86 時がきてしまった!
「さて、一旦テストのことは忘れるとして」
「忘れちゃダメでしょ」
「あたしは今後ことを話し合いたい!!」
ファミレスでテストお疲れ様会をしている最中、この話に耐えきれなくなった心花が声を上げた。まあ確かに成績良くなさそうな人からすればこの話は苦しいだろうから別のこと話すのは良いけど。でも今のままじゃ曖昧すぎて疑問が残る。
「今後のこと、ですか?」
「具体的に何を話し合いたいんだ?」
「それは…あたしたちの未来について!!」
「未だ抽象的だな」
「もしかして具体的の意味理解してない?」
百合と菫から辛辣な言葉が飛ぶ。しかし彼女はその程度で屈さず、自信を持って話を続けた。
「あたしは思ったわけですよ。そろそろこの関係に決着をつけるべきなんじゃないかって!」
「「「!!!」」」
関係に決着をつけるというとこは、すなわち誰が百合と付き合うかを決める事を意味する。これは将来にも関わるとても大切な案件だから中々誰も扱えなかったが、勇気だけはある心花は躊躇う事なくその話題を口にした。
いずれこうなる日が来るとわかっていたとしても、百合からすればこれはかなりデリケートな話だ。流石に困惑や焦りが出てくる。
「それってつまり…いい加減決めろってこと…?」
「いや急かすつもりはないけどね。ただいつまでもこのままってわけにはいかないでしょ?」
「それはそうですね…」
心花の言う通り、いつまでもお試しなどという言い訳を使うわけにはいかない。
人間には決断しなければならない時がある。それが恐らく今なんだろう。
(でも急に言われても決めれるわけないよ…!!)
この優柔不断女は、いつまで経ってもどちらかを選ぶことができなかった。そんな彼女が今すぐ決断なんてできるわけないだろ!
まあとりあえず百合は最大限どうするか考え始めたわけだが、当然のように結論は出てこない。
そしてそれを察したように、優しい優しい菫が助けの言葉をかけてくれる。
「確かに百合はいい加減ケリをつけるべきだと思うが、流石に今すぐは無理なんじゃないか?それが出来ないから今こうなっているわけだし」
「っ…それはそうだね…」
心花とお試しで付き合い始めて約一ヶ月、葵に関してはもう二ヶ月になっている。告白されてからここまで焦らすヤツなんてそうはいない。普通ならとっくにしびれを切らしていてもおかしくないのに、二人は優しいからあえて我慢していたのだろう。
でもこちらとしても我慢させるのは憚られるし、そろそろ決着をつけるべきなんだろう。と考えていたが、やはり優しい優しい菫が先陣を切ってくれる。
「ちなみに二人の意見を訊いてもいいか?もう少しだけ時間をあげるべきか」
「私は構いません。百合さんと結ばれるためならいつまでも待ちますよ」
「あたしも。アンタが納得いくまで考えて選んでくれる方が嬉しいからね。結局は百合の幸せが一番だし」
「ですね!♪」
こういうところまで来ても自分じゃなくて他人の幸せを考える二人。やっぱりこんな優しい二人のどちらかを選ばないといけないなんて心苦しすぎるよ。
もし許されるのなら、二人とも私の手に…
「まあ最悪、二人とも彼女にするっていう手もあるけどね」
「!!!」
その言葉を待っていた!と言わんばかりに百合は胸を躍らせた。
「確かにそれも一つの手段ですね」
「倫理的には微妙だが…。全員が幸せになるには効果的かもな」
思いの外葵も菫も反応が良くて、百合の中にある(これだ!)という考えはさらに大きくなっていく。
「まあ百合はヘタレだし、どうせ片方なんて選べないよね〜」
「そ、そんなこと…!!……」
「いや頑張って否定しなよ…」
「このままの流れなら二股になりそうだな」
「っ……」
二股と堂々と言われると流石に躊躇いが来てしまう。やはり世間体を考えると一人を選ぶべきだろうか?
いやだからそれが出来たらとっくにやってるんだって。
「ま、まあもう少し時間くれない…??ちゃんと考えるから…」
とりあえず考える時間が欲しい。真剣に未来を考えるために、あと少しだけ。
「わかりました」
「りょーかい」
その意思が表情に出ていたのか、二人は思ったよりも簡単に時間をくれた。
「でもちゃんと時間制限を設けないとまたいつまでも長引きそうだし、ここは一週間でどうだろうか?」
「それが良いと思います」
「果たして百合は一週間で決めれるかな〜?♪」
「が、頑張る…!」
誰と未来を歩むか決めるべく、一生で一番長い一週間が幕を開けた。




