83 棘に気付いてしまった!
「それでは、私たちは失礼しますね」
「ご家族の皆さん、本日はお邪魔させていただきありがとうございました」
気づけば夕方になり、家が近くない葵と菫は帰宅することになった。二人は律儀にペコペコ頭を下げながら別れの挨拶をし、こちらもそれに応えるように笑顔を向ける。
「いいのよ〜。二人ならいつでも来てくれていいからね」
「ありがとうございます。また今度百合と遊ぶ機会がありましたら、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますっ!」
「は〜い」
特に菫は礼儀に重きを置いていてるようで、まるで結婚挨拶をしに来た旦那みたいな態度でリビングを立ち去った。しかし葵は緊張しているのか、ちょっとぎこちなく頭を下げてから玄関に向かった。
そして百合と心花は玄関に向かう二人を追いかけ、二人が靴を履いている間に感謝の気持ちを伝え始める。
「二人とも、来てくれてありがとうね」
「いえ。大切な人が辛い時に駆けつけるのは当然ですから」
「っ……」
また平然とそんなことを言う。今は笑ってこんなことを言っているが、多分後になって顔を真っ赤にする。まあせいぜい菫に揶揄われないように気をつけてください。
「早く体調治してまた一緒に勉強しよう。テストは近いからな」
葵と違って菫はちゃんとまともな言葉をかけてくる。こういう言葉は返しやすくてとてもありがたいので、百合もしっかり会話をし始めた。
「うん。これからも勉強教えてもらうことになるけどよろしくね」
「任せろ。百合にならいくらでも教えてやるからな」
これ以上頼もしい返はないだろう。
そんな風な感想を抱いていると、なぜかこちらに近づいてきて耳打ちをし始めた。
「(あと、葵の扱い方も教えてやるからな?)」
「__っ!!??」
(き、急に何なんだこの人!?葵の扱い方って…!?)
一瞬で距離を取り、ニヤニヤ笑っている菫を睨みつける。しかし彼女は全く反省している素振りもなく、何ならさらに嬉しそうに笑い始めた。
「ははっ!いい顔をするな!」
「くぅ……っ!」
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。やはり葵の話を出されると弱いみたいだ。
まあ当の本人は何の話か全くわかっていないみたいだが。
「??何の話ですか??」
葵は頭の上に?が見えそうなぐらい首を傾げている。それに対して菫は黙秘することを選択し、いつものように軽い会話をし始めた。
「いや。今回は葵に勝ちたいなぁという話だ」
「私にですか?」
「ああ。そろそろ私も一位の景色を見てみたいのでな」
「そういうものですか」
「………」
何でこんなにも平然な顔をしていられるのか。だんだん菫という女の子のことがよくわからなくなってきた。
まあこれでも葵が認めた良い子だからこれからも仲良くしたいと思うけど、女の子同士の恋愛をする上で菫が近くにいるのは少し不安が残るところではある。次はいつ揶揄われることやら…。
そんなことばかり考えてしまう百合だが、マイナスな部分ばかり見るわけにもいかない。今日会話をしていて彼女の優しさは実感できたし、頼れる部分も見ることができた。これらのことだけでもマイナスな部分が掻き消せるぐらいには素晴らしいのだが、どうにもあのニヤニヤ顔が頭から離れない…。これが綺麗な花には棘があるというやつなんだろうか。
まあ今更考えたところでその棘が侵食してこないようにせき止めるぐらいしかできないし、とりあえずこの二人を早く見送ることにしよう。
「二人とも、そろそろ暗くなるから早く帰った方がいいよ」
「それもそうだな。暗くなると葵が危ないし」
「私の心配は良いですから!」
「こんなに可愛い女の子を心配しないわけないだろう?な、百合」
「っ…」
わざわざこちらに振って来ないでほしい。余計ややこしくなるんだから。
しかし百合も心配する気持ちは持ち合わせているため、とりあえずそれだけ伝えておくことにした。
「まあそうだね。葵、気をつけてね」
「〜〜っ…!わ、わかりました…」
「では百合。また会おう」
「うん。ばいばい」
「お大事に…!」
小さく手を振って別れを告げる。そして二人が見えなくなったぐらいで扉を閉め、一旦リビングに向かった。
(ふぅ…ようやく嵐が去った…)
熱がある時に菫といると心臓がもたなくなりそうだ。まあその分心が元気になった気がするから良いけど。でも次からはもうちょっと優しくしてほしい…。
そんなことを考えながらリビングの扉を開き、中に入っていったわけだが…
「百合、そこに座りなさい」
「え??何で??」
「心花ちゃんとの関係について、話してもらえるわよね??」
「…………」
なぜか全てがバレてしまっていて考えることを放棄した。




