99 良い匂いすぎた!
二人きりの楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、もう夜もいい時間になってしまった。なぜか勝手に百合の部屋に二人で寝ることにされていたわけだが、百合は最後の悪あがきに床で寝ることにした。
「じゃあ私は床で寝るから。ベッド使っていいよ」
「え?何言ってるんですか?」
しかし葵は断固とした意思を持っていて、百合の手を握ってベッドに誘ってきた。
「今日は二人で過ごす約束ですよね?」
「まあそうだけど…一応同じ部屋にいるからその条件は満たしてるかなって」
「それじゃあ意味が無いじゃないですか。せっかく百合さんと添い寝できると思って準備してきたのに…」
「!?」
一体何の準備なんだ。それを問うのは野暮な気がするから訊かないけど、興味がありすぎて眠れないかもしれない。
だってこんなに顔真っ赤にしてるんだもん。恋人として気にしない方が無理あるって。
しかし断ることなんてできるはずないし、彼女の術中にハマってあげることにする。
「…じゃあ…一緒に寝る…?」
「はいっ__!!♪」
彼女はめちゃくちゃ嬉しそうに笑った。
そんなに嬉しそうな顔をされると自然と百合の心も明るくなって、今夜の二人きりの時間を楽しもうと心から思うようになった。
「隣、失礼するね」
「もともと百合さんのベッドなんですけどね♪」
「もう葵の匂いついちゃったから私のものとは言えなくなっちゃったよ」
「匂いですか?」
「そ」
いつもの部屋にはない甘くて芳醇な香り。本人は自覚ないみたいだが。
「今日は百合さんと同じシャンプーとボディーソープを使ったはずですし、服も貸してもらったやつですから…同じ匂いのはずでは?」
「まあ確かにいつもとは違うけど。でもやっぱり葵からは葵の匂いがするよ」
「臭いますか…?」
「いやいやいや!!そんなわけないよ!?」
普段あり得ないぐらい良い匂い垂れ流しておいて何を今更。逆に煽られてるのかと思ったよ。まあ流石にその考えになるのは当たり屋すぎるから口にはしないけど、ちゃんと良い匂いだという自覚だけはさせておく。
「葵はいつもとっても良い匂いだよ!!何というか甘くて爽やかでまろやかで…とにかく良い匂いだよ!!」
「そうなんですか…?自分ではわからないんですが」
自分の腕の匂いを嗅ぎながら疑問符をを浮かべる。しかし自分の匂いがわからないのは当たり前だし、こればかりは言葉で伝えるしかない。
「心配しなくても葵はいい匂いだって。嗅いだらついドキドキしちゃうぐらいにはね」
「!!??」
彼女に自信をつけさせるつもりの発言だったが、どうやらこれはやり過ぎだったみたいだ。現に葵は顔を真っ赤にし、やや暴走気味に距離を縮めてきた。
「じゃあその…今もドキドキしているということですか…?」
まるで誘惑しているかのような目線。流石の百合もドキドキせずにはいられず、葵の方を見ながら顔を赤く染めた。
「まぁ…そういうことになるね…」
「そうですか…」
お互いドキドキして会話がうまくつながらない。
どうやら葵もかなりドキドキしているみたいで、それが伝わるぐらいに身体が熱く感じた。
「あのさ、葵って体温高いっけ…?」
「?いえ…。別にそんなことは…」
「そっか。じゃあ今葵の手が熱いのは…ドキドキしてるからってこと…?」
「っ…そういうことです…」
雰囲気のままに手を握り合う二人。もちろん体温も伝わってきて、葵の極端に熱くなった手がモジモジ動いている。それだけで彼女がドキドキしているのは明確にわかって、百合は自信を持って葵に身体を寄せていった。
「…やっぱ良い匂い。葵は私を誘惑するためにこんな匂いにしてるの?」
「っ__!?そ、そんなつもりは__!」
「ふふ、わかってるよ。葵は元からいい匂いだから仕方ないんだよね」
「〜〜っ!!」
調子に乗ってやりすぎてしまった気が。でも葵の可愛い照れ顔を見られたから良いだろう。
「でも今夜はずっとこの匂い嗅ぎながら寝るってことだよね…今日寝られるかな?」
「さ、さぁ…。でもその、夜は長いですからね…?♡」
「っ…!!」
まるで誘っているかのような、妖艶な表情。
しかし百合は自分の中の悪魔をグッと抑え込み、一旦は襲わないことに成功した。




