98 押し付けられてしまった!
何とか葵をいい感じの可愛い寝間着に着替えさせ、百合は少しだけ落ち着きを取り戻した。お陰で今夜の過ごし方なども考えられるようになって、今は葵とお菓子を食べながら女子会を開いている。
「でもまさか、本当に心花さんが赤点を回避するとは思いませんでしたよ。全教科赤点も覚悟したんですよ?」
「そんなに酷かったの?」
「それはもう。小学生の方が理解してくれそうなぐらいでした」
「なかなか辛辣…。まああれだけ壊滅的だとそうもなるよね…。私も中学の頃は苦労したよ」
お茶を飲みながら、先日まで行われていたテストについての話に花を咲かせる。すると百合の苦労話が出てきて、葵はそれに興味津々のようだ。
「中学生の頃は百合さんが教えていたんですか?」
「まあちょっとね。私も別に順位は高くなかったんだけど、心花が極端に酷かったから相対的にね…」
「ああ…そういう…」
実際心花の中学時代は酷いものだった。息をするように赤点を取り、運良く平均点を取れれば満点のように喜ぶ。時には七教科赤点の時もあって、あの時の心花の勉強を教えるのは本当に骨が折れた。別に私だって頭良いわけじゃないのに。
それに比べて今の環境は恵まれている。葵はめちゃくちゃ頭がいいし教え方も上手で、今回の赤点回避も間違いなく彼女のおかげだ。
これは幼馴染であり親友でもある私がちゃんと感謝を伝えておかないと、次以降がきっと大変なことになる。だから私は葵の目を見ながら軽く頭を下げた。
「だからさ、今回は本当にありがとうね。心花が赤点回避できたのは葵のお陰だよ」
「いえいえ。私も教えていてとても楽しかったですから」
(わざわざそんな優しい言葉で包んでくれるなんて…。なんて優しい子なんだ!!)
心花のことを悪く言いたくないからそう言ったんだよね。でも大丈夫。葵の本音はちゃんとわかってるから。
「次からは無理しなくていいからね…心花のことは私が何とかするから…!」
「何か誤解がある気がするんですけど」
「葵は優しいから言えないだけだよね…。でも大丈夫。私は全部わかってるから」
「やはり何か違う気が」
これ以上話したところで彼女は優しいから本音を言うことはないだろう。だからもうこの話はやめにして、さっさと別の話題に進もう。
「まあとりあえずお馬鹿な心花は一旦置いといて」
「凄い言いようですね…」
「私たちとは違って、葵はちゃんと一位だったみたいだね。やっぱ凄いよ」
百合に話題をまるっきり変えるという高等テクニックが使えるはずもなく、結局テストの話になってしまう。
「いえ。私なんてそんな」
「謙遜しなくていいのに。葵はちゃんと凄いよ」
二人が通う高校はこの辺りではかなりの名門校で、一位を取るのは容易ではないはずだ。恐らく誰も見てないところで途方もない努力を積み重ね、この領域に辿り着いているんだろう。
その代償か、同性を好きになってしまっているが。まあ別に良いけど。
「…そんなに褒めても何も出ないですよ…?」
「葵の照れ顔が見られたから十分な収穫だよ♪」
「もぉ…百合さんのばかぁ…」
「はははっ♪さっきの仕返しだよっ♪」
やはり揶揄う側になると楽しいものだ。まあ意図してそうしたわけではないけど、葵の可愛い顔が見れるならそれで良い。
「そういうことをするならもう勉強教えませんっ…!」
「え__それは待って流石に!!」
そんなことをされたら心花が大変なことになってしまう!本人のいないところで大事にするのはマズイし、とりあえず彼女をなだめてみる。
「ごめん!!今のは謝るから勉強は教えてっ!!」
「百合さんはもう私なんていなくても大丈夫ですよねっ…!」
「言い方!!誤解を生むような言い方はやめて!?」
確かに一人でも何とかやれそうなぐらい勉強が染み付いてきたけど。でも勉強を口実にデートするんが良いんじゃないか…!
そんな百合の下心は葵には届かず、彼女は以前怒ったままだ。
「私もう菫さんと一緒に生きるので、百合さんは是非心花さんの勉強を教えてあげてください!」
「どさくさに紛れて私に押し付けようとしてない!?」
「そ、そんなつもりはないですよ…」
「目が泳いでるよ…??」
やはり心花に勉強を教えるのは疲れるらしい。百合も前はそうだったし。
まあでも本人はもう少しだけ頑張ると言っていたし、ここは葵にもう一踏ん張りしてもらいたいところだ。
「彼女は成長している。あとは任せたよ」
「百合さんも押し付けてますよね!?」
「気のせいだよー」
「目が泳いでますよ」
是非葵に心花をプレゼントしてあげたいと、人生で初めて思った瞬間だった。




