78 姉と呼ばれてしまった…
「そ、それはダメですっ!!!」
心花が百合の母と結婚について話していた時、突如として葵が大きな声を上げた。それはまるで心の底からの悲痛な叫びのようで、この場にいる全員が彼女の方に視線を向けた。
「ま、まだ結婚は早いと思います…っ!!私たちはまだ高校生ですから…!」
「……ふ〜ん。なるほど…」
華恋が眉間に皺を寄せながら葵を見つめる。そして直後、何かを察したように小さく微笑んだ。
「あなたが七瀬さんね?」
「え…??どうして知ってるんですか…?」
何の面識もない人に名前を言い当てられてしまったため、葵の頭は疑問符で埋め尽くされた。しかし理由自体は考えてみれば単純な物で、華恋がそれを説明し始める。
「だって百合が毎日のようにあなたの話をするんだもの。いい加減名前も特徴も覚えたわ」
「っ…!?そ、そうだったんですね…。百合さんが…」
好きな人が知らないところで自分の話をしてくれていたなんて考えただけでも嬉しすぎて胸が高鳴ってしまう。
「その、百合さんは私のことをどのようにおっしゃっているんですか…?」
「え?ん〜…内緒♪」
口元で人差し指を立てる。その仕草は本当に母親なのかわからなくなるぐらい若いのだが、今はそれ以上に百合の発言が気になって仕方ない。
「えぇ…。もしかして話すのを躊躇うぐらい私のことを悪く言っていたんでしょうか…?」
「いやそれはないから安心して。あれは誰がどうみても七瀬さん大好き人間の発言だから」
「大好き__!?そ、そうなんですね…」
今度は顔まで真っ赤になっているのがわかるぐらい身体が熱くなってきた。でもそれは乙女である以上仕方のないことで、とても正常な反応だと思う。
だがしかし周りから見ればこんなにも顔を赤くしている少女は物珍しいようで、特に百合の家族たちは興味津々な目でこちらのことを見てくる。
「その反応…どうやらあの話は本当みたいね」
「…??」
「ごめんなさい。挨拶が遅れたわね。私は恋雪。あの変わり者の姉よ。今はあなたたちも通っている学校で生徒会長をしているわ」
急に声をかけてきたのは、可憐で美しい少女だった。彼女こそが噂に聞く百合の姉で、噂に違わぬほど綺麗でお淑やかだった。
「あ、あなたが…!百合さんからお話は聞いてます!」
「そう?悪い話じゃなければいいのだけれど」
「そんなわけありません!百合さんはお姉さんのことをとても慕っていて、毎日楽しそうにお話ししてくれてます!それにお姉さんのことを心から尊敬もしていて__」
「もういいわ…!わかったから…。あとお姉さんはやめてちょうだい…」
「わかりました。恋雪さん…で大丈夫ですか?」
「ええ、それでお願い」
またちょっとやってしまったかもしれない。まあ本人がいないからギリ大丈夫か。
というかそもそもこんな話じゃなかったはずだ。さっき彼女から放たれた気になる発言について、一度訊き返すことにした。
「あの、恋雪さん。あの話というのは何でしょう…?」
「え?ああ、そういう話だったわね。でもこれって言っても良いのかしら…?」
何か悩ましい表情をしながらもう一人の女の子に目を向けた。するとその百合に似た少女がこちらにやってきて、楽しそうにニコニコ笑みを浮かべた。
「良いんじゃない?♪そっちの方が楽しそうだし♪」
「そうかしら?流石に本人の許可もなく言いふらすのは良くないと思うのだけれど…」
「それが面白いんじゃん」
「あなたは鬼畜ね…」
恋雪の隣に立って活発な態度を見せる少女の事は初めて目にしたが、何となく正体はわかっている。
「あ、ごめんなさい。自己紹介してなかったですね。私は百合姉と恋雪姉の妹の莉々恋です。よろしくお願いしますねー」
「よろしくお願いします。莉々恋さん、とお呼びしても良いですか?」
「はい!!じゃあ私も葵お義姉ちゃんって呼んでいいですか!?」
「おね__!!??そ、それはどういう事でしょう!!??」
血の繋がりのない人を義理の姉扱いするなんて、理由は一つしかない。この場にいる全員がそれを察し、すぐに指摘を入れる。
「莉々恋、あなたね…」
「どこで育て方を間違えたのかしら?」
「え、私またなんかやっちゃいました?」
「ええ。しかもこの前と同じ情報をリークしてるわねあなた」
「へ…??」
やはり無自覚は敵だということを理解したけど、悪い気はしなかったから良しとする。
それにしてもこの状況、多分あまりよろしくないな。




