77 結婚挨拶になってしまった!!
ゆっくり扉を閉め、一旦彼女のもとを離れる。
「思ったより元気そうでよかったね」
「ですね。倒れたと聞いた時はどうなるかと思いましたよ…」
朝起きると恋雪から心花に連絡が来ていて、何かと思えば百合が高熱で倒れたとか。流石にびっくりしてすぐに葵と菫に連絡して、音速で薬局に行ってきた。
倒れるぐらいだからもしかしたら危ないのかもとか考えていたけど、会ってみれば意外といつも通りで安心した。それは葵も同じみたいで、ゆっくり眠り始めた百合を見届けてホッとしているようだ。
「まあ百合は熱に負けるほど弱い女ではないし、そこまで焦る必要はなかったな」
「でもぉ…。心配なんですもん…」
「はは。そうだな。大事な友人が辛そうにしているのを考えると心配になるよな」
菫は涙目になりながら俯く葵の頭を撫でてあげている。やっぱりこの二人はとても仲が良いみたいだ。あと意外と葵が子供っぽくて可愛い。普段はあんなにお淑やかで高嶺の花って感じなのに。百合が好きになるのもなんとなくわかる気がする。
そう考えると、百合がこっちのことを好きになってくれる気がしない。彼女にとってあたしが魅力的な人間なのか、とても不安になってきた。
でもこんなところで不安になっているようじゃ百合を支えられるような人間にはなれない。彼女が弱っている時こそ強くあれるような、そんな人間になりたいんだ。だから誰にも弱みは見せず、ただいつも通りに振る舞うようにする。
「ねぇ二人とも、せっかくここに来たからちょっと家の人に会いに行かない?あたしたち急ぎすぎてロクに挨拶もできてないし…」
「あ、そうでした」
「私も一瞬挨拶はしたが、ちゃんとしたのは出来ていないしな。わざわざ家に上げてくれているのだから、ちゃんと挨拶をするのが礼儀だな」
「ですね。あと百合さんのご家族とお話ししてみたいですし…!」
割と楽しみそうな葵。
やっぱり好きな人の家族がどんな人なのかって気になるよね。ヤバい人だった時は最悪だけど。
でも百合の家族に限ってその心配をする必要はない。母親は優しくて明るい人だし、姉妹二人も友好的な性格で親しみやすいし。きっとこの二人ならすぐに仲良くなれるだろう。
「じゃあ一階行こっか。多分みんなリビングにいるから」
「はいっ…!」
「案内頼む」
「うん」
心花は二人を連れて一階に行き、いつものようにリビングの扉を開いた。
「こんにちは〜」
「「こんにちは」」
「あら心花ちゃん。それに美しいお嬢様方も。こんにちは」
まず最初に目に入ったのは、百合の母の華恋。実の娘以外にはしっかり優しい彼女は、例外なく葵と菫にも笑顔を振り撒く。
「初めまして。百合の母の華恋です。今日はお見舞いに来てくれてありがとうね」
「いえ。彼女は私たちにとって大切な友人ですから、当然のことです」
まずは菫が一歩前に。そして胸に手を当てながら自己紹介を始めた。
「初めまして、美しく偉大なお母様。私は花園菫と申します。娘さんにはとても仲良くさせていただいてます」
「あの子と??」
「はい。彼女はとても親しみやすくて面白くて、話していてとても楽しいので」
「そうなんだ」
意外といった感じで目線を下に向ける華恋。多分本人がいたら心外すぎてツッコミを入れてくるだろうけど、今はいないので割と静かにその場が流れた。
そして数秒後に華恋が顔を上げ、菫の方を向いて網を向けた。
「じゃあこれからも娘をよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
菫は律儀に頭を下げた。
やはりこういうところはキッパリしている子だ。もしこれが結婚の挨拶とかだったら「娘をよろしくお願いします」って言うんだろうなぁ。
(いやちょっと待って今言ってたよねそれ!?)
素晴らしいツッコミが決まったところで、心の中に焦りが芽生え始めた。
(これはちょっとまずい展開になってきたか…!?いやでもあたしには昔から築いてきた関係値があるから、ここは利用させてもらうしか…!!)
流石の心花でも葵に加えて菫までライバルになると流石に勝てる自信がないので、ここで牽制の意味もかねて百合の家族とも親しいことをアピールしておく。
「ちなみに、おばさんは既に私に百合を託してくれてますよね〜?」
「ん?まあそうね。あの子と仲良くしてくれるのなんて心花ちゃんぐらいしか居なかったしね」
やっぱり百合を選んで良かったと心の底から思いつつ、つい調子に乗ってしまう。
「ですよね?やっぱり幼馴染のあたしに任せるのが安心ですよね〜??」
「そうね。心花ちゃんはとっても良い子だし、安心して百合のことを任せられるわ」
「ふふっ♪任せてください!!百合の事はあたしが守りますから!!」
「ありがとう♪なんだか結婚の挨拶みたいね」
「っ!!??」
「あら?おばさんはあたしと百合が結婚するのをお望みですか〜??」
「そうね〜。どうせ男の子となんて仲良く出来ないだろうし、そうするのが一番安心ね」
悪ノリで会話が弾んでしまう二人。
しかしそれをよく思わない人物もいるわけで、彼女は心の底からの声を上げた。
「そ、それはダメですっ!!!」




