75 倒れてしまった!
「………あれ、もう朝…?」
寝心地の悪さで目を覚ます。少し見てみると、外から明るい光が差し込んでいた。
「腰いたっ…寝る場所間違えた…」
ちょっと身体を起こしただけで腰から痛みが。やはりちゃんとベッドで寝るべきだということだろうか。
まあ今日も勉強会をする予定だし、とりあえず時計を確認してみる。しかしそこには想像以上に早い時刻が刻まれていて、つい嬉しくなってしまう。
「まだ六時…?じゃあ二度寝しよっかなぁ」
一応まだベッドで寝る時間があることを確信した瞬間、嬉しくなっていつものように立ち上がった。するとなぜか足に何かが落ちた感触があって、そこに目を向けた。
「??…毛布…??」
昨夜は寝落ちする形で眠りについた。もちろん毛布を用意する余裕なんてなかったたから、すなわち誰かがかけてくれたということなんだろう。
「…ありがとう。お姉ちゃん」
特に確信などはないが、最初に姉の顔が浮かんできた。彼女は小言を言いながらも面倒見が良いタイプだから、きっとやれやれと思いながら毛布をかけてくれたんだろう。
やっぱり姉はいい人だ。わざわざ対抗したりする必要なんてない。ただ仲良く平穏に生きられれば、それだけで十分なはずだ。
「でも、私も負けないからね…!!」
しかし百合の中に眠る闘志が完全に目を覚ましていて、姉のことはライバルとしてしか認識できなくなっている。
まあでも今のモチベーションを保てば本当に学年トップも狙えるだろうし、ここで悲観せずひとまず忘れないうちに昨日の復習でもしておこう。
「………」
と思っていたが、なぜか視界がボヤける。焦点が定まらなくて、文字を読むのもままならない。
「…寝不足かな?やっぱり二度寝しよっか」
流石に睡眠時間が足りていないと頭が回らないんだろう。そう考えた百合は早速ベッドに向かい始めたのだが、そこでも視界が歪んでしまう。
「あれ__」
ドゴン__。
少し鈍い音が部屋に響いた。
そして直後、その音は自分と地面が衝突したことで発生したことに気づき、頭の中が困惑で埋め尽くされる。
「へ…??」
なぜか真正面にある地面。そしてじわじわと伝わってくる痛み。そこでようやく自分が地面に倒れたことに気づき、困惑はさらに加速した。
しかしその時足音がこちらに近づいてきて、心のどこかに安心感が生まれ始める。
「百合!!??今何か大きな音がしたけど大丈夫!?」
ノックもせずに部屋に突入してきたのは、やはり妹想いの姉だった。
少しずつ視界が暗くなっていく中、なんとか意識を保って彼女の言葉に応答する。
「え__!?…き、救急車!!!」
「流石にそれは大丈夫だよ…」
「でも!!あなたに何かあれば…っ!!」
「お姉ちゃん」
完全に我を失った姉の手を力一杯握る。でも多分それは全然大した力じゃなくて、ほとんど痛くもないだろう。でも百合は気持ちを伝えるために全力で握り、そして姉を落ち着けるように言葉をかける。
「私は大丈夫だから…。お姉ちゃんも昔はこうだったでしょ…?」
幼少期、恋雪か一番勉強に夢中になっていた時。友達と外で遊んだりゲームをしたりもせず、ただひたすら机に向かっていた。彼女はそれをほぼ毎日続け、結果として今のような天才と呼ばれるような存在になっている。
しかしその圧倒的能力には勿論代償がある。彼女の脳は一週間に一度オーバーヒートし、高熱を出して倒れていた。多分脳が疲労でおかしくなるぐらい勉強に夢中になっていたんだろう。
そして今、百合は当時の恋雪と全く同じ状態だと、そう確信していた。だから自信を持って彼女を説得する。
「私も勉強に夢中になりすぎてただけ…。お姉ちゃんと一緒だねっ…」
頑張って笑顔を作る。いや、これは本当に嬉しかった。ただ頑張らないと笑みが表情に現れないだけで。
それは彼女の心の奥にまで届いたのか、ようやく落ち着いた様子だった。
「もう…そんなところ一緒になっても嬉しくないわよ…」
「へへへ…。でも私は嬉しいからいいでしょ?」
「何言ってるのよ…。とりあえずベッドで寝ましょうか。立てる?」
「むりぃ…」
「仕方ない子ね…。ほら、ゆっくりでいいわよ」
「ありがとぉ」
やっぱり面倒見のいい姉だ。こういう人がそばにいるからいくらでも無理ができるし、楽しいことだってできる。
その時ふと、葵と心花の顔が頭に浮かんだ。その瞬間、少しだけ熱が下がった気がした。
そんなにも安心感をもたらしてくれる人と、将来を共にできたら。そんなことを考えながらベッドに寝転んだ。




