82 調子が戻ってきた!
百合が熱で寝込み、急に食欲が湧いてきたためリビングに向かうと、優しい友人の三人がうどんを作ってくれることになった。相変わらずお節介な三人だが、病人のこちらからすればこれ以上嬉しいことはない。
本当、何で私のこと好きになったんだろう…??
「こっちは茹で終わりそうだよ」
「わかりました。こちらも良い感じなのでタイミングを合わせていきましょう」
「りょーかい」
そして今現在はキッチンで総力を上げて料理をしていて、百合はその姿を新妻を見る目で見ていた。
(将来結婚した時も…二人はきっとこんな感じなんだろうなぁ…)
真剣な表情で料理に励む恋人候補二人を見つめながら、自分と二人の将来について考えた。しかし頭が回っていないせいか、その妄想では百合と葵と心花の三人で結婚していることになっていて、倫理観的にアウトな部分がとても多かった。でもそこまで冷静に考えることができず、結局三人の将来について考えてしまう。
(次も、その次も…。私がおばあちゃんになっても、二人は私のこと看病してくれるかな?)
まだ付き合ってすらない女の子相手にこの感情の向け方。
こんなこと心花にでもバレたら「アンタ重すぎでしょ!?」とか言われんだろうなぁ。でもその時は「葵の方が重いでしょ」とか言ってなすり付けてやるんだから。あまり私のことを舐めない方がいいよ。
「何やら楽しそうなことを考えているみたいだな」
「__!?」
変な妄想をしながら新妻二人を眺めていたら、なぜか隣に菫が現れた。彼女はこちらの表情を見てある程度察したようで、小さく笑みを向けてくる。
「どうだ?葵と付き合う気になったか?」
「っ…それはっ…」
とてもわざとらしい質問に、流石の百合もジト目を向けた。
しかし菫は問題ないと言わんばかりに、ニヤニヤと笑いながら話を続ける。
「じゃあ心花と付き合うのか?」
「__!!??」
一瞬、聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑った。でも聞き取った言葉は間違いなく想像している通りの言葉で、言い訳を考えることに頭をフル回転させ始めた。
「ど、どうして…!?」
「さっき本人の口から聞いたんだ。百合のことが好きだってな」
「!!??」
え、あの心花が口を割ったの!?あの子ああ見えて秘密に関しては意外と口固いんだけどな…。
「一応言っておくと、原因は葵だ。叱るなら彼女にしてあげてくれ。あ、でも喧嘩とかはダメだからな?それは私が許さないから覚悟しておいてくれ」
「いや別に叱ったりするつもりないけど…」
「そうか?それなら助かるんだが。でもちゃんと口封じはしておかないと、いつか本当に苦労する日が来るぞ」
「それはそうだね…」
やっぱり葵はポンコツだった。何で普段は優等生なのに恋愛ごとになるとこうなっちゃうのかなぁ。まあそれが可愛いんだけど!
でも全部を可愛いで片付けるわけにもいかないため、とりあえず後でしっかりと注意しておくことにした。
「…どうした?何か言いたそうだな」
一旦葵のことは後にしておいて、とりあえず今解決させるべき点について考えることにした百合は、慎重に菫の表情を窺い始めた。しかし察しの良い彼女には簡単にバレてしまって、心を読まれているかのように考えていることを当ててくる。
「おおかた、心花との恋愛について認めてくれるのか気になっているんだろう?」
「っ……まあ、そんな感じです…」
恐る恐る彼女の目を見る。しかし思いの外彼女は笑っていて、こちらに優しい言葉をかけてくる。
「良いじゃないか。そっちの方が楽しそうで」
「え…??」
「というかそもそも私に人の恋路を邪魔する権利などどこにある?むしろ好きになってしまったのなら全力で全うするべきだと私は思う」
「!!」
意外と恋愛について理解があって驚いてしまう。流石に失礼すぎるけど。
でもやはり菫も一人の女子高校生ということで、こういう話には興味ありそうな感じだった。意外だけど!
「まあ仮に私が止めようとしたとして、その程度で止まるような女じゃないだろう?心花は」
「…確かに。意地でも倒しそう」
「だろう?だから面白いんだ。彼女は」
「だね」
クスクスと笑みを交わしつつ、キッチンの心花を見つめる。
すると向こうも視線に気づいたのだが、何とも的外れな言葉を返してくる。
「あ、もうすぐできるから待っててね〜♪あたしの特性冷凍うどんを食べさせてあげるからね!」
「冷凍なら誰が作っても一緒でしょ」
「いや違うから!?込められてる愛の量が違うから!?」
「それは普段私のお母さんが愛情を込めずに料理してるってこと?」
「そ…れは…っ!!ずるいってぇ…」
「百合さんが心花さんを泣かせました」
「ほほう?早速私の友人を泣かせるとは良い度胸だな」
「いや違うから!!あれただの嘘泣きだから!!騙されないでっ!!」
みんなと会話しているうちにだんだんいつもの調子に戻りつつある。周りはそれに気づいてできるだけ普段のような会話を心がけ、百合を元気付けようとしている。
しかし当の本人はその優しさに気付いていなくて、ただ楽しく会話することにだけ没頭しているのだった。




