90 気合いが入った!
「はぁ〜調子乗ったぁ…!」
恋人候補とのデートを終えた百合は、一人部屋の中で悶えていた。
「いくら何でもアレはやりすぎでしょ…!!あんな…あんな恋人みたいなこと…っ!!」
観覧車での雰囲気に当てられ、こちらの気持ちを告白して頬にキスをした。それは百合にとってその場の勢い任せの行動で、流石に羞恥心と後悔で前を向く事ができなくなってしまう。
「絶対変なヤツだって思われたよね…。今まで散々キープしておいて今更好きとか自分勝手すぎるよね…」
だって気持ちが溢れてしまったんだから仕方ないじゃん。一応心花も私のこと好きみたいだし、言われて嬉しかったとは思うけど…。
しかしそういう問題ではない。こんな柄でもないロマンチックなことをしている事が、なんとなく背伸びしているみたいで恥ずかしい。
「でも頑張ったから良くない…??私なりに結構頑張ったんだよ…!?ちょっと調子乗っても許されて良くない!?」
確かに百合にしては頑張ったデートだった。今までだったらまともに会話すらできなかっただろうに、今回はちゃんと心花の目を見ながら会話を成立させる事ができていた。百合からすればこれはかなり頑張った部類で、なぜかそれを誇りに思っている。
「まああの子私のこと好きだし??どうせ今頃私に『好き』って言われて嬉しくてベッドで悶えてるんじゃない??」
大っっっ正解。だがそれを知る由はないため、完全な予想に過ぎない。
しかし最近彼女とちゃんと向き合うようになって、意外と普通の女の子のような恋愛感情を持っていることは理解していた。だからこういうシチュエーションでドキドキするのも当然。のはず。
「ま、別に心花のことが好きなのは今に始まったわけじゃないけどね」
今までは友達として、幼馴染として彼女のことを好いていた。もちろん恋愛感情ではなく、ただ同性の子に向けるいわば「仲良くしてくれてありがとう♡」的な感情だった。まあどうせあの子は気づいてなかったんだろうけど。
今となってはそういう友人としての好きが恋人としての好きに変化しただけだから、正直こちらの心境の変化はあまり大きくない。結局これからも仲良くやっていきたいということには変わりないし。
まあ彼女は結構苦労してるみたいだけどね。主に好きという感情が大きくなりすぎて。向けられる側の立場にもなってほしいものだ。
「私もいつか、めちゃデカ恋愛感情では押し潰してやるんだからね!!覚悟しててよね!!」
なぜか開き直った。一応前向きだから良い切り替え方ではあるけど。でももしこの言葉が実行されたときは、きっと心花は顔真っ赤にして恥ずかしがるんだろうな。
いや可愛いなそれ。明後日やってみようかな。
いや流石に今やるのはまずいか。こちとらもう一人の恋人候補とのことも考えないといけない立場だし。どちらかに肩入れするのは良くない。
まあどちらにもやれば済む話ではあるけど。いつか絶対にやってやる。
と、そんなことを考えていたとき、百合のスマホが通知音を鳴らした。
「ははぁん?さては嬉しすぎて我慢できなくなったか〜?」
手に取って確認してみたが、予想していた人物ではなかった。
『うるさいんだけど』
隣の部屋の妹からだった。確かに言われてみればかなり大きめの声で喋っていたかもしれない。まあたまにあることだから慣れてるだろうけど、とりあえず仕方なく謝ってあげることにする。
『ごめん。静かにする』
『マジ迷惑。明日試合なのに』
『ごめんって。優勝したらケーキ買ってあげるから許して』
『スクショしたから。ご馳走様で〜す(╹◡╹)』
流石妹。姉の扱いをよくわかってる。
というか絶対優勝できる自信あるんだ。まあ普段からあれだけ頑張ってたら自信も湧いてくるよね。
そんな頑張り者の妹のことを考えていると自然とこちらにもやる気が湧いてくる。
「私も頑張らないと…!!」
心花とのこと、そして明日に控えているもう一人とのデートも。まずは最高の状態で明日を迎えられるように、念入りに身体を洗っておこう。
百合は気合を入れながら部屋を出て、そのまま風呂に入った。しかしそのとき、百合のスマホはもう一度音を鳴らしていて。
『あの、明日のことなんですが』
どうやら勝負はすでに始まっているらしい。




