76 口に入れられてしまった!
「百合ーー!!生きてるかーー!!??」
熱が出たからベッドで眠っていた時、突如としてうるさいのが入室してきた。その正体は今日テスト勉強をする約束を交わした三人で、特に心花はいつもの五割り増しでうるさい。ちなみに葵は三割り増しだ。
「百合さん…っ!!大丈夫ですか!!??」
「あ、うん…なんとか…」
「よかった…っ」
「心配させんなよもぉ…」
「ごめんごめん」
病人の手を握るみたいな格好になる。いや実際に百合は病人だ。恋人ともなれば心配するのはそこまでおかしいことではないか。
しかしこの部屋にはもう一人いて、恋人でない彼女は思いの外冷静そうだった。
「案外話す余裕はあるみたいだな。安心したよ」
「菫さん…。来てくれたんだ」
「友人なら駆けつけるのは当たり前さ。この二人もそうだろう?」
「っ……」
「ま、まぁね〜…」
菫は葵と百合の関係を知っててこんなわざとらしい事を言っている。しかしそれの被害者がもう一人いて、彼女は焦ったように立ち上がった。
「あ、そうだ…!!色々買ってきたんだよ!!何か食べる!?」
「ん…何があるの?」
「プリンヨーグルトゼリーチーズケーキコーヒー」
なんか最後の二つ病人用じゃないな。ちゃんとお茶しに来てるじゃん良いけど別に。
普段なら彼女のお茶タイムを奪う意味でもチーズケーキとコーヒーを選ぶだろうが、今それを食べる余裕はないので他から選ぶことにする。
「…じゃあプリンで」
「おっけ〜」
心花が袋を漁り始め、数秒後にプリントスプーンを取り出した。
「あ、起きれる?」
「うん…何とか…っ」
身体を起こそうとするが、やはり上手く動かすことはできない。それを察し、葵と心花が手を貸してくれる。
「大丈夫ですか?」
「手貸すよ」
「ごめん」
「謝らないでください。私たちがやりたくてしているだけですから」
「そうだぞ〜」
優しくて微笑んでくれる二人。やはりこの二人が恋人候補だなんて恵まれすぎている気がする。こんな綺麗な顔で笑みを向けられたら熱なんて吹っ飛んでいってしまいそうだ。まあ今回の熱はそんなに甘くはないみたいだが。
とりあえずお言葉に甘えて手を取って身体を起こす。
「じゃああたしがあーんしてあげるね〜」
「っ!!??」
心花がプリンを開けたかと思えば、なぜかニヤニヤしていた。そして流石に驚いたのか、葵が少しか大きな声を上げた。
しかしあーんをされて体温を上げられるとこちらも大変なことになるため、それは全力で阻止させていただく。
「いや流石にそこまでましなくて良いよ。自分で食べられるから」
「そうは見えないけど?」
「ですね。身体が完全に弱っているみたいですし。ここは他人の手を借りるのも必要な手段だと思います」
「そうそう。人を頼ることも大事だぞー?」
「………」
確かに今の状態だとプリンを食べるのもままならないかもしれない。だから彼女らに託すというのは至って合理的な判断なのだが、やはり恥ずかしさが勝ってしまう。
そんな感じで判断に迷っていた時、なぜか菫が近づいてきてプリントスプーンを心花から奪い、そのまま掬って口に半ば強引に突っ込んできた。
「!!??」
「な、な、な…!!??」
「どしたの急に!?」
「少し焦ったかったからな。私が食べさせるのが一番合理的だっただけだ」
「だからって無理やり食べさせる普通!?」
とりあえず口に含まれたプリンを食べながら三人の争い(?)を観察する。
やはり恋人候補の二人はどこか焦っている様子で、あーんイベントを取られたことを深く後悔している。別にこれぐらいいつでもしてあげるのに。まあシラフだと恥ずかしすぎて出来ないけど。
しかし問題は菫の方だ。彼女はただの友人にも関わらず、そして葵と百合の関係を知っていながらこの行動に出た。それは簡単に言うと葵に喧嘩を売っていることになり、多分本人もかなりお怒りの様子だ。
「ズルいです…!!わ、わたしもやりたいです!!」
怒り…??全然怖くなかったわ。
むしろ可愛らしくてちょっと笑みが溢れてしまうぐらいだ。
「じゃあどうぞ」
「ちょっと待って!?あたしもやりたいんだけど!!」
「そうなのか?じゃあ順番にしようか」
「え」
こっちの意思関係なしですか…。
菫は思っていた以上に強引な子らしい。まあこういう時はそういう人の方が頼りになって安心するかもしれないけど。
でもこういう心がもたなくなるようなシチュエーションにもっていくのはやめてほしい。マジで熱上がっちゃうよこれ…。




