61 彼シャツしてしまった!
あれから数十分後、ようやくお風呂から脱出することができた百合であったが、そこでもう一つの壁に直面してしまう。
「これって心花の服だよね…?」
「うんっ!正真正銘あたしの服だよ?♪」
急に大雨に降られて心花の家に避難したので、当然百合の着替えなど無く、仕方なく心花の服を着ることになってしまったのだ。そしてこんなカップルみたいなイベントが発生するともちろん彼女もウキウキになって、こちらのことを笑顔で揶揄い始める。
「まさか彼シャツイベントが発生する日が来るなんて…あたし前世でどんだけ徳積んだん!?」
「いや彼シャツではないでしょ…。貸してる側が普通に女の子だし…」
「じゃあ彼女シャツ??てかそこそんなに大事??」
「全然。そもそも幼馴染に服貸すぐらいでこんな会話しないでしょ」
百合の言葉はもっともであるが、心花にとってそれは屁理屈でしかないようだった。
「でも今はカップルだもんね〜?♪世間一般では彼女に服を貸すということは立派なイチャラブイベントなんですよ〜♪」
いつもより上機嫌そうに妙なことを口走る。
もちろんそれは百合には納得のいかないもので、彼女もしっかりと反論をし始めた。
「いやそもそも付き合ってるっていってもお試しだし…!!それにこういうのは男女カップルだから成立するイベントでしょ!?」
「…なるほど」
例えば彼氏の服を着た彼女がサイズの違いにドキドキするとか、自分の服を着ている彼女に見惚れるとか、本来彼シャツとはそういうイベントのはずだ。
でも今の状況はどうだろう?女の子が幼馴染で親友の女の子に自分の服を貸してあげてるだけで、とくにサイズの違いなども無い。正直百合からすればあまりドキドキする要素が存在しないのだ。
でもそれはあくまで百合の感想でしか無い。向こうがこれはドキドキに値するほどのイベントだと感じであれば話は別。
「アンタの意見はなんとなくわかったんだけど…。別に女同士でも成立すると思うんだよねぇ」
「なんで…?」
「だってさぁ…ブカブカじゃん。あたしの服」
「………」
百合は今一度自分が着ている服を見てみた。
袖は自然と萌え袖になるぐらい長くて、裾はショートパンツをも隠してしまうほどだ。なので向こうからすればショートパンツを履いてるか履いてないかわからくて、それがより心花の感情を昂らせているのだろう。
「もうほぼ彼シャツじゃない?てかアンタ下ちゃんと履いてる?」
「は、履いてるし…!!」
「そうなん?服ブカブカだからわからなかったわ」
本当にこのセクハラ野郎は。いい加減乙女らしいことの一つでも言ってみろ!
「でもなんでこんなにサイズ合わないんだろう?別にあたしとアンタそんなに体格差あるわけでも無いのにね」
「確かにそれはそうだね…」
ようやく心花がまともなことを言い始めたが、その疑問は百合にも説明することができなかった。
ちなみに百合と心花の身長差は約五センチメートル。もちろん心花の方が高身長で、スタイルも抜群だ。それに比べて百合は若干太り気味で、たまにワンサイズ大きめの服を着るくらいだ。
心花のスタイルや身長を考えても、ここまでサイズが合わないのは理解が及ばない。一体二人の体格にどんな違いが__
「………」
「…どうしたの…?そんなにあたしの胸なんか見て…」
百合は一つ重要なことに気づいてしまった。
しかしそれを言葉にするのはなんか負けた気がするため、心花にそれを告げることはしなかった。
「いや、別に…。神様ってそういうことしちゃうんだって思っただけ」
「ドユコト…?とうとう宗教に目覚めた?」
「そういうわけじゃ無いけど。そういえば心花はそっち側だったんだなって、ちょっとムカついただけ」
「マジで意味わかんないんですけど!?なんであたしムカつかれてんの!?」
心花は何度も理由を問うたが、百合は何も教えることはなかった。
ちなみに皆さんお察しだと思うが、服が謎に大きかった理由はあの二つのお山に存在する。
なぜ天は二物も三物も与えてしまったのか。その理不尽さに絶望した百合は、静かに神に怒りをぶつけるのだった。




