93 気を遣われてしまった!
「というわけで、葵が泊まることになりましたぁ…」
「「「………」」」
夜になって家族が帰ってきた時、百合は葵を紹介するみたいに手を向けた。
それに対して他の家族三人はジト目を向けて来ていて、百合の心の中の気まずさは加速していく。しかし優しい葵がそれを察し、即座にニコニコ笑みを浮かべながら発言を始めた。
「急なお話でも受け入れてくださってありがとうございます。できれば皆さんとも信仰を深められたらと思いますので、今晩はよろしくお願いします」
「よ、よろしく…」
「百合姉とイチャイチャしなくていいんですか?」
「それは寝る時にゆっくりさせていただくので」
「あ〜♪そういうことですかぁ♡」
「です!」
「………」
勝手にイチャイチャするのを確定させないでほしい。いやどうせそうなるんだろうけど。こっちだって今晩のうちに気持ちを伝えるつもりだから好都合ではあるけど。
でもそれを家族に知られるのは本当に嫌すぎる…。絶対明日からイジられるだろうし。
(もう諦めるしかないか…)
まあどうせ遅かれ早かれこうなる日は来るだろうし、仕方ないと受け入れて思い切り楽しんだ方が得だ。というわけで百合はお泊まりデートを満喫する決意を固め、何となく今晩の計画を頭の中で立てていくわけだが…
「ということは私たち今夜はどこか別のところに泊まった方がいいかしら?」
「あ、確かに。あたしたちが家にいると気になっちゃいますよね」
「近くのホテル探しておくわね」
「ん!!??」
気づけば三人が結託してどこかに泊まる予定を立て始めていた。わざわざ外に泊まるということは、恐らく三人はそういうことを想像している。
しかし流石の百合でもそこまでする勇気はないため、そこは一旦訂正しておくことにした。
「いやわざわざそんなことしなくていいから!!普通に家にいてよ!!」
「でも私たちがいると邪魔でしょう?」
「全然邪魔じゃないけど!?」
「まあ直接は言いにくいよね。大丈夫。あたしは全部わかってるから」
「何もわかってないッ!!」
この姉妹は本当に百合を弄ぶのが好きみたいだ。まあ百合の反応が良いからなんだろうけど、普通に仲が良すぎて微笑ましくなってくる。
そういう感情の葵は三姉妹を見ていると自然と笑みが浮かんできて、つい自分も義理の姉妹として混ざりたくなってしまう。
「ふふ、莉々恋さんは察しが良いですね。どこでそんなこと覚えて来たんですか?」
「それは内緒です。あたしにだって事情があるんで」
「あの少女漫画の宝庫が?」
「__!!??ちょ、それ言わないでよ!!??」
「あごめん。言っちゃダメなやつだった?」
「百合姉のバカ!!!」
莉々恋には意外な趣味があるみたいで、葵も自然と生温かい視線を向けてしまう。
「良いじゃないですか。少女漫画、面白いですもんね」
「え、葵そういうの読むの?」
「はい。実は最近結構ハマってます」
「へ〜、意外な趣味ね」
「もっと高貴なイメージがあったわ。音楽をしていたって聞いてたし」
「そんなことないですよ。私なんてどこにでもいる普通の女の子ですから」
「「「「それはない」」」」
「あれ…?」
その見た目、その振る舞いで一般人は無理があると言わんばかりに全員が否定した。一番近くで見て来た百合はなおさら葵の言葉に否定的で、彼女はみんなに葵の凄さを説明し始めた。
「だって家豪邸だし部屋にピアノあるんだよ?普通の家の人はピアノ置かないって」
「そうですかね…?」
「まあね。まずピアノを置けるほど広い部屋が無いし、音の対策にもかなりお金がかかるしね」
「あと普通にピアノ弾ける時点でお嬢様じゃない?」
「流石にそんなことはないと思いますけど…」
自分が想像していたのとは違う目線を向けられていて驚いた葵は、困惑したように首を傾げている。しかしこちらからすればなぜそんなに普通にこだわるのかわからなくて、彼女に純粋な疑問を抱いている。
「別に良いじゃん。お嬢様でも。私はどんな葵でも好きだから」
「え!?」
「あら〜」
「見せつけてくれるわね」
「普通に百合姉に恋人がいるのが許せなくなって来た。約束のケーキはホールで買ってもらおうかな」
「え!!??」
確かにそんな約束をしていたような…。でも流石に一人でホールはキツくない?
そんなことを考えている間にも、他のみんなが話に食いついてくる。
「何それ聞いてないんだけど」
「百合姉が優勝したらケーキ買ってくれるって言ってたから」
「あら〜あなたお金持ちね」
「私はガトーショコラで良いわよ」
「私はショートケーキで。葵ちゃんは?」
「え??私もですか?」
「当たり前よ。ほら、百合が買ってくれるなんて珍しいんだから気が変わらないうちに」
このままじゃとんでもない額が飛んでいってしまいそうだ。まあでも、たまにはこういうも良いかな。普段何もしてあげられてない分こういうところで感謝を伝えないと。
「良いよ。葵の分も買ってあげる」
「本当ですか…!?ちょっと待ってください!今考えるので!!」
葵はスマホを開いて色々考え始めた。そんなに考えなくても葵になら別にいくらでも買ってあげるというのに。
まあカロリーとか気になるだろうし、ここは気を遣って何でも買ってあげるのはやめておくことにする。
別にお金が無いわけじゃないんだからね!!




