89 見られてしまった!?
【好き】
遊園地デートを終えた夜、心花は観覧車での出来事を思い出しながらベッドに突っ伏していた。
「ああもう…!!そんなこと言われたら諦められなくなるじゃん!!」
もし百合が葵を選んだ時は潔く諦めて応援してあげようって決めてたのに。あんなこと言われて諦められる自信がなくなってしまった。
「責任とってくれよぉ!!あたしをこんな風にした責任を!!」
一応家族にバレないように枕の中に感情を吐き捨てる。でもいい感じに声を殺せるお陰で存分に思いを爆発させることができてしまって、心花は考える必要のない事まで考えるようになってしまう。
「今更葵のことだけを選ぶなんて許さないんだからね…!!絶対にあたしのものにしてやるんだから!!」
今までこんなに対抗心を燃やしたことは無かった。それは葵の方が先に百合のことを好きになっていて、百合本人も葵のことが好きだったから。正直百合の気持ちがこちらに向く可能性は薄いと思っていた。
でもあの観覧車の発言がどうしても忘れられなくて、必要のない期待まで抱いてしまう。
「そしてゆくゆくは手を繋いだらキスしたり…お泊まりの時にえ、え…っ!!」
流石に理性がストップをかけてくる。
「うおおおおおおおお!!??何考えてんだあたし!?」
付き合ってもない女の子にそういう妄想をするなんて我ながらキモすぎる。絶対バレないとわかっていても本人に申し訳なくなってくる。
「大丈夫…!!あたしはちゃんと大切にするから…!!怖くないぞぉ…!!」
誰もいない枕に声をかける変な人。それは誰が見ても明らかな事実で、もちろん彼女も同じ意見だった。
「な、何してるの…??」
「うえ!!??お母さん!?」
部屋の前で困惑している表情を浮かべているのは、母の花菜だった。
「どうしているの!?」
「何か叫んでいるみたいだったからどうしたのかなって見にきたのよー。そしたらあなたが枕に向かって話しかけてるから…」
「いやこれは違うの!!決して枕に話しかけてたわけじゃないから!!」
必死の弁明。でもアレは最初から話を理解していない人からすれば意味不明な行動だし、だからといってことの発端を最初から説明するのは憚られる。そもそも母に百合とのことは話してないし。
というわけで花菜の誤解を解く術は無く、そのまま困惑の目を向けられ続ける。
「ま、まあ誰にもそういう時期はあるわよね!!私も昔はそうだったわ!!」
「えそうなの?」
「た、多分…」
「……」
一瞬にして嘘だということを理解した。
まあこんな行動普通の人間はとらないよね。なんとなくわかってた。一瞬期待したのが馬鹿みたいだ。
そんな風に落ち込む心花だが、それを花菜が必死に慰めようとしてくれる。
「もし悩みがあるなら聞くわよ…?私は何があっても心花の味方だから、安心して話してね?」
「そっすか…。でもごめん。特に話すことはない」
「悩みもないのにあんな事していたの…?逆に心配になってきたわ〜」
「そーなっちゃうかぁ…」
この人は昔から心配性な部分があるから、多分今もかなり心配してくれている。頑張って顔には出さないようにしているつもりだけど、母に悩んでいることを隠せたことは一度もないから、今回もきっと悩みがあるのをわかっててこういう言葉をかけてくれているんだろう。それは普段ならとても有難いことなのだが、今はそうもいかない状況だ。
この前彼女は女の子同士もアリとか言っていたけど、受け入れてもらえる絶対的な自信は無い。優しくて何でも受け入れてくれる人だからこそ、本音を隠されているのではと不安になることもある。それがまさしく今に当てはまり、仮にこの関係を説明して笑顔で受け入れてくれたとして、それは果たして本音なのかという疑問がきっと心に残り続ける。
そんな状況で付き合うなんて心が引けるし、そもそも付き合えるかもわからないから、話すのはずいぶん先でもいいと思っている。ちゃんと百合と向き合って、愛を育んで、そして堂々と自信を持って話せるその時まで。
だから心花は隠すことを選んだ。大切な母だからこそ。
「…ごめん。こっちで何とかするから、今は大丈夫。また今度時間があったら話すから」
「わかったわ。あなたが話してくれるまで、私はいつまでも待ってるわ」
「うん」
ようやく話が一段落したところで花菜が部屋を去ろうとしたのだが、そこで何かを思い出したように立ち止まってこちらを向いた。
「じゃあ私は片付けがあるからこれで。あ、もう少しで風呂沸くから入って〜」
「は〜い」
「あと下着をそこら辺に散らかすのはやめなさいね〜?お嫁に行けなくなるわよ?」
「っ!!??よ、余計なお世話!!」
「あらこわいこわ〜い」
「もぉぉぉぉ!!!!」
まさに思春期の女の子の反応。ここまで露骨だと結婚を意識するような相手がいる事がバレてしまうというのに。でも脳が勝手に反応してしまうから仕方ない。
まあ一応下着は片付けておくか…。理由は無いけど、一応ね?
「百合…」
今度は誰にも聞こえないようにその名を囁いた。そしていつの日か彼女と笑顔で隣を歩くのを、虚空を眺めながら夢に見た。




