80 ライバルが誕生してしまった!?
こんな修羅場かつてあっただろうか。葵のことを大切に思っている菫にこの三角関係がバレてしまい、心花は心臓をバクバクにしながら固唾を飲んでいた。
「………」
全てを説明した後、腕を組んで目を瞑った菫。彼女の表情は心なしか怒っているように見えて、心花も葵も声をかけることが出来なかった。
そして約十秒が経過したぐらいでようやく菫の重い口が開かれた。
「…なあ心花」
「はい…」
「本気なんだよな??弄んでいるとか、そういうのじゃなく」
それは友人である葵の気持ちも考えた上での確認だった。
もしいつもみたいにふざけて葵や百合を揶揄っているだけだとしたらそれは菫にとって許せないことで、下手をすればビンタをされるかもしれない。彼女は大切な友人のためであればそれぐらいする覚悟を持った格好いい女の子で、そこは心花自身も尊敬している部分だ。だからこそ心花も彼女の想いを無碍にしたくないし、するつもりもない。
簡単に言うと、百合との関係は言われるまでもなく本気だ。そこだけは菫にも理解しておいてほしいため、心花はいつになく真剣な表情で語り始める。
「当たり前だよ。あたしは本気で百合のことが好き。真剣にお付き合いしたいって思ってるし、遊んでるつもりもない」
いつになく真っ直ぐな眼差し。そして真剣な言葉。
「あたしは百合のためなら人生を賭けてもいいって思ってるぐらいの覚悟を持ってる。多分選ばれなかった時は泣いちゃうけど…でも最後は後悔しないように、あたしは百合との恋を全うしたい!」
そんな心花の立派な姿ををそばで見た葵は深く頷き、共感の意を示す。
「私もこの数日間心花さんの様子を窺っていたんですけど、この人は本気で百合さんのことが好きですよ。この世界で一番百合さんのことが好きな私が保証します」
「葵…!」
まさか彼女がこんな風に思ってくれていたなんて。まあこの子は優しいからさほど以外でもないが、それでも認められた気分で嬉しくはある。
したしだからといって問題が解決したわけではない。今もなお何か考え事をしている菫がどう思うかがこの修羅場の行き先を左右するため、心の中で緊張しながら彼女の表情を窺う。
「…なるほど。葵がそこまで言うならそうなんだろうな」
「はい…!」
「わかった。心花も本気なら許そうではないか」
「え…いいの…??」
なぜか認めてくれてしまった。しかしそれは大事な友人のライバルを作ることにもなり、下手をすれば葵が泣く姿を受け入れなければならなくなる。
そんなリスクを背負ってまで百合との恋愛を許してくれる理由がわからず、心花の頭の中は疑問符で埋まった。
しかしそれに逆らうように、菫は堂々とした振る舞いで心花の目を見つめる。
「ああ。そもそも私に他人の恋心を制限する資格などないしな。私にはわからないが、好きになってしまったのなら止められないものなんだろう?」
「そりゃそうだけど…」
「まあ遊びでやっているのなら今すぐ怒っていたがな」
「デスよね〜…」
思いの外怒られずに済んでホッとした。
とりあえず心の中で胸を撫で下ろし、肩の力を抜いた。
「ふふ、そもそも怒るつもりなんてなかったですよね?」
しかしなぜか笑っている子がいて、彼女は友人の心を読んでいるかのように言葉を放った。
それに対し菫はしっかりと否定をするが、それでも葵は笑みを浮かべたままで。
「ん??何を言ってるんだ。心花が不誠実だったら本気で説教するつもりだったぞ?」
「そうは見えませんでしたけどね。だってそもそも怒るつもりならこんな簡単に認めてくれませんよね?」
「……」
確かに言われてみれば、こんなあっさり認められるとは思ってもみなかった。小一時間覚悟などを語った上でようやく多少は認められるぐらいだと思っていたが、まさかものの数分でお許しまで得てしまうなんて。こんなの最初から怒るつもりだった人間の取る行動ではないと、確かにそう思った。
そこで心花も何となく菫の優しさを感じ、心が温まるような気がした。
「…ありがとうね。多分私のことも心配してくれてたんだよね」
「まあそれはな。心花も大事な友人だし」
「優しいんだね」
「やめてくれ…そんな…」
「ふふ♪そうなんです♪菫さんは素直になれないだけでとっても優しい人なんです♪」
「っ…そういうのはよせ…私を褒めても何も出てこないぞ?」
二人に褒められまくって顔を赤く染める。
なんか男らしい部分あって格好いいと思っていたけど、やっぱりこういうところはちゃんと乙女で可愛いじゃん。シンプルに容姿最強だから女の子相手にもモテるんだろうなぁ。
いやちょっと待ってそれマズイかも。百合が惚れちゃったらマズイじゃん。ここに来てまさかの強敵登場か!?
いや流石に考えすぎか。こんなにモテそうな人なら百合以外の子からいくらでもアプローチされてそっちの方に行くでしょ多分。
(本当に惚れないよね…百合…??)
ここに来てとんでもないライバル登場か。
そんな危機感に襲われつつ、揶揄わられる菫の赤い顔を目に焼き付けるのだった。




