42 怒られそうになった!
「はぁ…莉々恋たちの話は本当だったのね…」
百合が葵との関係を打ち明けた直後、母の華恋は大きくため息を吐いた。
「正直嘘であってほしいって思ってたけど…どうやら本当のことみたいね」
「ね?言ったでしょ?あたしは嘘なんてついたりしないって」
「はぁ…まさか女の子を好きになるなんて…」
「………」
やはり親からすれば異性と結婚して孫を産んでほしいものなのだろうか。いや結婚は少し気が早い気がするけど、前例がある以上女の子と結婚するとか言い出してもおかしくない。
(やっぱ同性の恋愛って、簡単に受け入れられないものなのかな…?)
当事者と周りの考え方が違うことぐらいはわかってる。でも、私はもっと受け入れられても良いものだと思う。だってこんなにも楽しくて仕方ないんだもん。
「あのさ…!!私、今までお母さんたちに迷惑ばっかりかけてたけどさ…でも、葵と一緒に過ごすようになって変わろうって思ったの…!!」
百合は秘めていた胸の内を明かす。
「葵は綺麗で可愛くてお淑やかで、私なんかじゃ釣り合わないぐらい良い子なの…。でも葵は、私を好きになってくれたの…。私はその期待に応えたい…!この人と恋人になれてよかったって、絶対に言わせてみる。だから私は、あの子のために変わりたい…!」
百合の言葉をみんなが驚きながら見守る。しかし華恋だけは違っていて、彼女は百合を見ながら小さく笑っていた。
「…そう。良いんじゃない?アンタが変わりたいって思うほどの子なら」
「…え?いいの…?」
「というか、元々否定するつもりなんてないし。何勝手に勘違いしてんの?」
「へ??」
腑抜けた声が出てしまう。
そして周りからはクスクスと抑え込んだ笑い声が。
「も〜百合姉アホすぎっ」
「流石百合ねっ」
「これぞ百合クオリティ…w」
「笑わないでよ…!!勘違いしただけじゃん…!!」
百合の言葉が届くわけもなく、三人は腹を押さえて笑い続ける。
「まぁまぁ、三人ともあんまり虐めないであげて。この子意外と繊細なところあるから」
まさかの母親が守ってくれた。たまには良いとこあるじゃん。たまには。
だがしかしこの女たちはそう簡単に優しくなったりせず、先程同様の火力で心を抉ってくる。
「そうなの?」
「聞いたことないわね」
「今更百合に気遣う必要なんてります?」
「それはそうかも」
「お母さんまで!?私の味方じゃ無いの!?」
「そんなことを言った覚えは無いわね」
「酷いっ!!」
相変わらず敵しかいない百合。もう嫌になって逃げ出したくもなるが、なぜか心花にギュッと手を握られているので逃げることはできない。
「しっかし、百合が女たらしになるとはね〜」
「たらしじゃないし!?」
「でもキープしてるんでしょ?あんなに可愛い子を」
「キープ言うな!!待ってもらってるだけだし!!」
「てかもうすぐ例の一ヶ月も終わるんじゃないの?そろそろどうするか決めないとじゃん」
「そ、それは…」
いつもの面倒なノリかと思えば、普通に心に刺さる発言が飛んできてしまった。
これには百合も頭を悩ませ、徐々に答えにくい雰囲気になっていく。
「もしかしてまだ決めてないの?」
「百合姉、それは流石に不誠実じゃ…」
「………」
「はぁ…こんなにも自分の気持ちに正直になれないもんかねぇ」
「周りは気づいているのに自分だけ気づかないなんて、とんでもなく鈍感な子ね」
「え?ドユコト?」
「「「はぁ…」」」
周りからのため息が聞こえてくる。
一体何が鈍感なんだろう?今までそんなこと言われたことないんだけど。
「マジなんなの…?教えてよ…!」
「多分人に言われて気づくより自分で気づいたほうがいいよ」
「確かにそっちの方が良さそう」
「まあせいぜい頑張りなさい。応援はしてるから」
「えぇ…?」
結局三人は何も教えてくれなかった。
そしてその姿をそばで見ていた華恋さんは、本当に何をしていらっしゃるんだ。頼むからその怖い笑顔はやめてほしい。
しかしまあ、キープだと思われているのは嫌だし、そろそろ本気で考えないといけないのかもしれない。




