34 堕とされそうになってしまった!
五月になって最初の休日。それは二人のお試し期間も大詰めということを表している。
「…いよいよ最後のデートですね」
「…だね」
「緊張とか、しないんですか…?」
「うん、まぁ…」
(だって一つ屋根の下で二人きりなんだもん!!??)
お試し期間の最後のデートは、まさかの葵の家で二人で過ごすというものだった。
いや流石に攻めすぎじゃない!?普通に付き合ってるカップルでも一ヶ月じゃ家に上げないよ!?しかも私たちお試しだから正式に付き合ってないんだよ!?よく家に上げたね!?
「私はその、とても緊張しています…。だってその、大好きな人と家で二人きりになってますから…」
「__!!??」
(あ゛ぁぁぁそれはヤバい頭がおかしくなるぅぅぅ!!!)
そんなことを言われると意識してしまうだろ。てか過去の自分何でこれ許可したんですか!?こうなるってわかってるじゃん!!
「ですからその、今日はたくさん楽しみましょうね…?♡」
「〜〜っ!!」
彼女が可愛すぎてもう過去のことを考える余裕なんて無くなってしまった。
(その言い方は何!?誘ってんの!?今夜はたくさん楽しみましょうねって意味なんですか!?)
あまりにも発想がピンク色過ぎるが、一つ屋根の下二人きりでしかも彼女が赤面しているのならそう勘違いしてしまっても仕方ない。
だが経験上葵はこういう時ただ暴走しているだけなので、手を出される可能性は極めて低いと分析する。しかしながら顔を見るといつもより興奮しているのは明らかで、さっきからなんか距離が近い気がする。
「百合さん…好きです…」
「いやちょ__!?顔近いって__!!」
「いいじゃないですか。私たちは恋人なんですから…!」
不意に顔を近づけてくる。気づけば彼女の吐息が感じられるほどの距離にまで接近されていて、あと少しで唇が交わりそうになる。
しかし百合にも譲れないものがある。正式に恋人になっていない人とのキスは相手に不誠実だと考え、咄嗟に手を出して彼女の猛攻を止めた。
「それは無理!!流石に正式に付き合ってからじゃない、と…」
ふにっ__。
効果音が聞こえて来そうな感触が手を伝ってくる。ふと、自分の手の方を見た。
「な、な…っ!?」
そこで自分の手に触れているものが葵の双丘だと理解した百合の脳味噌は、一瞬にしてオーバーヒートを起こした。
「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!!!!」
葵を勢いよく吹き飛ばした。
しかし彼女がガッチリ百合の手を握っていた為、投げ飛ばした本人も葵の後をついて行ってしまう。その結果、百合は葵を押し倒したような構図になってしまって。
「………」
「………」
緊張から出る汗が滴る。自然と体温が上昇し、冷静な判断が効かなくなる。
「ん……」
天使のような美女に見惚れる百合。そして全てを受け入れようと目を瞑る天使。
一般人の百合は彼女の魅力に見入ってしまい、身体が自然と彼女のことを求め始めた。本能的な衝動には抗えず、百合はこの想いに身を委ねて唇を近づけた。
チュッ__。
甘く、そして我を忘れそうになるような音が部屋に響いた。しかし百合は何とか自分を取り戻し、その瞬間に葵の側から離れた。
「え、あ、あの…っごめん!!!つい雰囲気に流されちゃって__!!!」
慌てて謝る百合を他所に、葵はキスされた部分を指で触っている。一度訪れた至福の瞬間を身体に刻むように。
「こ、今度は…唇にお願いしますね…?」
「っ…!!??」
嬉しそうに、そしてこのまま百合を堕とすつもりのような妖艶な表情を向けてくる。
正直さっきこの表情をされていたら確実に堕とされてしまっていただろう。でも百合は何とか冷静さを取り戻している為、彼女の誘惑に何とか抗うことができた。
「それは…っ!!ちゃんと付き合ってからだから…!!」
「嫌というわけでは無いんですね?」
「そ、れは…そうかもだけど…!!今はダメ!!」
「百合さんもなかなか手強いですね」
「私は軽い女じゃないんだからね!!」
「それはよ〜く知ってます。ですがだからこそ堕とし甲斐があるというものです」
「私をどうするつもりなの!!??」
「秘密です♪」
この時点で百合はもう葵への気持ちに気づいていたのだろう。でも彼女の心がそれにそっと蓋をし、本人に自覚されないように隠蔽した。
しかし、ほんの一瞬だけ理性に抗った瞬間があった。
その証拠は葵の…いや、好きな女の子の頬に刻まれている。




