88 気持ちが溢れてしまった!
その後は心花との遊園地デートを全力で満喫した。怖がる百合を制してジェットコースターに乗ったり、前から二人で話していた有名なお化け屋敷に乗り込んで一ミリもビビらなかったり。二人なりの形で遊園地を楽しみ、気づけばもう日が落ち始める時間になっていた。
「ねぇ百合!最後にあれ乗ろ!」
無邪気な顔で指を差している先には、間違いなくロマンチックな雰囲気にできる観覧車があった。恐らく心花はあれに乗って良い感じの雰囲気にするつもりなのだろう。流石に鈍感な百合でもそれぐらいは気づく。
「うん。乗ろっか」
しかし今はロマンチックこそ正義だ。恋人とのデートでドキドキしたい気分でもあるし、ここは彼女の作戦に乗ることにした。
「次の方どうぞ〜」
時間も時間だからか意外と空いていて、十分も待てば順番が回ってきた。
二人はスタッフに案内された通りに観覧車に乗り、早速外の景色を眺め始める。
「楽しみだな〜♪頂上に行くとどんな景色が見れるんだろう?」
「多分とっても綺麗なんだろうね」
「夕日もいい感じに見えそうだし、これは告白にはうってつけのタイミングなのでは!?」
「……」
百合は瞬時に(これ自爆するやつだ)と察した。
そしてその考えの通りに彼女は顔を赤く染め始める。
「…なんか言ってよ!?恥ずかしいじゃん!?」
「いやなんて言えばいいかわからなくて」
「なんでもいいから喋ってよ!!」
「そう?じゃあ告白待ってるね」
「!!??そ、そういうんじゃなくて!!」
彼女は駄々をこねる子供みたいな反応を見せてくれる。しかし前まではこちらが揶揄われる立場だったため、立場が逆転した今は楽しくて仕方ない。
「ふふふっ♪心花ってやっぱり可愛いよねっ!」
楽しくなってついこんな言葉が出てしまうぐらいに、百合は心花とのデートを満喫していた。かけがえのない同性の幼馴染と、世間には認められない甘いデートを。
「な!?なんでそんな急に…っ」
「普通に今そう思っただけだよ。まあいつも可愛いとは思ってるけど、今は特別」
「そ、そんなこと…っ」
学校のこととか家のこととか、そしてライバルのこととか全部忘れて無邪気に笑顔を浮かべているその瞬間は、百合にとって何にも変えられないかけがえのない存在だった。過去には勇気を、今は笑顔を分け与えてくれるその表情だけは、絶対に独占していたい。そう思ってしまうぐらい彼女の笑顔は素敵で、守りたいものだった。
そして向こうも、私にだけありのままの姿を見せてくれようと必死に努力してくれている。私の為にならなんでもすると、そういう意思を見せてくれている。
そんな経験、人生で何度あるだろう。正直に言うと、もう二度とないと思う。だから心花のことは大切にしたいし、結ばれたらこれ以上ないほど幸せになれると思う。
だから百合は正直に、それを言葉で伝えることにした。このいつもは鋭くてなんでも察してくるくせに、こと恋愛に関しては鈍い彼女のために。
「私はそんな心花のこと、独占したいって思ってる。そういう可愛い顔を私にだけ見せてくれたらどれだけ幸せなんだろうって、最近毎日考えてたよ」
少し笑いながら、胸中を明かしていく。胸の高揚と共に登る観覧車も、気づけばもう頂上まであと少しのところまでやってきている。
「でもまさか、ここにきて考えてることが同じだとは思わなかったよ」
「え…?」
心花の目を見ながら、そっと優しく手を取った。そしてそれを軽く握りながら困惑する彼女に答え合わせをしてあげる。
「どういうこと…?」
「実は私も、最後に観覧車に乗りたいなって思ってたんだ。良い感じの夕日が見えるのは調べてたら出てきたし、きっと同じような調べ方してたんだね」
「マジか…。ここにきて運命感じちゃうとは」
「そうだね。きっと運命、だよね」
小さい頃に出会って一緒に過ごしてきたのも、心花が百合のことを好きになったことも。それらの全ては運命で結ばれていたのではないかと、そう思ってしまうぐらいに出来すぎている。
そして最後に、百合の気持ちがこうなってしまったのも。
「じゃあ私が今からすることも、運命のイタズラってことだよね」
「え?それってどういう__」
「好き」
勢いのままに、心花の頬にキスをした。そして瞳と瞳で見つめ合い、二人の感情を確かめ合った。
その時ちょうど、観覧車は夕日に一番近い場所にあった。




