匹の竜族の幻妖(フェージョン)がいた。それもヴィスと交友のある人物で。


「な………んで?」


その問いに相手がニヤッとした笑みで応えたのを見たような気がしたのを最後に、ヴィスは気を失った。







+++






ヘルツバールはヴィスに警告を発したあと、自らもヴィスのもとに走り、ヴィスを刺した相手を蹴り倒した。相手はあっけないほどに軽く飛び、地面へと叩きつけられた。


「ヴィス!!」


ヘルツバールは崩れ落ちるヴィスの身体を支えた。地面に倒れると短剣が更に身体に食い込む可能性があったからだ。


「くそっ、意識がない…魔法(マジー)がかけられているのか!?」


戦闘経験が豊富なヴィスは、これだけの攻撃で意識を失うことはないとヘルツバールは知っている。短剣に何かしらの魔法(マジー)がかけられているのだ。

ヴィスのこと以外考えられなくなるほどにヘルツバールは焦っていた。そんな彼に蹴り飛ばした相手が起き上がって近づいてくる。その相手の脚を停めたのはヘルツバールの盟友であるアルゲベルトだった。




「どういうことだ! プランナ(・・・・)!?」




ヴィスを短剣で刺したのはアルゲベルトとラフィヌの娘であり、エフォールの妹であるプランナ・シエルであった。





「どうして? そんなの簡単ですわぁ~ 偉大なるお父様。あの方がヴィスさんに短剣を刺して揺さぶりを(・・・・・)かけて欲しい(・・・・・・)と私に頼んだのですからぁ~」




(まさか…イディオファナが!?)


魅了の魔法(マジー)は短時間しか効かない。というのがこの世界では不文律のように存在している。長時間の魅了はいわば洗脳の一種となり、この世界では通用しないはずなのだ。

それはこの世界の主であるギネフェルディーナ・シーニュ・ロワイヨムが個人を侵害する行為である洗脳というものを嫌うからである。そのため洗脳の魔法(マジー)が使える幻妖(フェージョン)は存在し得ないのだ。それにより、彼女が嫌う戦争という概念も幻妖(フェージョン)たち自らが望む行為としてある程度は許容されているが、最終的には拒絶され、長時間に及ぶ戦争は出来ないようになっている。


彼女が嫌うものはこの世界自体が嫌う。故にこの世界で洗脳の魔法(マジー)を使える存在は世界から嫌われ、祝福されることはない。だから、洗脳という概念はこの世界から消え去っているはずなのだ。だからアルゲベルトは "洗脳" という考えで相手が仕掛けてくるとは思いもよらなかったのだ。


「お父様の考えていらっしゃることは私、わかっているつもりですわぁ~ でも、私はイディオファナ様の "目" となることを自ら(・・)望んでいますのぉ~ この世界では自らの望むことは拒絶されない。そうですよねぇ~?」


それは明らかな意識の捻じ曲げ。洗脳であった。その事態をプランナは受け入れていることがその言葉からアルゲベルトは推察出来た。

イディオファナの命令に従うなら、何をしても構わないという、彼自身の人形にプランナは成り下がっていたのだ。






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