96 触られてしまった!
滴る雫の音。霧がかる湯船。そして、肌を露出させる美少女。
「あの…!」
「ん?」
「私にも触らせてもらえませんか…!?」
「…は…??」
圧倒的な顔面とは相反する発言に困惑してしまう。しかし彼女にもちゃんと理由があるみたいで、それを説明し始めた。
「心花さんから聞きました。この前お泊まりした時に触り合いっこしたって…!」
「!!??」
あの子口軽すぎないか?流石にそれがバレるとは思ってなかった。
わざわざ言いふらすということはマウントでも取ってるんだろうか?そして多分葵はちゃんと対抗心を燃やすタイプだからこうなっちゃってるし。
(もぉ心花…っ!!なんで言っちゃうの…!?)
百合は心の中で幼馴染への文句を垂れた。しかしそれは何の解決にもなってなくて、葵は若干暴走気味に迫ってくる。
「心花さんにだけそういうことをするなんて、そんな不公平なことしないですよね…!?」
「そ、それは…」
そういう攻められ方をされると弱い。
同じ恋人候補である心花にはしてあげて、葵にだけしてあげないというのはあまりに不公平だ。彼女もそれを理解しての発言なのだろうが、それは百合にとって心臓に悪い以外の何者でもない。
(どうしてこうなっちゃうのかな…)
触られるのなんて幼馴染の心花相手でも恥ずかしいというのに、どうしてよりにもよって出会って数ヶ月の好きな子に触らせないといけないんだ。そんなの心臓がはち切れる未来しか見えない。
しかし断るわけにもいかず、結局百合は渋々首を縦に振った。
「…わかったよ」
「!!いいんですか!?」
「そんなこと言われたら断れないよ…。葵だけ仲間外れにはできないし…」
「ありがとうございます…!!」
心底嬉しそうに笑みを浮かべた。しかし恐らく彼女は心花と同じことをするならば自分も触られるということを忘れている。
どうせ触られるならこっちだって触りたい。ならもう触られたという既成事実を作り、それをこちらが触る口実にしてやろう。
「じゃあその…どうしよっか?タオル脱ぐ…?」
「あ、それは…流石にやめておきましょうっ…」
「りょーかい」
ここにきて恥ずかしくなったのか、裸は拒否されてしまった。まあこちらとしても裸は流石に恥ずかしいから助かったのだが。
一応心花とは直接触り合ったことは内緒にしておく。
「………」
「…ほら、いいんだよ…?触っても」
「あ、はい…っ。じゃあ、失礼しますね」
「んっ」
心花の手が頬に伸びてくる。
しかしそれは想定外の動きで、百合は呆気にとられて目を見開いてしまう。
「…なんでほっぺ?」
「柔らかそうだなと思いまして」
「………」
なんか想像してたのと違った。もっとエッチな感じで来るのかと思ってた。
拍子抜けでちょっとだけ肩の力が抜けてしまう。
「やっぱ百合さんのお顔、とても綺麗ですよね」
「??今日エイプリルフールじゃないよ??」
「冗談じゃないですよ。本当にお綺麗で見惚れてしまいます」
言葉の通り、葵は百合の顔をじっと見つめている。そして湯船のせいか、彼女の頬はほんのり赤い。
(え、これもしかしてそういう展開…!?)
少し頭がボーッとしているせいか、変な期待をしてしまう。
しかし百合の考えとは裏腹に、葵はニコニコと笑みを浮かべ始めた。
「ふふ、キスされると思いましたか?♡」
「いや__!!別にそんなことっ…!!」
「大丈夫ですよ。ちゃんと約束は守りますから」
「…ありがとう」
約束とは、唇同士のキスはちゃんと付き合ってからというものだ。二人はお試しで付き合っているだけで合って本当に付き合っているわけではないため、今まで唇は拒んでいた。
彼女も百合の意見を尊重し、今まで頬にキスをしていたのだが、今回もどうやらそのパターンらしい。
「好きです」
少しとろけた顔のまま、彼女の唇が頬に触れた。その感触は相変わらず柔らかくて、つい唇に欲しくなってしまうほど妖艶だ。
しかし百合は理性を強く保ち、何とか自分を抑えた。
「ここお風呂なんだけど…??」
「ふふ♪それが良いんじゃないですか」
「わからないなぁ…。バレたら恥ずかしくて死んじゃうよ?」
「大丈夫ですよ。一応家族公認カップルですから♪」
「そうだった…」
うまいこと丸め込まれてしまう。本当にこういう時は敵わないぐらい口上手だ。普段は割と抜けてるとこあるのに。
本当に、恋愛に関しては強い女の子は厄介すぎる。まあわざわざ同性を選んでる時点でかなり厄介か。
どうやらもう手遅れらしいので、諦めて身を委ねることにする。




