24 可愛いって言われてしまった…
洋服を見に来て数分後、百合が選んだ服を受け取り、葵は試着室に入った。
そして順番に服を脱ぎ、ちょうど上の服を脱いだ頃に一旦手を止めた。
(も、もしこの服が似合わなかったら…)
自分に自信がない葵は、彼女が選んでくれた服が全然似合わなかった時のことを想像した。
【え、全然似合ってない…。素材が悪いのかな…?ちょっと新しいの取ってくるから着替えてて…!】
そんな風に失望されたら…されたら…っ!!
(はぁぁぁ…っ!!ショックすぎて死んじゃいます…!!!)
絶望感は半端ないけど流石に死ぬは言い過ぎ。
しかし葵にとって百合に失望されるという事はそれに等しいぐらい辛い事で、今最も恐れている事だ。
(…でもそんなことも言ってられないですよね…早く着替えて見せないと…)
時間は有限。今こうして悩んでいる間にも百合の時間を奪っているので、彼女のことが大好きな葵はそれが許せなかった。
(とうとう勇気を出す時が来てしまったということですか…。緊張しますけど、百合さんのためならなんでもできる気がします…!)
彼女のためを思うと自然と勇気が湧いてくる。つまり何を言われようとも受け入れられるということだ。
そんなわけで葵は服を脱いで百合に渡された服に着替え、一度鏡で確認してみた。
(…すごい…これがオシャレ…!)
清楚さを意識したヒラヒラとした服装を見て、葵は心の底から百合に関心を抱いた。
(流石私の恋人…!私みたいな人でもオシャレにしてしまうなんて…!!)
まあそれは葵の容姿あってのものだが。というかそもそも選ばれた服が仮にダサくてもきっと葵はこれがオシャレなんだと認識するだろう。これが恋は盲目というやつ。
(こ、これなら自信を持って見せることができる…!!よし、行こう…!!)
鏡の向こうの自分に自信を見出し、葵は試着室のカーテンを開いた。
「おぉ…!」
「ど、どうですか…!?」
緊張の瞬間。反応を見るのが怖くて目を瞑ってしまうが、それは杞憂に終わる。
「すっごく似合ってる…!可愛いよ…!」
「っ…!!??…あ、ありがとうございます…」
「うん…!」
「………」
会話が途切れる。
沈黙が流れるにつれて気まずくなり、堪らなくなった葵はカーテンを閉じた。
(か、可愛いって言ってくれた…!!うぅ〜〜っ…!!嬉しいけど恥ずかしぃ…!!)
別に恥ずかしがる必要はないことはわかっているのに、身体が勝手に熱くなっていく。
(あ、あんな表情で可愛いなんて言われたら…もうどうにかなっちゃうそう…)
心臓のドキドキが止まらなくて、つい膝から崩れ落ちた。すると思いの外大きな音が鳴って、カーテンの向こうから心配の声が聞こえてくる。
【大丈夫!?なんか今すごい音したけど!?】
「大丈夫です…!!ちょっと壁ドンしてしまっただけですから…!」
【壁ドンしたの!?誰に!?】
「え???」
【へ???】
会話が成立しなかった。
しかしそれもそのはずで、葵は壁ドンの意味を理解していないのだ。彼女はこの程度の知識もないぐらい恋愛に乏しく、本当に今なんでデート出来ているのかわからないぐらいだ。
(うぅ…このままだと私の無知がバレちゃう…!せめて百合さんの前でぐらいは普通の女の子でいたいのに…!)
普通の女の子はほぼ初対面の女の子に告白なんてしないけどね。あと多分もう普通じゃないのは普段の行動でバレてるよ。
そんな都合の悪い話を忘れようとした時、カーテンの向こうから天使のような声が聞こえてきた。
【えと、あの、実は他にも葵に似合いそうな服持ってきてて…。もしよかったら着てみる…?】
「…!!是非…!!」
(私の彼女、マジ天使…!)
IQが極端に下がった葵は、特に何も考えずに百合に渡された服を着まくった。




