87 最終デートが始まってしまった!
二人との関係に決着をつけると言ったは良いものの、正直どうするかは全くのノープランだ。とりあえずテスト終わりの休日に早速デートを入れ、それで色々考えて決めるという話にはなった。
そしてじゃんけんの結果本日は心花とデートをすることになり、早速家の前で待ち合わせをしているわけだが。
(遅い…)
約束の時間から十五分ほど経っても彼女が家から出てくる気配はない。まあでも心花はこれがデフォルトだから今更何も思わないけど。連絡はしてくれたら嬉しいけど。
と、そんな事を思っていた時、ちょうど彼女が家から飛び出してきた。
「ごめん遅れたー!!!」
急いでいたのか、息を上げながら膝に手をついている。
「準備に時間かかっちゃって…!!本っ当にごめん…!!」
いつもはそんなに謝ってこないくせに。最後のアピールチャンスだからって良い子ぶろうとしてる?申し訳ないけど心花にそういうのは求めてないかも。
心花は普段通りに振る舞ってくれるだけで十分面白いし一緒にいて楽しいから、今更取り繕う必要なんてない。それを本人にも伝えようとしたのだが、それは彼女の気合の入り方を見れば悪手だということに気づいた。
「もしかしておめかししてたから遅くなっちゃったとか?」
「まあ…そんな感じ。もしかしたら最後のデートになっちゃうかもだし、後悔しないようにって思って…」
顔を赤くしながらモジモジし始める。
そんな綺麗な恋人の顔を見ていたら流石の百合も嬉しくなって、少し頬を赤くしながら感謝の気持ちを伝えた。
「そっか。私のために頑張ってくれたんだね。ありがとう」
「どういたしまして…」
恥ずかしそうに目線を逸らす彼女の顔はいつもより丁寧にメイクされていて、普段とは違う雰囲気を漂わせている。私がもし男だったら今すぐにでも彼女に告白してしまいそうなぐらい、心花は大輪のように美しい。
つい見惚れてしまって彼女のことを見つめる続けていると、痺れを切らしたように少し怒ってくる。
「ああもう!!見過ぎだって!!」
「え?私に見てもらうためにおめかししたんだよね?」
「それはそうだけど…!!あんまり好きな人にジロジロ見られるのは恥ずいって…」
女心は難しい。と、女の百合が思った。
まあでも心花の言いたいことはなんとなく理解できるし、流石に虐めるのも可哀想なのでとりあえず他の場所に目を向けることにした。
「そっか。ごめんね。でも私が本当に綺麗だって思ってるのは覚えておいてね?」
「もぅ…バカ…!」
「えぇ…」
最大限気を利かせたつもりが、なぜか罵られてしまった。やっぱり乙女の恋心は理解できそうにない。いやまあこっちも乙女だし恋心はあるんだけどね。でもなんとなく種類が違う気がする。
まあ結局のところ今更考えても無駄な気がするし、とりあえず細かいことは後回しにしておく。それよりも早くデートを開始しないと。
「ま、まぁとりあえず行く…?時間勿体無いし」
「そうだね…。うんっ!行こう!!」
「急に元気だね」
彼女は少し涙目になりながら口を尖らせていたが、すぐに気持ちを切り替えて堂々と拳を握った。相変わらず感情の変化が読めないが、この切り替えの速さは見習いたいところだ。
「さあ早く行こう!!遊園地があたしたちを待ってる!!」
「そんなに急がなくても遊園地は逃げたりしないよ」
「いーや!!朝早くに行かないと遊園に逃げてくよ!!」
「何言ってんの…??」
「というわけで今すぐ走ろう!!短距離走のように!!」
遊園地の方向に指を差しながら大志でも抱きそうな目で空を見つめている。どうやら心花は走ってでも早く遊園地に行きたいらしい。
だがしかし百合には百合なりの走りたくない理由があって、一応念のためにそれを心花に共有しておく。
「いやごめん。それは無理かも」
「なんで!?急がないと乗れるアトラクション少なくなっちゃうかもよ!?」
「いやそれはそうかもだけど…走ったらせっかくおめかししたのが台無しにならない?」
「あ」
まず風でセットした髪がボサボサに崩れる。そして汗の匂いで香水の芳醇な香りが大変なことになる。挙げ句の果てには早朝に眠い目を擦りながら時間をかけて完成させたメイクが台無しに。
およそおめかししている人がする行動ではないことは、これだけでも理解していただけるだろう。流石の心花も瞬時にそれを理解し、とりあえず走るのはやめてくれそうになった。
「そうだね…。せっかく頑張ったのが全部ダメになっちゃう…」
「そうそう」
まあそれもあるんだけど、一応物理的に不可能だということも教えておくことにする。
「あとついでに多分私の体力が持たない」
「あ」
運動不足女の体力は、家から駅まで早歩きするだけでも息切れしてしばらく歩けなくなるぐらいだ。そんな彼女が駅まで走ったら大変なことになるし、その後の遊園地もまともに歩けなくなるだろう。
長年一緒にいる彼女はそれをすぐに察してくれたが、それは果たして喜ばしいことなのだろうか。
いや、確実に否である。




