03 自己紹介が始まってしまった!
自己紹介。
それは己の全てを曝け出し、相手に自分の価値観を押し付けることだ(?)。
そしてその行為は、陰の人間には地獄のようなものだ。
「じゃあ最初は朝日奈さん。よろしくお願いします」
「は〜い」
しかし陽の人からすればそれは呼吸をするように簡単なことで、心花はその陽キャオーラを全開にする。
「朝日奈心花って言いまーす。趣味は料理で、最近はお菓子作りにハマってまーす」
サクサク自己紹介をする友人を見てより緊張が増していっている少女が一人。
(すごい…みんなの前であんなハキハキと…。うぅ…あんなの私にはできっこないよぉぉぉっ…)
自己紹介なんてこの世から消えてしまえばいいのに。
そんな百合の考えをよそに、心花の自己紹介は終わりを迎えた。
「はい皆さん拍手〜」
「(あの子良くね?)」
「(な!可愛いよな)」
「(後で話しかけてみよーぜ)」
男子たちがコソコソと話しているのが聞こえる。そしてそれを聞いた百合は、また頭を抱えていた。
(この感じだと心花はすぐにクラスに打ち解けてみんなと仲良くなって私なんて必要なくなっちゃうんだろうなぁ…。うぅ…私を捨てないでよぉぉぉ!!)
まだ何も起こっていないのに勝手にキレる百合。もちろんその声が届くはずもなく、次々と自己紹介は進んで行く。
(あぁあぁあぁあぁヤバいヤバいヤバい…!!まだ何も思いついてないのにぃ…!!)
「じゃあ次は恋塚さん。よろしくお願いします」
「あ、ひゃいっ__!」
あ__。
なんか変な声が出てしまった。
そして湧き起こるクスクスという笑い声。
「〜〜っ!!!」
顔が真っ赤になるのがわかる。これだから自己紹介は嫌いなんだ。
自己紹介もまともに出来なくて笑われて、結局誰も私になんて構いはしない。
(あぁ…やっぱり私なんて__)
その時だった。綺麗な美声がクラスを巻き込んだのは。
「が、頑張ってください!!」
クラス全員が黙り込んだ。
その声の主は、先ほど告白してきたあの美少女。流石に百合も開いた方が塞がらなくなり、ただ彼女を見つめることしか出来なくなる。
(何で、私なんかに…)
それは告白された時も思ったことだ。
なんでこんな見た目も可愛くないし勉強も運動も得意じゃない私なんかを好きになったのか。
(…いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。人生初の恋人に恥なんてかかせられないよ!!)
いや恋人の話は後でちゃんと話し合うつもりだけど。でも現状彼女が恋人であることには変わりない(はず)なので、百合は彼女を守る一心で声を張り上げた。
「私!!恋塚百合って言います!!趣味は読書とホラー映画鑑賞!!特技などは特にありません!!これからよろしくお願いしますっ!!!!!」
精一杯声を上げ、自己紹介を終わらせた。
そして席に座り、羞恥心と対決を繰り広げる。
(やっっってしまったぁぁぁぁっ…!!!絶っっ対変な目で見られてるぅぅぅ…)
「あ、ありがとうございます!みんな拍手ー!!」
小さく、そしてぎこちない拍手で教室内が包まれる。
その瞬間に今すぐ消えてしまいたいという感情に至ったが、直後に一際目立つ大きな拍手が耳に入った。
真剣な顔で大きな拍手をする彼女。名前も知らないし性格も知らないし、正直何で告白してきたのかわからない美少女。その力強い表情を見ていると、自然と自信が湧いてくる。
(私のこと…受け入れてくれるんだ…。変な子だけど、ちゃんといい人なんだね)
まあ私も人のことを変な人呼ばわり出来るほど普通の人でもないけど。
でも百合の目には彼女がどうにも遠い存在に見えなくて、気づけばもっとお近づきになりたいと考えるようになっていた。
(後でお礼言っておかないと。あ、あと告白の件はみっちりと話をしないと…)
流石にいきなり恋人はやりすぎな気がする。私女だし…。
でも悪い気はしない。こんな可愛い子に告白されるぐらいの人間になれたということだから。頑張った甲斐があったというものだ。
(あ、顔赤くなってる。やっぱりちゃんと恥ずかしいんだ)
無敵の人かと思っていたけど、意外と普通なところもあるようだ。ちょっと親近感…。
(私もあれだけ可愛かったらなぁ…。まあ今更無駄かぁ。帰ったらお姉ちゃんに色々教えてもらお)
彼女に誇れる自分になりたい。
そんな気持ちを胸に、自己紹介の醜態を忘れることに成功した。ちなみ二分後に思い出して恥ずか死にそうになる。




