39 揶揄ってしまった!
そろそろ決断する時が来たのかもしれない。今日で約束の一ヶ月も終わることだし、葵との関係についてちゃんと考えておかないと。
「あ、今更ですけど苦手な食べ物とかってありますか?」
「ううん、大丈夫」
「そうですか。なら私が一番得意な料理を作りますね!」
「お願い」
少々お昼を過ぎた頃、葵がニッコニコの笑みで手料理を振る舞ってくれることになった。
一応手伝おうかとは言ってみたんだよ?でもどうしても手料理を振る舞いたいって。その後こっそり「(これで胃袋を摘めれば…!)」って言ってたのは一応知らないフリをしておいた。流石にそんなことを言われるとドキドキしちゃうでしょ。
まあという感じで百合は絶賛暇をしているので、正直人生初の恋人を眺めるぐらいしかやることがないのだ。
「………」
こうしてじっくり見てみるとやっぱり可愛いなこの子。本当にどうして私なんかに一目惚れたんだろう?
(てかこの感じ…明らかに新妻じゃないか!?)
エプロンを着て楽しそうにお昼ご飯を作る姿はまさしく新婚夫婦のそれだ。という事は百合と葵が結婚しているということになるのだが…。
(私と葵が結婚って…そんなの想像もできないんですけど!?)
ここで否定はしない時点で答えは出ているようなものだ。でもそう簡単に受け入れるほど甘い女ではない。
(てかまずはお付き合いからでしょ!?順序すっ飛ばさないでもらえるかな!?)
自分で何を言っているのやら。いい加減認めればいいものを。
「あ、あの…そんなに見られると恥ずかしいです…」
気づけば新妻はタコのように顔を真っ赤にしていて、料理どころでは無くなったしまっていた。
しかしまあ、そうやって恥じらう姿も新婚っぽく感じてしまうんだけどね。もう完全にそれにしか見えなくなってしまってる。
(何で私の彼女はこんなに可愛いんだ…!?もう新妻になってくれっ…!!)
冗談めかしくそう考えるが、実際には今そんなことを考えている余裕はない。
「本当に…!集中できないので…!!」
「ああごめん。葵が可愛くてつい見惚れてた」
冗談混じりの発言だったが、葵はこういう時真に受けてしまうタイプで。
「っっ!!??私のことを可愛いって…!?」
「まあ当たり前のことだけどね。葵が可愛いのはみんな知ってるし」
「!!??」
とうとう火を消してキッチンでうずくまってしまった。流石にやり過ぎた。
罪悪感を少しばかり感じ始めた百合は、ソファから立ち上がって葵のもとに向かった。
「ごめん、ちょっと調子に乗った」
「もぉ…百合さんのばか…」
「っ…ごめんなさい…」
申し訳ないけどその発言も結構ドキッとした。やっぱり葵に夢中になっちゃってるよね?このままでは本当に告白してしまいそうだ。
流石に危機感を覚え、百合はいい加減葵を揶揄うのをやめた。
「さ、さぁ…!早く葵の手料理を食べたいなー!」
「百合さんのせいですよ…」
頬をぷっくり膨らませて拗ねている。いや可愛いな。もっと虐めたくなる。
でもそれは流石に意地悪すぎるのでやめておく。
「ごめんね。私が悪かったから」
「もぉ…これっきりにしてくださいね?」
「っ…うん…!もう意地悪しない!」
「…はい」
嘘である。
しかし単純な葵は簡単に信じてしまい、またいつものような笑みを浮かべ始めた。
「じゃあ、料理続けますね」
「うん。お願い」
葵は火をつけてもう一度料理に取り掛かった。
そしてその間暇であろう百合であるが、彼女はさっきとは違って葵のそばに待機した。
「手際いいね」
「百合さんの胃袋を掴むためにたくさん練習しましたから」
「…じゃあ期待できるね…!」
「はい!任せてください!」
とうとう言いやがったよこの人。流石にびっくりして身体が熱くなってしまう。
そして百合は心の中で、葵への気持ちに気づき始める。




