63 襲われそうになった!
その後も軽く恋バナをして女子トークに花を咲かせていたわけだが、そこで心花が突然真顔で変なことを言い出した。
「あのさ、いつになったらそういう雰囲気になるの?」
「ん??ドユコト…??」
百合は頭の回転が追いつかずにパンクしそうになるが、直後に彼女がしっかりと説明を始めてくれた。
「いやだから、いつになったらエ○い雰囲気になるの?って訊いてんの」
「は??エッ…??」
心花は呆れたようにため息をつき、直後に迫真の言葉をぶつけてくる。
「同じベッドに年頃の恋人が二人!!何も起こらないわけないでしょ!?」
「いやそんなことないでしょ!?」
「そんなことあるだろ!?普通どっちかが襲うもんでしょ!?」
「そんな普通は知らないんですけど!?」
ようやく彼女の言葉の意味を理解した百合は、咄嗟に心花から距離を取った。
しかしそれに合わせて向こうも近づいてきて、気づけばベッドの端に追い詰められてしまった。
「ちょっ__!!近いんだけど…!?」
「別いいじゃん?女の子同士なんだし」
ちょっとずつ距離が近づいてきて、直後に彼女は膝立ちになった。
「女の子同士とか、そんなの関係ないよね?♡」
「いや関係あるでしょ!?」
「恋人がイチャイチャするのに男とか女とか些細なことだよ」
「めっちゃ大事だと思うんだけど!?」
(てか普通こういうHなのって男女だから発生するイベントなんじゃないの…!?なんで女同士の私たちがこんなことしてんの…!?)
あまりに未知の領域すぎて理解が追いつかない百合。しかし反対に滅茶苦茶乗り気な女の子が目の前に。
「ねぇ…いいよね…?あたしもう我慢できないんだけど…」
「イヤイヤイヤ全然ダメなんだけど!!??」
全身を火照らせ、蕩けた目で接近してくる。
百合はそれを手で阻止しようとするが、普段鍛えていない百合よりも当たり前のように心花の方が力強く、簡単に接近されてしまう。
「ふふ、力よわ♡ガチで女の子じゃん♡」
「そりゃ私も乙女なので!!てかなんでそんなに力強いの!?」
「なんかアンタの事になると力が湧いてくるんだよね〜♪彼女を守りたいっていう本能かな?♪」
「普通彼氏のセリフじゃないそれ!?」
完全に興奮してしまっている心花が頬に優しく手を伸ばしてくる。その手は思ってたより大きくて柔らかくて、そして熱かった。
「百合…好き…」
彼女の綺麗で色っぽい顔が近づいてくる。
正直、このままキスされても別に嫌ではない。こんなにも可愛くて優しくて色っぽい幼馴染にチューされるなんて、きっと誰にも味わえない至福の体験だろう。
でもなんか、勢いでファーストキスをするのはなんか違う気がする。嫌というわけではないけど、そうしたいというわけでは決してない。
(葵とだってまだなのに…ここで初めてをあげちゃっていいの…?)
そこで浮かんだのは、もう一人の彼女の顔だった。
「だめーーー!!!!」
葵が悲しむ顔を想像すると、勝手に手が動いていた。今まで全然敵わなかった心花も退かせられるほどの力で彼女の身体を引き剥がした。
これで彼女からのキスは何とか回避することができたわけだが、まだ問題は残っている。
「あは、はははは…ごめん。嫌だった…?」
「え、いや違っ__!!」
「まぁそうだよね…。同性の幼馴染に勝手に興奮されて、手を出されそうになったら、普通嫌だよね…」
斜め下を見つめながら、虚空に言葉を吐き捨てる。その虚な瞳はとてつもない悲しみと絶望を映していた。
「ごめん!!調子乗ってやりすぎた。こんな破廉恥な女が恋人なんて嫌だよね…」
心花のこんな顔、見たことがない。そして、見たくもない。
その思いから、咄嗟に口が開いていた。
「嫌じゃない!!!」
その言葉は、静かな部屋の中全体と、心花の心の奥まで響き渡った。




