08 先走ってしまった!
二人きりで話をした後、百合と別れた葵は友人の元に向かった。
「お待たせしました」
「ああ。じゃあ帰ろうか」
「はい」
菫は待たされたというのに平気な顔で荷物を持って歩き始めた。そしてそのまま何気ない会話を繰り広げながら校門の外に出た。
「…それで、彼女にどのような告白をされたんだい?」
「ふぇ!!??」
その瞬間、葵の頬は赤くなり、驚きを表情で表した。
「恋塚だったか?あの子、静かそうなタイプなのに意外とやるな。まさか入学初日から告白とは」
「うぐっ…」
その何気ない言葉が葵に突き刺さる。そしてやっぱり失敗したと後悔する。
「そ、そもそも告白されてませんよぉ…」
「そうなのか?あの雰囲気はいかにも恋愛の始まりのような感じだったが」
「………」
確かに恋愛の始まりではあった。まあ全ての始まりはこちら側だけれど。
しかしそれを言うのは流石に菫相手でも恥ずかしい。女の子を好きになっただなんて、受け入れてくれる気がしない。
(せっかく出来た恋人なのに…こんなところで失いなくない…。よし、やっぱりあの件は黙っておこう)
そんな風に意を固める。
「恋愛は関係ありません。ただお友達になりたいと、そういう提案をしていただきました」
「そうなのか?あの子意外と積極的なんだな」
「はい。それはもう」
恋塚さん。本っ当にごめんなさい…!
恐らく自分のせいで彼女のイメージが少し変なものになってしまったかもしれないことに謝罪する。まあそれが本人に届くはずもないけど。
「そうか〜。安心したよ」
「安心ですか?」
「ああ」
ふと、彼女はそんな言葉を漏らした。
それに疑問を持った葵は訊き返し、その質問に答えてくれる。
「だって葵にもし恋人ができたら私は邪魔な存在になってしまうだろ?」
「そ、そんなことは…!」
「もし相手が女の子だった場合、葵が他の女子と一緒にいるのはマズイ。下手をすれば浮気を疑われるかもしれない。だから私は、もしかしたら葵のそばに居られなくなるかもしれないと、少し不安になっていたんだ」
ようやく気づいた。同性に惚れてしまうという、普通とかけ離れたことに対するリスクを。
(そ、そうだ…。私が恋塚さんと付き合ったら…菫さんと一緒に居られなくなるかもしれないんだ…。それが浮気になってしまうから…)
これが同性に恋をしてしまった代償というやつなのだろう。
葵の中で恋愛に対する不安が募り、自然と歩く足を止めてしまう。
「(私はどうすれば…)」
「どうした?何か言ったか?」
「…いえ。早く帰りましょうか」
「ああ」
友達と恋人。
それを両立できないのが、同性愛。
(もしかして私、とんでもないところに足を踏み入れたのでは…)
不安が大きくなる。
いつも考えすぎて結局空回りするパターンが多いけど、今回ばかりはそうで無い気がする。
結局我慢出来ず、先程貰った連絡先にメッセージを送ってみる。
『あの!!』
『はい?』
すぐに返信が来た。
もしかして暇…な訳ないですよね。あんなに可愛いのに。
『恋塚さん的に、私が女の子の友達と一緒に過ごすのは浮気になるのでしょうか?』
すぐに既読は付いた。しかし返信が来ない。
もしかして非常識すぎて呆れられてる!?そんなの当たり前だって幻滅されちゃう!?
まあ、こういうところが考えすぎなんだろう。現に百合からの返信は葵の考えとは真逆のものだった。
『え、それって浮気になるものなんですか!?私そういうのに詳しくなくて!!』
『私も疑問に思っていて。どう思いますか?」
『私的には浮気にならないでいただけると有り難いんですけど…。だって今日も友達と遊ぶ約束してしまいましたし…』
「………」
はぁ〜〜…っ!!
やっぱり杞憂だった。
まあ冷静になってみれば、友達相手と恋愛的な関係になるはずがないか。現に菫に対しては友人以上の感情はない。
それは向こうもわかっているだろうから、こうして受け入れてくれるのだろう。
それなのに、それなのに私は…っ!
「どうした?そんなに顔を赤くして」
「い、いえっ!!何でもありません…!!」
恥ずかしさに身を任せ、足早に帰宅した。




