40 幸せにしたくなった!
その後葵は手際よく料理を仕上げ、いよいよ実食タイムに差し掛かった。
「「いただきます」」
手を合わせ、彼女が作った料理と対峙する。
「ど、どれから食べようかな…」
「いつも通りで大丈夫だと思いますけど」
「いやその…メニューがいつもと全然違うから!!」
白ごはん、味噌汁、天ぷらぐらいまでは家でも食べるから理解出来る。
でも今百合の目の前に並んでいる料理には、和え物や茶碗蒸し、さらにはフルーツヨーグルトまで用意されている。いやあまりにも豪華すぎる。とても女子高校生が作る料理には見えない。
流石の百合もこれは普通じゃないことを悟り、葵に驚きの目を向ける。
「私こんなに豪華な和食食べたことないんだけど…葵はいつもこんなご飯食べてるの?」
「いつもはもう少し質素ですよ。今回は百合さんがいるので張り切っちゃいました」
苦笑いを浮かべつつ張り切ればこんな料理も出せることを平然と言う葵。これは将来いいお嫁さんになりそうだ。
まあそんなのは一旦どうでもいいとして、とりあえず大切なのは味である。見た目だけ良くて口に合わなければ嫁に貰うかどうか少し考える必要が出てくるし。というわけで百合は早速メインである天ぷらの方に手を伸ばしてみた。
「!!美味しい…!!」
「お口に合ったようで何よりです」
揚げたてで熱々の海老天をいただいた。衣はカラッと、エビはプリプリで、まるでお店で食べているような感覚だった。
いや、これはもう店を超えている。一流料理人ですら辿り着けない神の領域だ…!
「何コレ…!どうやって作ったの!?」
「作り方自体は普通ですよ?ただ私は愛情を込めて作りましたから、その分美味しく感じるのかもしれませんね」
「っ…」
また平然とぶっ込んできたな。でも嬉しいし美味しいから普通に受け入れる。
「や、やっぱり普段から料理とかしてる感じ?」
「まぁはい。そうですね」
「そっか〜。女子力高いなー」
我が親友、心花も趣味で料理をしているし、やっぱり可愛くて陽キャの子は女子力高いんだな〜…。
(私も料理始めようかな…)
周りがこんなにも女子力高いのに自分だけ何もしないのはやや気が引けるというか。いい機会だし普通の女の子らしくなるために趣味として始めるのもいいかもしれない。
と、そんなことを考えている時、葵が突然暗い顔をして小さく話し始めた。
「女子力、とかじゃないですよ。私は仕方なく料理しているだけですから」
「え??どういうこと??」
箸を置き、下を向きながら語る葵の顔は、今までに見たことがないぐらい寂しそうで。彼女の口から漏れる言葉の一つ一つは、百合の心の奥に響き渡る。
「私の両親は仕事が忙しくてよく家を空けてるんです。ですから私が家で一人になることも多くて、仕方なく自分で料理して食べてるんです。そうやっていると自然と料理も上達して…って、食事中に何言ってるんですかね。すみません」
頑張って笑みを作っている葵の表情は、恋人から見ればただただ虚しいだけの苦笑にしか見えなかった。
自分の中にある家族の温かさを、彼女は知らない。その事実が、百合の心の大きく動かした。
「ううん。葵は悪くないよ」
「あはは…やっぱり百合さんは優しいですね」
「私は優しくなんかないよ。だって今も葵を幸せにしたいっていうわがままでキスしようとしてるんだから」
「……え??」
机に手を置き、身体を最大限伸ばして葵の頬にキスをした。
そしてそのまま至近距離で目を見つめ、真剣な目で自身の決意を表明した。
「私が葵を幸せにする。だからそんな暗い顔しないで」
「そ、それって…!」
「私と…つ、つ…!」
ブー!ブー!
スマホのバイブ音がリビングに響き渡る。
しかし今はそれよりも大事なことが__
ブー!!ブー!!!
「…あの、出た方がいいんじゃ…?」
「…そうだね。一旦出るね」
「はい…」
もう!!一番良いところだったのに!!一体誰だこんな時に電話なんてしてきたのは!?
スマホを見ると、画面には心花という文字が。
(後で絶対怒ってやる…!!)
家に帰ったらお説教だわ。
そんなことを考えながら電話に出る百合であった。




