05 誘拐してしまった!
「それでは皆さん、また明日元気な姿でお会いしましょう」
入学初日のイベントは全て終了し、ようやく帰宅することができるようになった。ボッチの百合にとって学校にいる時間というのは生命力を削られるためいち早く帰宅したいところなのだが、今日ばかりは用事があってそれは叶わない。
「百合〜。帰ろ〜」
「あ、ごめん。ちょっと用事あるから先に帰ってて」
心花から帰宅の誘いを貰うが、百合は首を横に振った。しかしこんなこと今までに無かったため、心花は疑問を抱いている。
「用事??先生に呼ばれたとか?」
「う、うん…!!そんな感じ」
「別にそれぐらい待つけど」
「い、いや!!時間かかりそうだから先に帰ってて…!!」
「そう?まあそこまで言うなら…じゃあまた明日」
「うん。また明日」
心花がいると彼女に話しかけられない。
そう、七瀬葵だ。つい数時間前に告白されて現状恋人になってしまっている彼女と、一度真剣に話をしないといけない。
正直心花以外のひとに話しかけるなんて胸が張り裂けそうになるぐらい緊張するけど、これからの人生に関わる大事なことだから仕方ない。
「あ、あの…!!七瀬さん…!!」
できるだけ目を見ないようにして声をかける。
しかし返ってきた声は、想像していたものとは違っていた。
「おや、もしかして君も葵の友達志望者かい?」
「え…??」
花のように美しく、暖かい風のように透き通る声。
確か彼女は、花園菫。自己紹介の時に印象的なことを言っていたから覚えている。
そしてこの言いぶり的に、多分勘違いをされている。友達になろうなんて言う勇気なんてありません…!!
「あ、いや、違くて…」
「じゃあもしかして私かい?申し訳ないが、私には葵がいるから__」
「恋塚さん__!?どどどどどうしてここに!!?」
ようやくこっちに気づいたらしい葵が大慌てで立ち上がった。
「その、話がしたくて…!!」
「話?もしかして私は外した方がいいかい?」
「それは…はい。二人きりで話がしたいです」
「〜〜っ!!!」
なんか顔真っ赤にしてる。これもしかして勘違いされてるヤツじゃ…??
「あ、いや…告白とかじゃ無いですからね!?」
「そうなのか?私はてっきり…」
「そもそも私女ですし!!」
「っ…」
「それに初対面の子に恋愛感情抱いたりなんてしませんよ!!」
「ぐっ……」
「…どうした?体調でも悪いか?」
「そうですよね…普通告白なんてしませんよね…」
「あ」
なんか傷つけちゃってる!?
弁明するのに必死でそこら辺の気遣いを完全に忘れてしまっていた。これは普通に可哀想。
一応今は彼女なわけだし、流石に見過ごすわけにはいかない。
「と、とりあえずどこか二人になれるところに…そう!屋上とか!!」
「告白じゃないか」
「だから違いますって!!」
「違うんですか…」
なんか面倒臭くなって来た。もういっそ強引に行ってやろうか。
少しずつストレスを溜めていた百合は、最終的にそれを爆発させた。
「ああもう!!いいから早く来てください!!」
「ふぇ__!?」
「あ、ちょっと__!?」
葵の手首を掴み、そのまま引っ張って行く。
そして教室を出た辺りで後悔する。
(あ〜…やってしまったぁぁ…。絶対に目つけられた…もう私の高校生活終わりだぁ…)
トップカーストの人間を底辺の人間が誘拐するなんて、そんなの許されるわけがない。下手をすれば死刑もあり得る。
いや、そんな事に怯えていては彼女との話なんて出来るはずもないし、ましてや「まずは友達から」なんて言えるはずもないだろう。
(…ううん、怯えてちゃだめだ…!!ここで勇気を出さないと…!!今やらないといつやるの…!!)
せっかく二人かなりなれるチャンス、こんな勇気を出せることはもう二度とないだろう。
それならもう少しだけ勇気を振り絞って、自分の言いたいことを言っておくしかない。
「(よしっ)」
「はぁ…はぁ…あの…」
「何ですか?」
「階段…しんどいです…」
「え?」
意外とポンコツなのかな…?
そんなことを思う百合であった。




